短編 | ナノ


▼ 女装垢持ち男子とケーくん

「今日もかわいい! ね、ジョンくんもそう思わない?」
「おーそうだな。かわいーかわいー」

 ケイトのスマホの画面に映った、バッチリキメた女の子。ケイトは数年前から変わらず毎日毎日その女の子のマジカメを見ては「可愛い可愛い」と騒いでいる。自撮りやマジカメ映えする料理、美容グッズにコスメ。
 マメにマジカメに投稿される写真を朝から授業終わり、放課後にもチェックしてはキラキラした顔で眺めているケイトはまるで恋する乙女だ。そう、恋。これは俺の勘……、いや、ケイトを見ている奴は大抵が思っているが、恐らくケイトはスマホ越しにしか見たことのないその女の子に恋をしている。頻繁に「可愛くない!?」と話題を振られる友人である俺はちょっと疲弊気味。俺だって可愛いとは思う。最初の方は「だよな!」と全力で肯定していた。でも、ケイトがガチ恋をしているとなったら話は別だ。

「なーんか、ジョンくん最近ちょっと反応適当じゃない?」
「こんだけ毎日毎日言われたらそりゃな」

 なにせ、その可愛い女の子、俺なのである。
 ケイトがガチ恋しているマジカメの女の子、女装した俺なのである。

 幼少期、鏡を見た俺は自分の顔に感動した。「俺の顔、美しくない???」と。美しい顔に性別の隔たりなどないのだ。折角だし自分好みの可愛い女の子でも作ってみるかと意気揚々と女装を始めたらこのザマ。俺だってまさかこんな、ガチに俺(女装した姿)に恋する男が居るなんて微塵も予想していなかった。男を1人、結構マジに狂わせてしまうなんて、美しさとは罪。巫山戯てる場合か。
 女装してマジカメに映ることに関して、俺は細心の注意を払っているので万一にもバレることはないだろうが、気まずさが異常。騙しているつもりは全くないのだが、罪悪感がすごい。なんでこんな十字架背負わなければいけないんだ。

「ずっとスマホ見てねぇで、部活行けよな」
「あっ! ちょっと待って。教えて欲しいところあるんだった。ねぇ、ちょっとだけ! ちょっとだけ教えてくれない?」

 部活に行こうと席を立ちかけた俺に待ったを掛け、スマホをポケットにしまって慌てて魔法薬学の教科書とノートを取り出すケイト。時計はまだ部活には早い時間を指している。

「あん? ……まあいいけど。どこ? 俺のわかるとこ?」
「うんうん。あ、ペンこれ使っていいよ」
「どーも」

 ケイトが指したのは今日の授業内容であり、明日応用で魔法薬を作ると言われたところだった。魔法薬学は厳しいもんな、わかるー。真面目でなくてもある程度は勉強しておかないと、自分の身が危ない教科でもある。

「色が見本とちょっと違っちゃったんだよね。ちょっと薄いっていうか」
「あー……、それは、ここじゃねぇかな。ちょっと文章わかりにくいんだよここ。これが……、こっち」
「ああ、なるほどねぇ! さすが! 見本通り作れてただけあるぅ!」
「はは、もっと褒めろ」

 パチパチと手を叩いて大袈裟に褒めるケイトにドヤ顔を返す。ケイトの褒め言葉は嫌味がなくていい。褒め上手だ。
 くるくるとケイトから借りたペンを回していると、ふとケイトが「ジョンくんお肌綺麗だね」と頬を指で突いてくる。

「おう。もちもちの美肌。これ以上触ると金取るぞ」
「釣れないなぁ。でも、幾らでどこまで触らせてくれるのかは興味あるかも」
「えっ、流石に冗談だぞ? お前はヴィル=サンに慣れすぎ。金取ったりしねぇよ」
「あは、それヴィルくんが聞いたら怒りそう」
「うげ。絶対言うなよ。悪口のつもりはないけどさぁ、どう取られるかわかんねぇし。あの人時々無言でこっち見てきて怖いんだよなぁ……」

 なにも、ヴィルが守銭奴だとかそいうことを言いたいんじゃない。ものにはそれ相応の価値がある、というトップモデルヴィルの意識にケイトが慣れすぎているというだけで。金にがめついって悪口言ってるように受け取られたらたまったもんじゃない。
 俺だってマジカメはしているし顔面はそれなりだが、ヴィル程の価値はない。俺の「金取るぞ」を真に受けるなって話だ。トップモデルと俺を同列に語るとそれこそヴィルが怒るだろう。これ以上あの視線に貫かれたくない。目力半端ないって。

