世知辛い世の中ですね


「ダメです」
「いえ、そこをなんとか」
「そんなお金うちにはありません」
「しかし何もそこまで食費を削らなくても」
「ダメったらダメです。充分多いですよ、食費」

白蓮荘ダイニングにて。この家で台所を任されることの多いニスロクは、主であるシルファとテーブル越しに向き合っていた。

「え、うそ、あのニスロクさんがシルファに圧されてるよ」
「いつもはシルファがニスロクさんに言いくるめられたりする側なのに」
「シルファ、家計のこととなると一気に変わるよね」
「オカンだね」

陰で二人を見守りながらヒソヒソ話しているのはバルバトスとアラストル。自分の主人のいつもと違う頑なな様子を面白がって見物していた。

「ニスロクさん、塔のアバターが変わってから我が家はピンチなんです。追い討ちをかけるように値上がりする食材…。それにこのボロ屋敷の維持費だって、バカにならないんです。あまり食費にgold取られたくないんです。今月末にはソーウィンがあるから大量にお菓子作らなければならないですし!」
「シルファ、私は料理人として美味しいものを皆さんに食べて欲しいんです。それには最高の食材を使っ…」
「最高の食材使って作る料理が美味しいのは当たり前です。安い食材でも美味しいものを作るのが優れた料理人ですよ」

ぴしゃりと言い放つシルファにニスロクは、うっ、と言葉を詰まらせた。

「大体貴方はやたらお洒落で長い名前の料理のレパートリーが多すぎるんですよ。なんでしたっけ、この前のミレ…ミレリーゲ…」
「ミレリーゲ・アラ・パンナ・コン・イ・ブロッコリですね。気に入って頂けましたか?」
「いや美味しかったですけども…!横文字料理だけでなくもっと庶民的で慎ましやかな料理も覚えてください!鯖の味噌煮が作れないからって、鯖のムニエル出すとか、やめてくださいよ!ムニエルって小麦粉使いますよね!?高いんですよ、小麦粉!!」

完全にオカンモードに入った主人を見て、陰から見ていた二人は溜め息をついた。

「…普段からあのくらい強気でいてくれたら良いのに」
「そうだよね、やれば出来るのに、何でいつもモラクスとかの尻に敷かれてるんだろうね…」

二人の呟きをよそに、シルファの勢いは止まらず、結局その日はニスロクが言い負かされ食費を半額にすることに話は収まった。

アラストルは半額になった食費でも、クリームシチューの材料を買えるくらいの額はあると分かって、ホッとしてからその場を去ったのだった。

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