短編 | ナノ


▼ モンド在住魔法使いさん(約600)

※微クロスオーバー要素
※Not旅人・旅人=空



 モンド城を目前にして、ガイアはふと振り返った。その顔には怪しい(と一部から評判の)笑みが湛えられている。

「そうだ旅人。魔法使いの噂は知ってるか?」

 いつもの如く「おつかい」の帰り。珍しく自ら同行を申し出たガイアに違和感を感じていた空だったが、漸く合点がいった。この噂話を空とパイモンにするためだったのだ。

「まほう……、つかい?」
「聞いたことない」

 しかし聞いたことのない噂に、空はパイモンと顔を見合わせ首を傾げた。

「モンドで最近出回ってる噂だ。本当に魔法使いかどうかはさておき……、そう言われる所以があるってのは面白いだろう?」
「まさか、オイラ達に噂の真相を確かめてほしいとか言うんじゃないよな?」
「ははは! 流石にそこまでは。でも、なにか知ったら是非俺にも教えてくれよ」

 手を振り颯爽とその場をあとにしたガイアは、中途半端なその情報の仔細を空が調べると踏んでいるのだろう。パイモンの興味もしっかり引いていく辺り抜け目ない。

「うぐぐ……! 掌で転がされてる気がする!」
「いつものことだね」
「気になる噂なのがまた腹立つー!」

 空中で地団駄を踏むパイモンを宥めた空はポツリと「魔法使いかぁ……」とつぶやく。正直、とても気になる。ガイアのもとまで届いている噂の魔法使い。一体どんな人物で、魔法は本物なのか。

「ひとまず、モンド城のみんなに聞いてみよう」
「真相はガイアの奴には秘密にしような!」

 空たちが真相を知る頃にはガイアのもとに情報が届いていそうだけど。いや、下手をするともう粗方知っているかもしれない。やる気を出す相棒を横目に、空は乾いた笑いをこぼした。


───


 噂になっているだけあって、魔法使いの男の情報はすぐに集まった。最近モンド周辺に来たらしい男が、自ら魔法使いと名乗ったらしい。しかし会った人々に「本当に魔法使いなのか」と聞くと、皆一様に「自称はしていたが、本当に魔法使いかどうかはわからない」「法器を使っている様子はなかった」「神の目でできることのほうがすごいのではないか」と言う。魔法使いが見せてくれたのは鳩を出したり花を出したり、まあ言ってしまえば地味なものだったのだと。

「鳩に花……? なんか魔法使いって言う割に結構地味じゃないか?」
「法器で戦うことを「魔法」って言ってるわけでもないみたいだ」
「ううう、なんか胡散臭くなってきたぞ……!」

 噂を聞けば聞くほど謎の深まる魔法使い。空もなんだか「実際のところただの手品師なんじゃないか」と思えてきた。

「た、旅人さんっ! 大変だよ!」
「あれ、さっきの……」

 慌てて走ってきたのは先程「魔法使いさんってすごいの!」と嬉しそうに話していた少女だった。息を切らせながら少女は湖の方を指さす。

「魔法使いさんが、宝盗団に連れて行かれたって!」
「な、なんだってー!?」
「行こう、パイモン!」


───


「あっ! あそこじゃないか?」

 モンド城からシードル湖を越えた向こう岸。宝箱を挟んで2人の男が何か揉めているのを見つけた空とパイモンは、魔法使いを宝盗団の男から助けだそうと一歩踏み出した。

「おい! 何してるんだ!」
「なっ……!? くそっ、こうなったら……!」
「あっ」
「あああああっ! 神の目!!」

 パイモンの声で空達の存在に気がついた宝盗団の男は、魔法使いの腰から下げられた神の目を奪って逃げ出した。当の盗られた本人は小さく声を上げたのみで、特に追いかけるでもなく男の背中を見送っている。盗人を追いかけるべきか、それとも魔法使いに話を聞いてみるべきか。迷った結果、空とパイモンは一先ず神の目を盗られたにも関わらず焦りもしない魔法使いと話をすることにした。

