#hrak夢版深夜の真剣創作60分一本勝負様より
お題「君だから」






「ねえ、ねえ。上鳴くん、これ見た?」
" おー、見た見た。すげえよな。" 口にした声が上擦ってないか心配で、落ち着け、落ち着け俺と念じながら画面に目を向ける。此方に向かって白い歯を見せ笑うプロヒーローの姿に、いつもなら胸を弾ませるはずなのに。今はそれ所では無かった。ふわりと香るシャンプーの匂いとか、意外と小さいと感じる身長とかに意識が向くと。ピリ、と静電気が走った様な気持ちになって。いや なんかもう色々キャパオーバーで。

極めつけはこれだ。

「私、上鳴くんと友達になれて良かった。」

窓硝子に背を向けて、へへ、と小さく笑いながら。少しだけ首を傾げてそう言われたら。うん、狡くはないか、と正直思う。

「なあ、そういうの他の奴にも言うの?」

ぁ、やべ。声に出てた。そう思った時にはもう遅くて、赤くなってくのを、_ん?赤く?

"それは、ね えっと、"
珍しくしどろもどろになった声に、それは? と。気付いたら口にしていた。
落ち着かせるように軽く深呼吸をして、それからばっと顔を上げた太陽は、嬉しそうに笑いながら言った。

「上鳴くん、だからだよ」

ぎゅん、と雷に打たれたみたいな衝撃が俺を貫いて、目の前の可愛い其れを抱き締めるまで、あと数秒。




上鳴くん、と名前を呼ぶのが好きだった。好きな人の名前を呼べることが幸せなのもあるけれど、それよりも。「ん?」と振り向いてくれるあの声が、凄く優しくて。だから些細な事でも あのね、と声を掛けた。

"ねえ、上鳴くん、これ見た?"
「おー、見た見た。すげぇよな。」
プロヒーローの動画を見せて、画面を上の方に傾けるけど。それでも身長の高い彼が屈んでくれるのが、かっこ良くて。どき、と心臓が鳴った。当の本人は気付いていないみたいで、他の友達に呼ばれては ごめん、後でな と笑いながら行ってしまう。ぽん、と頭に乗せられた手に。また心臓がきゅう、と苦しくなった。狡い、そういう所が狡いんだ。

毎日が楽しくて、どきどきして、幸せだなあ、と思った。好きな人に好き、と告げなくても。いっそこのままでいいかも知れない、とも思ってしまった。
だから、それも全部、無意識に出たんだと思う。

「私、上鳴くんと友達になれて良かった。」

心の底から出た言葉だった。こんな私と友達になってくれてありがとう、という意味だったんだけど。上鳴くんからの返事は、思っていたのとだいぶ違かった。

「なあ、そういうの他の奴にも言うの?」

へ、と思わず顔を上げる。目に映ったその表情に、ギュッと心臓が苦しくなった。上鳴くんは、少しだけ頬が赤らんだ、普段見た事も無いような真剣な顔で私の方を向いていた。反射的に顔を伏せて、何か言わなくちゃ、と口を開けるも。出てくるのは「あの、」とか、「えっと」とかボロボロ崩れた言葉で。嗚呼、ダメだと首を振った。今度こそ、こんな時こそ、ちゃんと言いたい。そう思って、ぎゅっと目を瞑り。深呼吸をした後。覚悟を決めて、それを口にした。

「上鳴くん、だからだよ」

いつも呼んでるはずの名前なのに、口にした途端、全身に電流が流れてくみたいにビリッとした。
ドキドキと胸が高鳴って 、まるで魔法みたいだと思った。

ごめん、忘れて と告げる前に彼に抱き締められるまで、あと数秒。





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