自分の名を呼ぶ大好きな人の声が聞こえて、音楽プレーヤーの再生ボタンを止めて外すと。「轟くん」と、前に見える彼の名を呼んだ。白い吐息が空に溶けていくのが見えて、嗚呼もう冬なんだな、なんて思いながら。お疲れ様、と仕事帰りの彼に告げた。

「冷えてるな。悪ィ、待ったか?」
轟くんはそう言うと、私の手を取って申し訳なさそうにそう言った。心配を掛けたくなくて、全然待ってないよ、と返したかったけれど。数十分の間、冬の外気で冷やされた手を取られたらもう何も言い返せなくて、へへ、と苦笑いを零す。
轟くんが触れた所から、じわりと体温が溶けていく気がした。

「…悪ィ、早く家に帰ろう。」
謝らせたかった訳じゃないのに、と思ったけれど。きっとこの無謀な言い合いは終わらないだろうから、そっと心の中に留めておく。「ん、平気だよ。帰ろ。」と笑いかけると。握っていた手が離されてするりと指が絡められる。

ぎゅ、と握られた手に。ふふ、と笑うと。轟くんは「どうした?」と不思議そうに聞いてきた。

「あのね、私、轟くんの手好きなんだ。」

言ってから、ハッとする。ぽろっと口に出した言葉が恥ずかしくて、こんなの学生の時以来口にしていなかったから。少し恥ずかしい。そう思ってると、轟くんはボソッと何かを告げた。
え、と思わず聞き返すと。今度はこっちを向いて、優しく微笑みながら、こう口を開いた。

「俺も、お前の笑ってる顔を見ると、心が暖かくなる。」

目を細めて、あまりにも優しい顔で言うものだから。ぼっと顔に熱が集まるのが、自分でも痛い程分かった。

そういうの、他の子に言っちゃダメだよ。そう呟いた言葉に、不思議そうに首を傾げた轟くんは。「お前以外には居ねぇから平気だ」なんて、続ける。
轟くんの事だから全部きっと無意識なんだろう、なんだろうけど。
このままじゃ、私の心臓が持たない。

「待て、顔赤いぞ。風邪でもひいたか?」

「ああもう、平気だから、平気だからおでこに手当てないで!早く帰ろう!」

振り切るように彼の前を行って、ぐいっとその手を引く。おう、と返した声が少しだけ笑いを堪えてるような気がして。ぐぅ、と言葉を飲み込んだ。

私ね、手も、声も。優しい所も。ちょっと変な所も合わせてね、轟くんの全部が好きだよ。そんなことを言ったら、明日の雪も溶けちゃうかもしれないから。心の中で我慢しておくことにした。








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