「えっと、あなたが魔法使い?」
「ん? ……ああ、はい、そうです! 俺は魔法使い。はじめまして」
「はじめまして」
「呑気に挨拶してる場合かよ! 神の目が盗られたっていうのに、呑気な奴だな……」
「何も問題はありません。逃げた男がどこに行ったかは、すぐに判明します」

 男が逃げていったほうをちらりと見た敬語の下手くそな魔法使いは、パン! と手を叩き「自己紹介をしましょう。俺の名前はジョンです」と名乗った。ジョンの呑気な様子を見て、パイモンも「神の目なら元素視角でも追えるもんな……」と落ち着くことにしたらしい。

「オイラはパイモン」
「空だ」
「ふたりは何をする為にここへ来ましたか?」
「魔法使いの噂を聞いて、どんな奴か気になってモンドのみんなに話を聞いてたんだ。そうしたら、「魔法使いが宝盗団に連れて行かれてた!」って言われたから助けに来たんだけど……」
「一体なにしてたの?」

 「話せば長くなります」と前置きしたジョンは語った。「俺の噂を聞いた宝盗団が「魔法使いなら、ここにある筈の宝箱だって探し出せるんだろ」と言いました。なので適当な宝箱を見つけたら、なぜだかすごく怒った」とのこと。なにも長くはなかった。

「宝箱の中身を持っていくのではなく、あれを盗んでいくなんて……。変な人ですね、はは」
「笑ってる場合じゃないだろ……。呑気なやつだなぁ」

 やれやれとため息をつくパイモンに内心うなずく。本人曰く「すぐ取り返せる」らしいが、この調子だとその言葉に信憑性はあまりない。

「ジョン。俺達も手伝おうか?」
「そうだぞ、お前ひとりじゃ心配だしな」
「いいんですか? 親切、感謝します。……さて、魔法使いから物を盗む命知らずはどうしてやろうか」

 呟いたジョンの声は冷たい氷のようだ。同じく氷のように凍てついた鋭い瞳で宝盗団が逃げていった方向を見つめるのを見て、パイモンが「も、もしかしてオイラたち早まったか……?」と空に耳打ちする。空はそれに「そうかもね」と返すしかできなかった。噂の魔法使いは、どうやら只者ではなさそうだ。



……──────……



「へえ、魔法使い! 面白いね、それって戦うのにも魔法を使ったりするのかな?」
「俺は戦うことができません。不得意です」

 「またまたそんな謙遜して」とタルタリヤが笑う。その目はまさに新たな獲物を見つけた戦闘狂。

 所は璃月港。なぜモンドからここまで移動してきたかというと、それは勿論宝盗団の男の逃げた先が璃月だったから。空たちがのんびり自己紹介をしている間に随分と長い距離を逃げていたのだ。男はすでに懲らしめたが、それよりもっと厄介なファデュイの公子に絡まれてしまった。何故自称戦闘が苦手な魔法使いジョンが公子タルタリヤに絡まれているかというと、かれこれ数時間前に遡る。


───


 長い距離を逃げたはいいものの、逃げた先で体力の尽きた宝盗団の男は当然すぐに空たちに見つかった。

「見つけた見つけた、盗っ人。逃げるのはやめたのか? セイセイドウドウってやつ? もしかして俺と戦って勝てるかもって? あはは、その顔色じゃ無理だろ」
「ひ、ヒィッ!」

 モンドではジョンと言い合っていた男だったが、今は不気味な笑顔を浮かべて近寄るジョンに怯えきっている。ついには自ら盗んだ物を差し出し許しを乞う始末。

「ご、こめんなさい、ごめんなさいっ……! 許してください……!」
「ゴメンナサイにユルシテ? はは、どういう意味だっけ。死んで侘びますと類義語?」
「な、なんかジョン笑ってないか?」
「すごく楽しそう」

 相手が大袈裟に怖がるものだから楽しくて仕方がない、そう言わんばかりにジョンは意地悪く続ける。流石に可哀想になってきた空が声をかけると、「あー、そうですね。空さんが止めるならやめましょう……」とジョンが盗まれた神の目を男の目の前に掲げ……。

