家内安泰の黄金比


『第一回男だらけの白蓮荘会議』。紅茶を飲みに来ただけだったのに、私は突然その会議に巻き込まれることになった。

「…で、男ばかり集まって何を話し合っているんだい?」

「…シルファ…、今お前が連れているデビルが全部で何人いて、その内何人が男なのか…把握してるか?」

私の質問には答えず、質問返しをするマスティマ。

「もちろん把握はしてるよ。全員合わせて83人で、男は22人だろう?」

「で?」

「え?」

「で、お前はどう思うのかってことだよ」

「え、どう思ってるって…」

「男女比ヒドイとか思わない!?女多すぎじゃないか!?男の三倍いるんだぜ!?」

「あぁ…そういうことか…」

言われてみれば…というか、それは私も常々思っていた。しかし、そもそも現在四月島で確認されているデビルは女性の方が多い。まぁ、白蓮荘ほど男女比に偏りはないが。

「そこでだ、シルファ。次からソウルストーンの解放を男性優先にしてほしい。そうだな…男女比がせめて2:1になるまでだな」

「えぇっ!?無理だよ、今持ってる解放してないソウルストーン、皆女性デビルだよ!?」

ムリムリ、と、手をぶんぶん振る私を見た彼らは、皆悲壮な顔つきになって必死に訴えて来た。

「おい、知ってるかシルファ。女どもはな、俺の角に布切れ巻き付けて、タンスの隙間とかを掃除させようとするんだぞ!?」

マスティマ…、それはお気の毒に。何かの文献で読んだのだが、確か島の外にそんな掃除道具があったような。マツイボウとか、そんな名前だった気がする。

「女性がらみの問題…私の場合は、『綺麗だから髪飾りに使わせて!』と、羽をむしられたりすることでしょうか。滅多に飛ばないとは言え、あまりいい気はしませんね…」

あ、やっぱり羽はNGでしたか、ニスロクさん。それにしても、やっぱり女の子って身だしなみ気を使うよね。

「ジブンは、『何やらしい目で見てんのよ!!』って言われるっス。チラッと見ただけなんっスけどねぇ…」

オリアス、それ、よくあるよくある。あるあるだよ…。

「あとさぁ、女の子ってなんであんなに甲高い声で喋るのかなぁ?僕、ただでさえ耳大きくて音には敏感なのに、あの声で耳元半径2メートルで喋られてごらんよ。耐えられないから…」

ベヒーモス、お前もか。

同情しながら聞いているうちに、それは会議からだんだん愚痴り大会に変わっていき、収集がつかなくなった。あっちこっちで女性への不満の声があがっている。もう誰も私を見ていない。

その様子を見て、これからのソウルストーン解放の方針に頭を悩ませ始めた私は、ある一人のデビルに目が止まる。

「ウァサゴ、君は皆には加わらないのかい?」

インキュバスまでもが愚痴り大会に加わっている中、ウァサゴだけは一人静かにコーヒーを飲んでいた。

「私は特に女性に対して不満はないのでね」

穏やかに微笑むとウァサゴは私にコーヒーを勧めてきた。私は彼の隣に腰かけると、カップとソーサーを受け取った。

「女性は確かに口うるさいかも知れないが、細やかな心遣いができる。私たち男性は、知らず知らずその心配りに助けられているだろう。それだけではない。男の数が少なければ、男は今日のように団結することができる。…団結の方向性が微妙にズレてはいるが」

「やっぱり君は大人だね、ウァサゴ」

「ふふ…、それに…」

ウァサゴは大騒ぎしているデビルたちに目を細めてつづけた。

「男は、女性の尻にひかれている位がちょうどいい。そのほうが家の中は安定するものだ」

一度妻を失いかけた彼だからこそ言える言葉なのだろう。私はウァサゴの顔を見た。その表情はどこか幸せそうだった。私はしばらく彼とコーヒーを飲みながら、デビルたちを眺めていた。

そしてしばらくして、あることに気付いた。

「そういえば、レヴィアタンがいないじゃないか。男の中で彼だけ見当たらないんだが」

私がそう呼びかけると、何人かは『ああ、そういえば』と、周りを見渡しているが、デビルの半分はきょとんとしている。私は、『もしかして…』と、ある可能性を考えていた。やがてアミーがデビルを代表してある疑問をぶつける。

「彼女は女性だろう?」

私が答えようとするとそれより先にアラストルが答えた。

「レヴィさんは男だよ。…僕と同じくね」

その声には同情がこもっていた。デビルたちはしばらくシンとしていた。そのとき、レヴィアタンその人が部屋に入ってきた。

「やはり屋外での水浴びは格別だな……ん、皆集まってどうしたのだ?」

彼の言葉にデビルたちは気まずそうに視線を交わし、そそくさと部屋から出て行った。こうして、自分たちより遥かに不憫な境遇にいる者の存在を知り、第一回男だらけの白蓮荘会議は幕を閉じたのだった。


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