短編 | ナノ


▼ リリスを愛し、リリスに愛された男ォ!!

※時系列死んでる
※聖書準拠ではない
※捏造に次ぐ捏造
※本編の流れや考察的にそうはなら(なるんだよ!!




 リリスは美しい顔を意地悪に歪めて言った。

「じゃあルシファー、私と一緒に地獄に落ちる?」

 アダムも神も捨てて、私と、この楽園から去ってくれる? リリスは私にそんなことできやしないと思って言ったのだろう。彼女はアダムとギクシャクしていたし、良きことを成しなさいという教えばかりの天使に嫌気がさしていただろうから。私にだって意地悪を言うつもりで。でも……。

「リリス、君が本当に望むなら。私は君とならどこへだって行くよ」
「……本気で言ってる? 少しの家出じゃないのよ。地獄へ落ちるの。もう戻れないし、アダムともさよなら。あなたも天使じゃなくなる」
「わかっているとも。君を愛しているよリリス、だから私は君以外のすべてを捨てられる」
「本当に? 本当の本当に、私を愛している? あなたには私だけ?」

 いくら気高きリリスといえど、はじめの人類として神から役目を課され、その上うまくいかないとなれば少しばかり心細かったのだろう。私の言葉を疑う素振りをみせるが、その瞳には縋るような感情も窺える。博愛を以て善しとする天使として、この感情はいけない。でももう、私はリリスと共にいくことを決めたのだ。

「私と地獄に落ちてくれるかい、リリス?」
「……ええ、行くわ。私だって、あなたとならどこへでも。あなたと一緒なら地獄だって楽園になるもの!」


───


 リリスと離婚した。飯は喉を通らないしなんならベッドから1歩も出る気がしない。人生はくそ。あっはっは! 私は人じゃないから人生という言葉は些か可笑しいが!
 ああ、美しいひと愛しい妻よ、私の何がダメだったんだ! 知らぬうちにアダムみたいなことでもしていたかい? 君を縛ろうとしていた? それともセックスが下手くそだとか? もしかしてこんなふうに女々しいのがダメなのか!? 君より背が低いところとか? あー、地獄の王なのに白ばかり着ているから? 天使の時から全然変わりない? 駄目だ、延々と考えてしまう。リリスの手前みっともなく喚き散らすようなことはしなかったけれど、本当なら泣き喚いて引き留めたいくらいだった。ああ、リリス……。

─prrrrrr

「……あー? アスモディアス……」

 生憎電話に出る気力もない。どうせしょうもない電話だろう。

─prrrrrrrrrrrr

「うるっっっっっっっっさい!! なんだ! しつこいぞ!」
「Hi! ルシファー! 離婚したって?」
「…………チッ」

 耳が早いどころじゃないぞ、このクソ野郎め。その話はしたくない。舌打ちひとつで電話を切り、布団を深くかぶる。うるさい、うるさい! 切ったんだから諦めろ! また掛けてくるな! これだから嫌なんだ、クソの悪魔共め!
 無視すること数分で諦めたのか、コール音は止んだ。……代わりに、メッセージが次々送られてくる音がする。うるさっ、うるさっ! くそ、通知切ってやる! 「こんなときはオジーの店においで!」「ルールーランドに遊びにおいで」「独身はいいぞ」「結婚しよう」「おひとりさまおめでとう!」あー! あー! クソ共!! どさくさに紛れて著作権侵害ギリギリランドに誘うクソも居る! 地獄はクソだ! 人の不幸を楽しんでる! 訴えるぞマモン!
 うう、ルールーワールド……、チャーリーの為に張り切って作ったんだったな……。チャーリーが「パパ大好き!」って言ってくれるから……。リリスもチャーリーも居ない家で、私はどうやって生きていけばいい? ああ、メンヘラみたいになってきた……もう駄目だ……。

「……ゲェ」

 明日アダムと会議…………、死にたい。

───

「ッヒャヒャヒャ!! お前リリスと離婚したってェ!?」
「うるさい。用件」
「ふたりで! 地獄に駆け落ちして! その結果が! 離婚!? アッヒャヒャヒャヒャ!!」

 こいつ死なないかな……。ああ、死んでた。うっかり。直りきらなかった寝癖を押し込んだ帽子を深く深く被ってアダムの言葉を聞き流す。アスモディアスたちといい、アダムといい、どこから聞いてくるんだ。誰にも言ってないどころか、つい先日の話なのに。

「で? リリスのどこが嫌で離婚したんだ? 束縛か? それともちんこがないところか?」
「は?」
「ああ、わかった。夜が激しくて寝かせてもらえないからだ! どうだ、あってるだろ?」
「何を言ってるんだお前は」

 アダムはなぜか、私が離婚を切り出した前提で話す。そんなわけないだろう! 私が! リリスを嫌になるだって!? かといって、私が離婚を切り出された話をわざわざしたくもない。この話やめたい。帰りたい。
 私が憮然とした態度で椅子に背を預けているとアダムも違和感に気がついたらしく、口を閉じて(仮面だけでも)真剣な面持ちをした。