「つーかケイト、聞きたいことこんだけか? 俺部活行くぞ?」
「ああ、うん。これで明日はバッチリ! ありがとー!」
「おー。ん、ペン返すわ。じゃ、明日の授業の楽しみだなケイトくーん」
「あはは! 楽しみにしててよね!」

 ちょっと悪い顔でふざけながら教室を出る。頼もしい答えで何よりだ。アイツはやると言ったらやる男だし、きっと明日の授業では見本通りのものを完成させるだろう。
 部活に向かう途中、ケイトの言葉をふと思い出した。アイツ、俺の魔法薬学で作った魔法薬を「見本通り」と言ったが、今日の魔法薬学の授業でケイトと俺は結構遠かった筈。一体いつ俺が完成させた魔法薬見たのだろうか。誰かそんなこと喋ってる奴、居たかな。


____


「ね、ジョンくん、ちょっといい? 部活休みだよね?」
「ん、いーよ」

 授業が終わった放課後、みんなそれぞれ部活やら寮に帰るやらで早々に教室を出て行く。部活が休みの為、席に座ったままスマホをチェックしていた俺の横にケイトが近寄ってくる。

「これ、見てほしいんだけど」
「……いつものじゃん」

 ケイトが見せてきたスマホには、女の子(俺)がピースを作って笑っている写真。いつもケイトが騒いで「ねえこれかわいい! 見て!」と見せてくる物だ。
 これがどうした? とケイトを見れば、ケイトはスマホに指を滑らせて次の画像を出した。さっきの写真とは全く関係ない謎の……、なんだこれ。

「なにこれ」
「昨日ジョンくんにペン貸したじゃん? それについてた指紋と、あの子の写真を拡大して手に入れた指紋」
「えっ怖」

 最近のスマホの解像度の高い写真が仇となった。目に写る景色とか反射は気にしていたが、まさか指紋を取られるなんて思っても見ない。え、それを、解析? 狂気の沙汰か???
 表情が消えた俺に対し、ケイトはニコニコと笑っている。え、怒ってる? おこなの? 態々ピンポイントに俺の(というか男子校であるナイトレイブンカレッジで)指紋を採集するなんて、勘付いていなければしないだろう。

「お、おま、いつから……?」
「んー……、結構前から?」
「結構前!? だというのに毎日毎日俺にマジカメ見せては「かーわーいーいー(はあと)」とか言ってたのか……!?」

 これはケイトの正気を疑う。お前どんな気持ちでいつも俺にマジカメ見せてきてたんだ。段々と「そうねかわいいね」が歯切れ悪くなっていった俺をみてどう思ってたんだ。おい。

「だって可愛いし」
「んんんん……! 確かにその顔面は可愛く作れているがな……!!」
「ええ? ジョンくんはいつだって可愛いよ。今もすっごく可愛い」
「……は?」

 かわ、今……? 今……???

「……お、俺の顔は……美しいが……?」
「ん゛っ、ふふ、あははは!!」


____


「あはは、はー……、ダメ、ホントに面白い……!」
「オメーさては馬鹿にしてんな?」

 俺の混乱の末の言葉に大爆笑したケイトが落ち着くまで暫し待ったが、未だにケイトの笑いの波は引かないらしい。涙を滲ませながらヒーヒー言っているケイトはご機嫌のようだが、生憎俺の機嫌は急降下。なーにが「可愛い」だ。やっぱりおちょくってんじゃねぇか。

「馬鹿になんてしてないってー! 本当に可愛いって思ってるよ」
「今の俺もか? 信じらんねぇ」

 マジカメに投稿している姿なら納得できる。なにせ、自分が可愛いと思う女の子を作り上げているのだから。でも、今の俺は女装の影も形も無い男子校によく居る男子高校生だ。顔は良いが。顔は良いが! 「綺麗な肌」とか「綺麗な顔」ならわかるんだがな、とケイトを見ると、やけに真剣な顔で俺の顔面を凝視していた。

「ぅぉっ……」
「だって、好きな子っていつ見ても可愛いからね」
「すきなこ」
「そう、好きな子。……ただマジカメに写ってる女の子が好きなだけでここまでしないよ。もしかしてって思ったのも、突き止めたのも、ジョンくんのことが好きで好きでだぁーい好きでずっと見てたからだし」

 スル、とケイトの指が俺の指に絡まる。顔、めっちゃ近いし、コイツやべぇ綺麗な顔してんな。え、近。距離感、ほぼゼロじゃん。なんでこんな近……

チュッ

「……ぇ、」
「ジョンくん、好きだよ」






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