#hrak夢版深夜の真剣創作60分一本勝負様より
お題「特別」




「うわ、雨」

委員会が終わり、さあ帰ろうと昇降口を出た途端。視界を覆うぐらいの土砂降りに思わず肩を落とした。最悪だ、今朝天気予報のお姉さんが今日は一日晴れです!と明るい笑顔で言ってたから、お姉さんを信じきって折り畳み傘も置いてきてしまった。
かなり強い雨音に溜め息をつく。鞄を使うか、と思ったけれど。ノートが濡れるのだけは避けたかった。少し考えて、着ていたブレザーを脱いでばさりと頭に被った。雨の匂いが付くのは勘弁して欲しいけど、これしか方法が無い。すう、と息を吸って。ぎゅっと目を瞑り地を蹴った。行け、走るんだ私_!!!

途端、ブレザーを何かに引かれた。
「うわっ!!」と思わずバランスを崩して倒れそうになるのを ぽす、と誰かに受け止められた。
すぐにべりっとひっぺがされて、「濡れんに決まってんだろアホか、いやアホだったな」と聞き慣れた声が聞こえる。この声、そしてこの口の悪さ。まさか、と振り返って、思わずその名を呼んだ。

「ば、爆豪くん?」

なんでここに、と口にしようとした瞬間、カシュッという金属音に遮られて。黒の折り畳み傘を開いた爆豪くんは、私の方を見てから一言、こう言った。

「入らなかったら、殺す」

ザアア、と強くなり続ける雨音。
爆豪くんと帰るのなんて、いやそもそも二人で一緒に帰る空間も全部初めてで。何かの夢なんかじゃないか、と思った。そうして、横を歩く彼をちらっと見上げる。道路側を歩いてくれるところとか、意外と紳士なんだなあと思っていると。ぱちっと目が合って急いで逸らした。

「何見てんだよ」

「いや、あの ごめん、なんでもない」

凄く寒い筈なのに、顔に熱が集まってくのがわかる。手で扇いで冷まして、その時。ふと あれ、待てよ と頭の中でひとつの思いが駆け巡った。
爆豪くんって確か、委員会に入ってなかった気がする。あれ、そうしたら、下校時刻は私達より三十分前の筈で__
" ば、爆豪くん "と名前を呼ぶと、「ンだよ」と。短く返事が返ってきた。

「あの、さ えっと」

ぽつぽつと私の口から出てくる声は最早言葉にもなってなくて、「はよ言え」と聞こえてきた声に、うう、とぎゅっと鞄の持ち手を掴んだ。
絞り出した声が、自分でも笑うぐらい震えていたのを、今でも覚えている。

「待ってて、くれたの?」

「…るせえ」

ポソッと返された声が、普段の彼から信じられないぐらい小さくて。そっと見上げた先で、微かに赤くなった彼の耳に目を丸くした。
思わず口角が上がってしまいそうになるのを抑えて、でも堪えきれず。少しへへ、と笑みを零してしまった。

「優しい、ね 」

「るせえつっただろ」

" チッ、てめぇこれ持て "
ずい、と目の前に出された傘の持ち手に。何で、と口を開いた途端「いいからはよしろ」と急かされて、戸惑いながらもそれを受け取った。少し当たった爆豪くんの手が冷たくて、その冷たさに吃驚してる間に。爆豪くんは傘の中から出てすたすたと私の前を歩いてしまった。

「え、ま、待って!濡れてる濡れてる!!」

私の声なんか気にせず土砂降りの中歩き続ける彼の元へ、ぱしゃんと水溜まりを蹴って急いで駆け出した。





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