"レモネードでお待ちのお客様"という可愛い店員さんの声に、はいと返事をして取りに行く。
お金を払って出たお店の外で、壁に背を預ける東堂くんにお待たせと声をかけた瞬間、そのすぐ後ろに見えた、よく見なれた顔に、あ。と声が漏れた。
「虎杖くん!」
「何っ!?」
「あ、東堂と名字じゃん。久しぶりー… 名前、どした?」
うちの彼氏の0距離フルボイスを舐めないで欲しい。キーン…と脳に反響するのを感じつつ。耳を抑えながら「耳がやられた」と一言告げると、それを聞いて察したのか、まあ東堂だもんなと笑われた。
「ふっ、流石はブラザー」
"それでいいの?東堂くん" 差し出された東堂くんの手を借りて立ち上がりながらそう言うと、何がだ?と首を傾げられる。
「いや、なんでもないよ。今日の投稿の高田ちゃんも可愛かったね」
「そうだろうそうだろう!高田ちゃんはいつ如何なる時も可愛い、名前も分かってくれて嬉しいぞ」
うんうんと頷きながら言われる、聞き慣れた言葉に。へーへー と適当に相槌を打ちながらレモネードを飲んだ。一体、この人は何回言い続けるんだろう。好きな人の趣味は肯定したいとしても、何回も自分じゃない人を可愛いと言われたら、彼女としては色々と複雑だ。
少し気分を変えよう。
虎杖くんに向かって今日はどうしたの、と告げると。どうやら伏黒くんと野薔薇ちゃんが任務で居ないから、適当にコンビニで買い物をしてたらしい。帰ってきたら菓子パすんだぜ、と笑顔でレジ袋を見せられる。相変わらず仲が良くてほっこりするな、と思っていると。あれ?と突然、虎杖くんが目を丸くした。
「もしかして名字、髪切った?」
「え、分かる!?どう?似合ってる?」
するりと髪を手に取られる。いいんじゃね、似合ってると眩しい笑顔で言われて、"ありがとう"と返す。こういう所が虎杖くんのいい所だよなと、思わず此方まで笑顔になった。
途端、服の襟をくんっと後ろに引かれた。為す術もなく後ろに倒れ_否、ぽすんと、背に柔らかい感触がする。東堂くん?と、不思議に思いながら振り返ると。
いつも見せないような、少し怖い目に驚いた。
"すまんブラザー"
え、それは突然首を絞められた私にではなく?と思わず聞き返しそうになったのを、グッと堪えて我慢する。何がすまん?
「ん、良いって。俺も悪かったな」
「え、それってどういう」
「あっ悪ぃ!伏黒たち待たせてるから行くわ!またな!」
え、待ってと口に出る。伏黒くんと野薔薇ちゃん、今日は任務何じゃないの _ そう言おうとした時には、既に虎杖くんの後ろ姿は目を細める程小さくなっていて。そういえば虎杖くん、めちゃくちゃ足速いんだ… と、分かりきっていた事実を再度認識した。
腰に回された手が外されて、漸く解放される。
振り返ると、地面にしゃがみ込む東堂くんが目に入った。同じようにしゃがみ込むと、項垂れた首が微かにぴくりと揺れる。"東堂くん、"と、名前を呼んだ。
「もしかして、妬いてくれた?」
返事はひとつも返ってこない。目線を合わせようと覗こうとすると。正反対の方へと顔を逸らされる。ならば反対を、と覗こうすると。また逸らされ続ける。
なんでよ!と言った瞬間、大きな手が頭の上にべしっと乗せられた。何すんのと言おうとした瞬間、そのままわしゃわしゃと混ぜられる。
「ちょっと、ま、」
「…」
「えぇーい!!!やめんか!!!!」
べりっ!!と力任せに両手で取ると。乱れた数本の髪が降りてくる。その髪の奥で、やっと目が合った。
その瞬間、腹を決めたのか。東堂くんはゆっくりと口を開き始めた。
「…ブラザーは俺の親友だ。」
「そうだね、うん。知ってるよ」
驚愕した顔で見られる。いや、そんな顔しなくても。あれだけブラザーブラザー言われてたら分かるでしょ。"お前も馬鹿じゃなかったんだな…"と呟かれた言葉に本気で殴ろうかと思った。
東堂くんは はー… と大きく息を吐くと。大きな手で顔を覆った。
図星だったのか、まさかの思ってもない反応に。思わず頬が緩む。
「…でも、私は嬉しかったよ?」
「やめろ。らしくもない。」
らしいとからしくないとか、そんな重要かなあと空を見上げる。俺にとっては重要だ。と言いながら立ち上がった東堂くんに ふーんと返しながら。氷が溶けて少し味の薄くなったレモネードを一口飲み込む。
「名前」と呼ばれた声に、はぁいと返事をする。
「今言った事は全部忘れろ」
少し振り向きながらそう告げられた言葉に、絶対嫌だねと舌を出し笑い返した。
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