「アーレア・ヤクタ・エスト」

───パキッ

「は?」

 神の目を男の目の前で砕いた。破片がパラパラと地面に落ちていくのを、宝盗団の男は真っ青な顔で見つめる。

「2度目はないぞ」
「ひ、ひいいいい!」

 笑顔からの真顔。あまりの迫力に、宝盗団の男は一目散に逃げていった。空たちは慌ててジョンに駆け寄る。

「か、神の目!! お前、そんな砕いて……、ええー!?」
「あっははは! すごく驚いていますね。これはただのガラス玉ですよ」

 パッパッと手を払ったジョンが、懐から炎属性の神の目を取り出して腰に着ける。地面に散らばった水色のガラス。偽物というなら、盗まれた時のジョンの落ち着きようにも納得がいく。魔法使いにまんまと騙されたパイモンが不満そうに「それなら追いかけなくても……」と呟いたのに、ジョンは首を横に振る。

「ちゃんとオトシマエ? をつけないと。侮られては困りますからね」
「お、おう……」

 ぐるぐる手首を回したジョンに、パイモンが少し身を引く。

「すごい握力だった」
「ガラス玉でも、片手でパキーン! だもんな!」
「魔法ですよ」
「……えっ」
「魔法」

 「ちゃんと呪文を唱えましたよ」とジョンは言うが、元素の残痕など何もない。どう見てもただの力技だった。パイモンと空は互いに顔を見合わせ、もう一度ジョンの方を向いた。

「……すごい魔法だった」
「お、おう。そうだな。すごい魔法だ。……なあ空。アイツの言う魔法って……」
「……多分、俺たちの想像してた魔法とは違う」

 ジョンの魔法は、魔法ではなくて手品と筋力。それと時々元素の力だろうか。炎元素を扱うのに氷元素の神の目をフェイクに持つ豪胆な男だし、魔法使いと堂々名乗るのも頷ける。

「……空さん」
「空でいい。敬語もいらない」
「おう! 敬語しか話せないって訳じゃないんだろ? 何かの説明書きみたいな喋り方してるし……」
「……うん。実は敬語は苦手だ。助かるよ。それで、あのさ、さっきからそこに居る奴は知り合いか?」

 ジョンが指さしたのは空の後ろ。指先をたどって視線を動かすとそこには……。

「やあ!」

 璃月で空たちが(いろんな意味で)大変お世話になった公子タルタリヤが爽やかな笑顔を浮かべて立っていた。

「タルタリヤ? どうしてこんなところに……」
「ここらで少し仕事があってね。君たちが走っていくのが見えたから、追いかけてきたんだけど……」

 タルタリヤの目がジョンを捉える。その瞳は心なしか戦闘時のように爛々と輝いているように見えた。

「面白いもの見せてもらったよ! よければ君の話を聞かせてくれないかな、ご飯でも食べながらさ」

 「相棒たちもどうだい? 勿論奢るよ」と言うタルタリヤの誘いを断る理由は、空たちにはない。ジョンは心なしか逃げたそうにしていたが、タルタリヤの気迫に渋々頷いた。


───


 店で「逃がさない」と言わんばかりに扉とジョンの間に座ったタルタリヤは、先程から幾度も手合わせを仄かしてははぐらかされている。

「見たところ俺とも歳が近そうだし……、仲良くしようジョン」
「ははは考えておきます」
「まずはその敬語からかな」
「空、助けてくれ。この人はなにか得体の知れなさがある。端的に言うと怖いというやつだ」
「ああ、名前を教えていなかったっけ。タルタリヤだ、好きに呼んでくれて構わないよ」

