T
森の奥深く。人が入りこまないような奥深く。木漏れ日にが辺りを優しく照らし、澄んだ小川が流れ、吹き抜ける風に木々がざわざわと笑い声をたてる場所。そこは私の大切な守るべき場所であり、私そのもの。私はこの森が生まれたときにいつの間にか存在していて、それ以来ずっとこの森を独りで守っている。いわば守り神。私はずっと、ここを大切に大切に護ってきた。
けれど、長い時間の流れの中で、木々は伐られ、山は削られ、次第に森は小さくなっていった。
人間のせいだ。人間が自分達の欲を満たすために、必要以上の木を切っていき、そこにどんどん建物を建てていった。
私は守り神としてこの森を護りたかった。だから森に入ってきた人間を容赦なく殺していくようになった。人間のせいで木が無くなったから。人間のせいで花が枯れたから。人間のせいで動物たちが死んでいったから。人間はいつも自分達のことしか考えていないから。こちらが傷つけられたらその分思い知らせてやらねばならない…
◇ ◇ ◇
疲れた。とても疲れた。
私は森の一番奥深くの、自分しか知らないたんぽぽの花園に座り込んでいた。疲れて疲れて仕方がなかった。
昨日は何人殺しただろう。今日は何人殺しただろう。明日は何人殺すだろう。この手のひらは、最近ずっと血に汚れている。背中の白刃の翼が重い。
――こんなはずじゃ無かったのに――
昔は、森と人間は仲良しだったのに。昔は、人間達は楽しそうに森の中を歩いて、木々と一緒に歌っていたのに。私も、人間達に心地よい風を送り、果実を分けたりしていたのに。なんでこうなってしまったのだろう。
私はそのまま、たんぽぽの群れにうずくまり、やがて眠ってしまった。
◇ ◇ ◇
ザァッと、風が吹き抜けた。
あれからどのくらい眠っていたのだろう。私はうっすら目を開けた。
吹き抜けた風はたんぽぽの白い綿毛を空に舞い上げ、辺りは雪でも降っているような幻想的な景色だった。どこかぼんやりした心地でそれを眺めていると、私はその空間に私以外の誰かがいることに気がついた。
人間の、少女だった。
|