三楽章




私はキョロキョロと辺りを見回して、私の目の端を掠めていったものの正体を見つけようとした。正体はすぐに分かった。ブーン…と微かに聞こえる羽音。音のする方に目を凝らすと、そこには蜜蜂が一匹―――それもキラキラと金色に輝く蜜蜂が、その場に止まって浮くように飛んでいた。

私はそっと蜜蜂がいる方へ近づいた。触覚からお尻の針の先まで虹色を帯びた金色で、羽はべっこう細工に金箔を散らしたようだっだ。その体が、昼時の日の光を浴びて微妙に色を変えながらキラキラと輝いている。まさに息を呑む美しさ。私は思わず口を半開きにして、蜜蜂を見つめていた。

蜜蜂はしばらく私の前でふわふわと軽やかに飛ぶと、微かに羽音をさせて飛び去っていこうとした。その時私はやっと気づいた。

金色の蜜蜂。私は今、この町の守り神を見ていたのではないかと。

直感とも言えるその考えに、私の体は自然に突き動かされ、気が付くと私の脚は金色の蜜蜂を追って町を駆けていた。

蜜蜂は私の走る速度に合わせるように飛んでいた。通りを何本も抜け、何人もの人々とすれ違い、たまに蹴躓きながら私は蜜蜂を追いかけた。ほとんど蜜蜂だけを見つめて駆けていた。


ずっとずっと駆けてやがて町の外れまで来ると、蜜蜂の羽音に混じって私の耳に一つの調べが流れ込んできた。



踊れ踊れ 春の歌

新しい風に上着翻して

緑萌える大地踏みしめて……


それは紛れもなく、私が町に来るまでに口ずさんでいた春の歌だった。まだ誰にも聞かせたことの無い、私だけが知っているはずの歌。それが蜜蜂の羽音に混じって聞こえてくるのだ。気のせいだと思った。それでも私は蜜蜂の歌に答えるように、息切れする声で、自分もそれに応えるように歌いながら駆けた。



届け届け 春の歌

眠りの季節の終わり告げて

はじまりの季節の喜びのせて………





町を抜け、花畑に出た。私はそこで蜜蜂を見失ってしまった。荒い息を整えながら辺りを見回すと、そこには一面春の花が咲き乱れていて、金色では無いものの、無数の蜜蜂が飛び交っていた。町のすぐ近くにある花畑ではあるが、未だ手付かずの、生命の躍動を感じさせる広い広い花畑だった。

こんなに広い場所で見失っては、あの小さな金色の蜜蜂を再び見つけるのは不可能だろう。しかし、この美しい景色を前にしてそのまま帰るのは勿体ない。私は花畑の中をしばらく歩き回ることにした。

そして程なくして、花畑に佇む一人の少年を見つけたのだった。

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