ミカンの筋と煩悩と


大晦日も夜の11時をまわり、今年がもうすぐ終わるころ、私は私の住まいである白蓮荘の居間で、こたつミカンという冬のこの上ない幸せを味わっていた。

「早いものだねぇ〜。私が島に来てからあと1ヶ月ちょいで一年経つんだなぁ」

「洪水明けたと思ったらすぐ年が暮れるなんて、忙しいねぇ〜」

紅白を見つつミカンをパクパク食べ続ける私とウコバクちゃん。こたつには他に、飲み過ぎて珍しく潰れてしまったモラクス、小さく丸くなって眠るシロ、そして…

「クランプスさぁ、それすっかりハマっちゃったでしょ」

「うるせぇ、今話しかけんな。手が滑る」

つい最近我が家にやって来たクランプスさんがいた。因みに彼がハマってしまったらしいのは、ミカンの白い筋を綺麗に剥がすことだ。実際に会うまで怖いイメージしかなかった彼が、長い爪を駆使してチマチマと筋を剥がすところを見るとどうしても笑ってしまいそうになる。それはウコバクちゃんも同じらしく、口の端がヒクヒクしている。

「おい何だよ、そんなに可笑しいかよ。ミカンの筋剥がすのがそんなに可笑しいかよ。」

声に怒気を滲ませながらも決してミカンから目を離さないクランプスに、ついに私達は吹き出してしまった。

「ぶっは…!、だってさぁ…だって、串刺しだ皮剥ぎだ、って、いつも言ってるクランプスがさぁ…長い爪器用に使ってチマチマチマチマ…ぶっふぅ…」

「ぷっ…そこまで一つのミカンに時間かけなくて良いと思うんだよね…」

「うるせぇ…!お前この爪がなんのためにあると思ってんだ!」

「背中の痒いところ掻くためじゃないの?」

「少なくともミカンの筋剥がすためじゃあないと思うんだよね、アタシ…」

「俺は自分の持ってるものは全て駆使する。たとえそれがミカ…」

「あっ、今年は紅組勝ったんだね!」

「話聞け!」

「あ、ホントだ、…というかもうこんな時間か。もうすぐ『行く年来る年』だな…リモコンどこ?こたつから出たくないんだけど」

「シルファ、チャンネルそのまんま」

そんなとりとめも無い話をしてると、テテテテテッと足音がこちらに近づいてくるのが聞こえた。ロゼッタだ。

「シルファー!除夜の鐘鳴らしに行こ!」

「ロゼッタ、まだ起きていたのかい?」

「うん、除夜の鐘鳴らして、甘酒飲むの!ぼんのうの数だけ鳴らすんでしょ?」

「そうだよ、108回鳴らすんだよ。煩悩なんて言葉、よく知ってるね。意味わかってる?」

「うん、知ってるよ!ぼんのうっていうのは、シルファがいつも『ウコバクたんハァハァ』って言ってるのと同じことだって教えてもらった!」

「待て待て待て、全然違うし、ちょっ…ウコバクちゃん、そんな目で見ないでよ!!ロゼッタ!それ誰に教わった?アネッタお姉ちゃんじゃないよね?」

「えっとね、カボチャのジャ…」

「カボチャ頭あの野郎パンプキンパイにしてやる!!」

こうして、私はこたつから飛び出すとカボチャの駆逐という今年最後の仕事に向かったのだった。

良いお年を。


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