ビキニパンツと伝家の宝刀


ごろんとソファーに横になって雑誌を読む。雑誌はソーウィン特集でオレンジと紫をベースにカラフルなデザインだ。アバコンも近い。芸術祭もあっという間にやって来る。みんな初めてのイベント。楽しみで楽しみで仕方ない。だが…

「ソーウィンまであとちょっとか…。ん、え、あれ、ちょっとまって、嘘!」

私はソファーからガバッと起き上がった。今私が見ていたのはアバコンの記事。私は今回も文豪部門で参加しようと思っていたのだが…

「文豪部門…今回無いんだ!?」

今回もあるだろうなぁと思って、早とちりしてた私が悪いのだが、駄作とはいえ寝不足になってまで書き、オセやダンタリオンに添削してもらった小説を出せないのは痛かった。まぁそもそもアバコンなのだから、小説よりもコーディネートに力をいれるべきなのだが…。

「オセちゃんとダンちゃんに申し訳ないなぁ…」

ボソッと呟くと、雑誌を覗きこむ影が3つ。

「あー、やっちまったなぁ、だから早とちりはすんなって言ったのにバッカだなぁオメェ」
「これはもう目に見える形で償うしかないな!」
「どんなに新しい案が無くても、アタシのドールを隣に置いて、こっぱずかしい駄文添えて参加するのはやめてよね」

アロケル、マスティマ、ウコバクちゃんだ。ウコバクちゃんの言葉に若干凹みつつ、私はアロケルとマスティマに聞き返した。

「目に見える形で償うって?」
「これだろ」

マスティマがページを指差す。

「『奇抜アナザー部門』…?」
「あれだろ、つまりいかに変態な格好するかだろ?」
「ここで思いっきり恥かいてきやがれ」
「待った待った、奇抜と変態ってかなり違うし!そもそも償いになってないから!」

助けを求めてウコバクちゃんを見ると欠伸をしていた。可愛い。可愛いけれども!そこは助け船を出してほしかった!

「オメェさぁ、なんかおもしれぇ服持ってたよなぁ?髭眼鏡とか」
「ワイルドな方のビキニパンツとか…、かなりギリギリな感じのやつとか…」
「わー!わー!わあああぁぁあ!」

咄嗟に二人の声を掻き消そうとするも、ウコバクちゃんの耳にはもう入ってしまったようだ。

「え、アンタそんなもの持ってたの?そんな趣味あったの?いつもあんなにキザったらしい服着ておいて?」
「誤解だよ誤解だよ!ノマガチャが変なデレ方してビックリして、そのままタンスに突っ込んじゃったんだよ!初めて見たんだよ!アウトローすぎて誰も装備してないんだよ!あれ!」
「じゃあ、それ着たらインパクトすごくね?」
「ダメダメ、あれは伝家の宝刀だから!もっと切羽詰まってどうしようもないときに着るんです!」
「それを伝家の宝刀にしちゃうアンタの方がダメだから!仮にも聖戦でアタシに言い寄ってたヤツがそんなこと言わないでくれる!?」
「ごめんよウコバクちゃん、錯乱しすぎた…」

ウコバクちゃんの言葉で少し落ち着きを取り戻した私。しかしアロケルとマスティマはまだうるさく騒いでいる。こうなったら…

「うん、決めた。アロケルとマスティマがこんなに素敵な案を出してくれたんだから、思いきってビキニパンツ着ようかな?」
「え…」
「お…マジで!?」

驚く二人に向かって私はにっこり微笑み更に続ける。

「そうだ、折角だから、素敵な案を出してくれた二人のドールと一緒に出場しようかな、うん、そうしよう」
「…」

見る間に青ざめる二人。ビキニパンツの私の側で楽しそうな表情をしてる、自分のドールでも想像したのだろう。あるいは、私の笑顔とは裏腹の声のトーンを聞いて。

「…前言撤回で」

二人して逃げるように部屋を出ていった。

残されたウコバクちゃんと私。ウコバクちゃんが心配そうに私の顔をこんだ。

「シルファ、まさかホントにやるんじゃ…」
「まさか。一応候補はザックリ考えたから心配しないで。それに本当は、あの二人のドールだって持っていないんだよ、私は。」

私は、そそくさと部屋を去った二人を思い出してクスクス笑った。そして、結局一番の伝家の宝刀は有無を言わせぬ笑顔と低いトーンの声のコンビネーションなんだなぁと思ったのだった。

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