 グイグイ距離を詰めようとするタルタリヤに、ジョンが空へと助けを求める。先程笑顔で宝盗団の男を追い詰めていたジョンにも、怖いという感情はあるらしい。

「……今は食事の時間だよ」
「そうだぞ! ジョンだって全然食べれてないじゃないか」
「それもそうか。悪かったね」
「ハイ……」

 心なしかタルタリヤと距離をとったジョンが漸く料理に手をつける。箸は慣れないらしくナイフとフォークを使って食事をするジョンを微笑ましそうに見るタルタリヤと、その視線に居心地悪そうにするジョン。そして呆れた顔でそれを見る空とパイモン。

 視線に晒された居心地の悪い食事を終えたジョンに、居心地の悪さの原因タルタリヤが「そうだ、ジョン」と声をかける。

「俺に君の魔法を見せてくれないかな」
「魔法を?」
「そう。俺が手品……いや、魔法のタネを見破ったら手合わせをお願いしたい」

 ファデュイの情報網とは如何程のものか。その実態は知れないが、タルタリヤは「モンドで最近噂の魔法使い」についても「魔法が手品程度」だということも知っているのではないか。空はタルタリヤの様子からそう推測した。つまりこの公子、絶対に手品を見破ってジョンと一戦洒落込むつもり満々ということ。

「……わかった。ならこうしよう、俺は君が望む魔法を見せる」
「おっ? いいのかい?」
「その代わり、手合わせの話はなかったことにしてもらう」
「……うん、いいよ。さて、どんな魔法を見せてもらおうかな」

 渋々といった風に切り出したジョンの提案は、益々本人を不利にさせたように見える。心配そうにパイモンがソワソワするのを横目に、空がジョンと視線を交わす。空の言いたいことがわかったのか、ジョンは一瞬考え込むタルタリヤに視線を向け、空に手招きした。そして口元に手で壁を作り、小声で空に話す。

「そんなに心配するな、大丈夫だ。何を言い出すかは大体想像がつく」
「本当に大丈夫?」
「魔法使いだからな」

 空の心配にそう返したジョンは、絶対に見破られないという自信があるらしく、勝ちを確信した顔で笑った。そこに先程までタルタリヤに気圧されていた影はまるでない。

 見せてほしいものが決まったというタルタリヤに店の外へと呼ばれたジョンを、空たちも追いかける。

「あそこの風車(かざぐるま)を風で回してみせてよ。ここから動かずにね」

 タルタリヤが指さしたのは、ジョンの立つ場所から15m程離れた場所にある小さな風車。風元素の力があればあるいは……といった内容に、パイモンが「でも、あいつの神の目は炎だったよな……?」とジョンを心配そうに見つめる。
「ちゃんと見てろよ」

 ジョン曰く、呪文。それを唱えると風車の周辺には風が吹き、くるくると羽根を回す。

「う、動いた! なんでだ!?」
「君……、神の目は炎じゃなかったのか?」

 パイモンとタルタリヤが驚愕の声をあげる。それにジョンは得意気な表情で「魔法使いを侮るなよ」と腕を組む。

「タルタリヤ。これで君の見たいものは見せた」

 ジョンは勝ち誇った顔でタルタリヤに告げる。

「まさか本当に風を操るなんて……」
「思ってもいなかったか? 君のようなやつをなんて言うんだっけな。イジワル? ショウネガクサッテル?」
「あはは! それだけ君と手合わせしたかったんだ。許してよ」

 詰られようとも笑って軽く謝るタルタリヤに、ジョンは口を噤んだ。「それなら仕方がないな」ではなく、「こいつにこれ以上言ってもな……」という表情のようだった。その感情は空にも覚えがある。

「……ああ許そう。許すついでにこれもやるよ」
「えっ」
「え、ええー!?」

 ひとつため息を吐き、ジョンがタルタリヤに手渡したのは、腰に着けていた炎の神の目。突然渡されたタルタリヤは勿論、そばで見ていた空とパイモンもその行動に驚く。しかしこのジョンの行動の軽さ、空たちには覚えがある。

「あはは、いい顔だ。見るたび今回俺に負けたことを思い出すといい」

 手渡された神の目。起こされた風。ジョンが先程砕いた偽物の神の目。つまりこれは……。

「……あっははは! なるほどね。俺は一杯食わされたって訳か」
「ジョンは風元素を扱う魔法使いだったのか」
「……あっ! ジョンまさか、炎の神の目も偽物ってことか!?」
「そうなる。綺麗だろ? 自信作なんだ」

 タルタリヤも空もパイモンも、皆一様にジョンに騙されていたということらしい。タルタリヤの存在に早くから気がついていたジョンは、もしかするとこうなることまで予想していたのかもしれない、と空は思った。

「降参! 完全に俺の負けだ。今回は素直に引くことにするよ」
「次回がないように、璃月には寄らないようにする」
「そんな寂しいこと言わないでくれ、仲良くしよう」
「ははは! 空、俺は先にモンドに戻るから、時間があったら会いに来てくれ。付き合ってくれた礼をしたい」

 早々に話を切り上げ、タルタリヤを振り切ってモンドへと向かったジョン。その背中を見送った空は、タルタリヤの顔を横目で見る。「ひどいなあ」なんて声に出していたが、言葉とは裏腹に笑みを浮かべていたので見なかったことにした。

「えーっと、それじゃあオイラたちもモンドに戻るか」
「そうだね」
「彼には是非、また璃月に来てくれるよう言っておいてくれ。一緒にご飯を食べようってね」
「絶対に嫌がられると思うぞ……」

 伝えた瞬間苦々しい顔をするであろうことが容易に想像できた空たちだが、まあ伝えるだけならと渋々頷いた。「いい返事は期待しないほうがいい」と釘は刺したが。



───



 モンド城に着いた空たちを迎えたのは、魔法使いジョンではなく、その噂を空たちに話したガイアだった。事情を知ってか知らずか、噂についての進展を聞いてくるので、空は胸を張って答える。

「魔法使いと仲良くなった」
「これからまた会いに行くところだぞ」
「おお、流石は栄誉騎士」

 少しだけ驚いた風な雰囲気だったガイアはすぐにそれを引っ込めて、わざとらしく拍手までしてみせる。

「なんか褒められてる感じがしないな……」
「これ以上ないってくらいの賛辞だ。心から尊敬するよ」

 案の定パイモンからは非常に不評。先程の反応からするに、すごいと思っているのは本当だろうけれど。

「魔法は見せてもらったか?」
「魔法……。魔法っていうか、元素の力っていうか、力技っていうか」

 表現するにも情報量が多いもので、パイモンが頭をひねりながら言葉を探す。そして当初の「何かわかってもガイアには秘密にしよう」発言を忘れ「筋力と風元素の力だな!」とガイアに自慢げに話した。

「風元素?」

 元素力のところであまりにガイアが訝しげにするので、空は先程までのことの顛末を話す。しかしジョンが氷の神の目の偽物を砕いた話で、ガイアからストップがかかる。

「氷の神の目は偽物だったのか? 本当に?」
「おう、そうだぞ! 本人もガラス玉だって言ってたし、間違いないはずだ」
「そうか……」

 どうやらガイアの認識している事実と、今回空たちが目撃した事実が食い違っているらしい。顎に手を当てて考え込んでいる。

「俺は前に、魔法使いが氷元素の力で水スライムを凍らせたのを見たことがある。神の目がなければあの芸当は難しいからな、てっきり魔法使いは氷元素の使い手だと思っていたんだが」
「魔法……、なのか……? ジョンが、本当の本当に魔法使いってことか!?」
「それはまだわからない」
「そうだな、どちらかはただの嘘やトリックかもしれない。旅人のように、異なる元素力を扱う奴はそうそう居ないだろうしな」

 ジョンが持つ力は風元素の力か、それとも氷元素の力か。どちらにせよ、恐らく片方は何かしら別の力によって起こされているということ。頭のこんがらがってきたパイモンが、頭を抱えながらふらふらと不安定に浮遊する。

「どうせこのあとジョンに会うんだし、もう本人に聞こうぜ……」

 本人のいないここで結論が出るとも思えない。それもそうだと旅人はガイアと別れ、ジョンの居る場所へと向かった。



───


 ジョンが宝盗団の男に連れ去られたと心配していた少女にジョンの無事を伝え、ついでに普段ジョンの居る場所を聞き出した空たちは、ジョンの家(らしい)にたどり着いた。
 扉を開けて中に入った空たちを、猫を抱えたジョンが迎える。

「空にパイモン。さっきぶり」
「おう!」
「さっきの、ええと、タルタリヤ。恐ろしい奴だった。雪の降る寒い地域に住んでそうな性格をしていたと思わないか? そんな彼と一緒に置き去りにして先に帰って悪かったな」
「大丈夫」
「そうだぞ、大丈夫! 公子のあの物騒さと強引さには慣れてるからな」

 パイモンの「慣れた」という発言に顔を強張らせたジョンは、「へえ、慣れ……慣れか。すごいな」と動揺しながら猫を開いた窓の近くへ下ろした。

「あと、公子はスネージナヤ出身だから、「雪の降る寒い地域」っていうのはあってるぞ」
「すごい、どんなところでも恐ろしい奴の特徴って似通ってるんだな」
「ジョンの知り合いにも公子みたいなやつがいるのか……?」
「「北は恐ろしい」って、故郷では小さい子供でも知っている」

 窓際の猫がジョンに向かって鳴いた後、外へと走っていく。

「あれ、猫が逃げちゃったぞ。いいのか?」
「構わない。……彼は俺の秘密を知ってしまったから、口封じのために猫に変えたんだ。俺が魔法を解かなければ、彼はこの先あのままだろう」
「ええっ!?」

 「魔法で猫に変えた」ジョンは確かにそう言った。そして、「秘密を知ってしまったから」だとも。ジョンに魔法の真実を聞こうと意気込んでいたパイモンも、思わず口を塞ぐ。

「(ど、どうしよう旅人! 神の目についてって、もしかしてエドウィンの秘密なのか……?)」
「(わからない……)」
「っはは、」

 言葉を発さずアイコンタクトで会話する空とパイモンを見て、ジョンが思わずといった様子で笑う。

「冗談だ、冗談。彼は生まれたときから猫だから安心するといい。それに、俺を助けてくれた空たちを猫に変えたりなんかしない」
「よ、よかったー! びっくりさせるなよ」
「猫にされるかと思った」
「悪かった。空たちの驚いた顔は何度見ても面白いものだからさ。それで、俺に聞きたいことがあるんだろ? 神の目のこととか」

 ジョンが腰につけていた風の神の目を外し、空に渡す。モンド城へと戻ってきてから、ジョンについての話を空達がガイアとしていたのを知っているようだ。空が思わずジョンを見つめると、彼は意味有りげに笑顔を見せた。

「これは、ガラス玉なの?」
「空はどう思う?」
「……わからない」
「これが神の目じゃないなら、ジョンが風車を回したのはどういう仕掛けなんだ? でも、これが本物なら、ガイアの話は……? うう、頭がこんがらがってきた」

 空の手の中にある神の目がガラス玉ならば、風車を回した風の説明がつかない。しかし、これが本物だというのなら、ガイアの目撃した「水スライムを凍らせたジョン」の説明がつかなくなる。周りから「手品師」と称される腕前のジョンの魔法では、どちらも難しいのではないだろうか。そう空もパイモンも考えているからこそ、真相が全くわからない。

「空、パイモン。いいことを教えようか」
「いいこと?」

 「いいこと」を教えてくれるというジョンの手のひらの上で、水泡が浮く。

「……水」
「水が浮いてるぞ……!」

 そしてその水泡は凍り、融解し、蒸発して消え去った。ジョンの手のひらの上で。

「な、なんだ今の……!」
「ジョンの手の中で元素反応……?」

 元素反応といのは複数の元素の力によって引き起こされるもので、ひとりだけで起こすことはできない。……筈だが。ジョンの所業はまるで魔法のようで。

「……魔法?」
「えっ!」
「ずっと言ってるだろ、魔法使いだって。魔法使いはほんとに居るんだよ」





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