はじまりは、サイダー味
「ふう、疲れたねえ」

三限目の、終業のチャイムが鳴り出した。
前の席のお茶子ちゃんに振り返りながらそう告げられて、"ね、疲れたね"と頷き返す。
教室のみんなもざわざわと話し始めたり、席を立ち始めたりして。うぅん、と私も後ろに体をいっぱいに反らし腕を伸ばした。

確かに少し疲れた気もする。ただでさえ雄英高校は入るのが大変だったんだから。テスト勉強も早いうちにしなくちゃと考えながら。ふと、視線を外に移した。教室から見える桜は綺麗だったらしいけど、生憎私はそれを見た事が無い。
来年、見れたらいいなあなんて頬杖を着きながら思っていると。とんとん、と肩を叩かれた。

振り向くと同時に、ほっぺにぷにっと指を当てられる。"引っかかった〜" と言って笑うお茶子ちゃんに、止めてよとけらけら笑い返した。

「…はあ、混ざりてえ」

ボソッと呟かれた声に、聞き間違いかと思って振り返る。"あ、あ〜…悪ぃ、気にしないで" と、そう言いながらひらひらと手を振る瀬呂くんにわ、分かったと頷くと。瀬呂くんの影でじたばたと動いてる小さな影が見えた。
あの独特なぶどうみたいなシルエット…もしかして… 。
"はいはーい、気にしないよ〜"と呼び戻されたお茶子ちゃんの声に、はーいと向き直る。

「あ 綿ちゃん、飴いる?」

「え!いいの!ほしい!!」

そう言った私にお茶子ちゃんは嬉しそうに よし来た任せなさい、とバッグの中からポーチを取り出すと。目を瞑ってひとつ選んでと差し出してきた。
言われた通りに目をぎゅっと瞑って、端の方にある一つを手に取る。
見ちゃダメだよ、当てるゲームだからねという言葉にうん、と頷きつつ包装紙を開けて、ころんと口に放り込んだ。
ぱちぱち、と微かに感じる炭酸ぽい甘い味に。あ、サイダーだ、と言うと。「えっ、じゃあシークレットだ!」と返された。

「え、ほんと!?」

「最初からシークレット取るなんてやっぱ綿ちゃんは違うね、ふふ、私は分かっていたよ」

「あはは、何言ってんのお茶子ちゃ_」

その時、突然スパァン!!と教室のドアが開けられて、反射的にビクッと耳を塞いだ。ビリビリと鼓膜が震えて痛い。何、何今の、誰か喧嘩した?振り返り見ると、音の原因は教室の扉のようだった。
もくもくと、ほんの微かに白煙が出ている。

え、なに今扉爆発した?

なんだなんだと教室がザワついてきた中、男の子達と輪になって離していた切島くんが「鉄哲じゃねェか!」と嬉しそうに立ち上がった。

て、てつてつ?
凄く噛みそうなお名前、…聞いたことあるような、無いような、そう思いながら視線を扉の方へ戻すと。

「お!切島じゃねェか!」
そう言って白煙の中から出てきたのは、多分切島くんに呼ばれていた、鉄哲くん、という人だと思う。切島くんより少し背が高くて、少し硬そうな銀色の髪と、長い…睫毛…かな。あれはなんなんだろう。
二人は傍に寄ると、よっ!とまるでハイタッチをするようにガツンと腕を合わせた。金属をぶつけた時みたいに ガチン!と音が教室に響く。き、切島くんは硬化の個性があるからわかるけれど… その切島くんと同じくらいの硬さって、一体_

そこまで考えて、多分鉄だろうなと自己解決した。

"お、居た居た" そう告げる声が聞こえて、なんの事だろうと視線を向けると。ぱちっと鉄哲くんと目が合った。

あ、目合っちゃった。そう思った途端、鉄哲くんはくるりと爪先の向きを変えた。

ん…!? まさか、此方に向かってくる!?

「お前がA組の転入生か!」

わ、わあ…背もそうだし声も大きい。ビクッと思わず肩が震えるも。は、はいと答える。
初めましての人だし、…多分、自己紹介とか、した方が良いよな。

「は、は、はじめまして。えっと、日辻 綿 です!」
「日辻か、俺は1年B組ヒーロー科!鉄哲徹鐵!」

ん、と先程と切島くんとしていたように腕を向けられて、え、あ、え、と慌てていると。
私が戸惑っているのに気付いたのか、腕では無くパシッと握手をされた。

私よりもずっと大きくて、少し硬い手に握られて。
へ、と思わず目を丸くする。

顔を上げた先で大きな三白眼と目が合った。鉄哲くんはそのままニッと口角を上げると。「次会った時はライバルだからな、よろしく頼むぜ!」と大きな声で告げた。

う、うん!よろしくね、 そう返すと。
なんとも言えないタイミングで、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り出した。

「じゃあここらで帰るとするか。目的は偵察だったしな」

「て、偵察…」
言われた言葉に思わずぽかんと口を開ける。
"その前にお前ドア壊すなよ"と、後ろの方から小さく峰田くんの声が聞こえた。

壊さねェよと言いながら扉に手をかける鉄哲くんに、ま、待って!と呼び止める。
振り返った鉄哲くんの顔は、少し驚いているみたいだった。
ごくりと、飴が溶けて甘くなった唾を飲み込み、前を向く。
「ま、負けない、から!」
B組の事は、前に先生から聞いている。
頭の切れる女の子も居るし、団結力もあるクラスだ。でも、そんなことを言ったらA組だって負けてない。

そう言った私に、鉄哲くんはおう!と笑い返してくれた。

もう少しで終わりそうだったサイダー味の飴が、口の中でぱちんと弾けて割れた。






これは、春が幸せを掴むまでの物語
prev * 2/3 * next
| TOP | #novel数字_NOVEL# | LIST |
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -