誰かが言っていた
あの子はもう終わりだ、と。
気づいていなかった訳ではないけど、その事実から必死に逃げ続けていたのだ。
今日も深い闇が空を包んでいた。
部活帰りのお見舞いは名前の唯一の楽しみらしい。本当は日に日に弱っていく名前を見たくはなかった。だけど、危ういと知っている以上、嫌だなんて言えなかったのだ。
ドアをノックすると、はぁい、と名前の声がした。
気を引き締めていかないと俺の涙腺は確実にゆるむ。
「名前、調子は?」
「ふふ、いまいちー」
いまいち、か。軽めに言う名前の事だからかなり具合が悪いのだろう。
「あのね、蘭丸」
「ん?」
名前はゆっくりと立ち上がった。色んなチューブやらがぷらん、と揺れる。
「お願いがあるの、星が見たい」
「ばか、元気になってからな」
名前はきっと睨むと言った。
「私は私を知ってる。もう長くないのも知ってる」
絶句した。絶対に気付かれぬように隠してきたのに、コイツは気付いていたと言うのか。
「今日は特別なんだから、お願い」
「分かった。そのかわり羽織れ」
えー、暑いよ、と言いながらさっきの言葉は嘘みたいに名前は歩き出した。
屋上に上がったら空には満天の星が輝いていた。無償に泣きたくなって慌てて目をぐし、と擦った。
「今日は流れ星が見えるかもしれないんだって!」
「…流れ星?」
だから、特別なんだ。小さい頃に二人で見たあの流れ星の情景が目に浮かぶ。
「あのね、蘭丸!」
名前は少しふらつきながら俺の手を引っ張った。
「私が死ぬときはね!笑って欲しいよ!」
あの流れ星をみたときのように笑って欲しいよ!と名前は笑い泣きしながら手を握った。
「蘭丸の笑顔は私の最高の宝物になる」
その宝物持ったまま空の星になってさ、また笑顔を作るために流れ星にするよ!
だから、笑って欲しいよ
一気に喋ったらしくごほごほと咳をしている。
「分かった…分かったから、もう…喋るな…笑うから!今だけは…」
#01#をぎゅう、と抱き締める。
キラリ、と暗闇に線が引かれた。
それを二人で泣きながら見ていた。
君の命は流れ星のよう
約束は守ろう
だけど
今だけは
涙が溢れるのをゆるして