私と塔と金融危機と
贖罪の塔は、死んだように眠っているというアリス、そして真の魔女・ミセリア様に会うために、多くのアナザーがその高みを目指す塔だ。レベルによる制限によりなかなか進むことのできない、試練の多い塔だ。
そしてそんな贖罪の塔に対する私の価値観は新たなソウルストーンに出会うことにある。そしてそれ以上に…
「さぁ、今日も稼ぎますよ!」
お金だ。
月に一度、少量のマギオを生成できるかできないか程度の貧乏アナザーの私にとって、goldや売却用装備の宝庫である贖罪の塔は崇めるべき財産元だ。贖罪の塔様様である。ちまちま貯めたgoldで買った一つのエリクシルは、マギオ生成時にもらうエリクシル十個分より美味しい…気がする。
「そういう訳だから、今日も同行お願いします、マンモンさん。あと、今日はアミーもよろしく」
私は贖罪の塔へ行く準備をしながら二人に声をかけた。私は、塔を登るときは必ず誰かデビルを連れて行くことにしている。目的のフロアまで一人で黙々と登っていると、疲れるし気が滅入るからだ。少なくとも私以外に二人は連れていきたい。で、リビングで一人コーヒーを飲んでいるアミーに白羽の矢が立ったのだ。
因みにマンモンさんはいつも一緒に連れて行く。マンモンさんがいると助かる…なんてことはないけれど、お金と言えばマンモンさん、マンモンさんと言えばお金、という私の勝手なイメージで来てもらっている。
アミーはコーヒーカップ片手にフッと溜め息をついた。
「この面子ならば安心してお前のお守りができそうだな…」
「ちょ、それどういう意味…!?」
「前に塔へ行ったときは、妾とアミー、お前の他に問題児がいただろう。その時に比べたら楽ということだ」
マンモンさんも言う。
問題児…、あぁ、アロケルか。たしかに勝手に行動されて大変だった。
いつもの様に軽口を叩きあい、いつもの様に準備して塔に到着。そしていつもの様に稼ぐはずだった。
3階。ここではアクアレイピアを手に入れるはずだった。しかし探しても探してもない。
「お前はおっちょこちょいだからな。また道を間違えたんだろう。もしくは忘れたのか」
「酷いなアミー。3階へは毎日来てるから、流石に道順は暗記してるよ!」
「それは妾も保証しよう。妾も毎日来ているからな」
「しかし現に私たちはもう3週はしてるぞ?3階を」
諦めて別のフロアへ。7階のソロモンのマントは無事入手。しかしその後、18階プリムロッド、19階プルソンの古文書が相次いで見つからないという事態に。
焦る私。青ざめるマンモンさん。平静を装うアミー。塔を登ったり降りたりで、三人ともヘトヘトだ。特にマンモンさんは目が座っていて「お金…お金…」とうわ言の様に呟いている。重症である。
そして28階、ゼパルの赤兜。そこに兜が無いと分かった時、ついにマンモンさんは、糸がプツンと切れたよう、その場に崩れ落ちた。私とアミーが慌ててマンモンさんを支えたが、どうやら気を失っているようだ。恐るべし、お金への執着心。
「シルファ、そろそろ体力が切れるだろう。戻って、ウィッカのアナザー達に話した方が賢明だろう」
「そうだね…」
私とアミーは二人でマンモンさんを支えながら、トボトボと塔を下りた。
その後私はウィッカ広場で、塔に配置されていた装備やソウルストーンが変化したことを知った。そして装備の多くは今までより安価なものになったことも知った。
マンモンさんはそれから暫くウンウン唸って寝込んでいた。我が家に入ってくるお金が激減したためだ。
私は塔を恨めしげに見上げた。
塔は、
「俺を金づるとして見るな。少しは俺の高みを目指してみろ」とでも言いたげに、私の目に映ったのだった。
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