「まさか、離婚するって言い出したのはリリスのほう?」
「黙れ小僧」
「は? 本当に? あの女が? ハッ、ハハハ! それでお前は未練たらしく指輪も外さないでいるのか! こりゃ傑作! 映像でなければ私がその指輪粉々にしてやったのに!」

 うるさい、未練たらしくて女々しくて白くて強いルシファーで悪かったな。私とリリスの結婚指輪に触れようものなら、その面ボコボコにしてやる。うっ、この指輪、もうしてるのは私だけなんだろうが……うう……。

「リリスはお前の何が嫌だって?」
「知らんうるさい用がないなら帰る」
「なんだ聞いてないのか。理由も知らずによく離婚に合意したもんだな。実はお前も離婚に乗り気だったんじゃ」
「いい加減なことを言うな!」

 バァン! と机を叩く。離婚に乗り気? 馬鹿なこと言うなこの、馬鹿が!!

「「私のなにが嫌で離婚なんて言うんだリリス」って? 既に! 離婚を切り出されているのに! そんな女々しいことが聞けるか!! これ以上嫌われたくない!!」
「お、おう……」
「私だって聞けるなら聞きたいさ、私の何が駄目だった、何が嫌だった、どうしたら離婚を考え直してくれる? でももう無理だ! リリスが離婚するって言ったらするんだよ! 覆らない! だったらもう潔く引き下がって最後くらいはいい男でいるんだよ! お前にはわからんだろうがな!! う、うううう……リリス……」

 マジで、何が駄目だった? どこを嫌いに? こういうとこ? なんでもリリスを優先するのがつまんなくなっちゃった?
 アダムの前とかもうそんなこともどうでもよくなっちゃって、机に突っ伏す。なにもかももう駄目。帰ってアヒルちゃんに埋もれて寝たい。

「……会議は終わり。私はもう帰る。どうせ毎回大したこと話していないんだ、少し早く終わったところで問題ないだろう」
「ハァ!? 私はお前の女々しい愚痴を聞きに来たんじゃないんだぞ!」
「じゃあ本題はなんだ。私は最初っっっっっから聞いているのに、リリスの話を出したのはお前だろう」
「ああ、はいはい、用件な、用件。…………再婚は?」
「帰る」


───


 リリスとの離婚後もチャーリーとは連絡をとったり、たまに会ったりしていたのだが、少し前からチャーリーにも反抗期が来ていた。反抗期で父親に強く当たるのは、父親だからというより人間として駄目だということに気がつく年齢になるから……、と思っていたんだが。例に漏れず苛烈な反抗を受けている。ううん、そんなに嫌われるようなことをしただろうか。こんなだから駄目? そっかあ!
 チャーリーの反抗期はしばらく距離を置けばいいだろうと過干渉を避けた。好きにさせるのが1番。電話は2番。3時のおやつは文明堂。まあ元々別居しているから、できることなんて節目節目に会ったり、たまに電話をするくらいだが。……年頃の娘への接し方、難しい。もう私が私であるだけでチャーリーの怒りに触れたりするのかもしれなくて悲しいよ。パパ友なんか居ないから、誰にも相談できやしない。アダムは友だちじゃないしそもそも多分育児とかしてないだろ。

「もしもし、チャーリー? パパだよ。元気かい?」
「……うん」
「そう、それはよかった。身体には気をつけるんだよ」
「わかってる」

 これでもだいぶ落ち着いたほう。そろそろ反抗期も終わりかもしれない。一時期はひと言ふた言で「切るよ」と言われていた。うーん、悲しい思い出。

「ねえ、ママとは連絡してる?」
「ああ、勿論してるよ」

 離婚はしたが、チャーリーの為にふたり揃って行事に参加することもあるし、普通に連絡も取る。もう自分は夫ではないのだから、と毎秒心に刻みながらやりとりしているのだけれど、正直どうにかなりそう。元夫の距離感ってどんな感じ? 私大丈夫? リリスは前と変わりなくてどうしたらいいかわからない。ストレスで最近吐いた。でも勿論チャーリーにそんなことは言わないし悟らせない。

「大丈夫、私達はうまくやっている。チャーリーが心配することは何もない」
「……うん」
「また電話するよ」

 電話を切ると、マモンから「ルールーランドいつ来る?」とメッセージが来ているのが見えた。行かないって何回も言ってるんだけどな、可笑しいな。誰がひとりで遊園地(しかもよりによってルールーランド)に行くんだよ。持っているんだから金を落とせと言いたいんだろうが、それならもっと別のものにしてほしい。おちょくってるんだろ、ただ単に。オジーの店も調べたらおひとりさま厳禁だった。本当にクソ共。殺してやろうかと思ったけど、部屋から出たくなかったからマモンとアスモディアスの首は一応まだつながっている。それを切るか切らないかは私の気分次第だな! はは! お前たち覚えておけよ。

 チャーリーにはああ言ったがリリスと私の関係は……、元夫婦。元がつく割によく会うしよく話すけれど、私は未だリリスとの距離をはかりかねている。うまくやっているなんて、ちょっとよく言ったけど実際はそんなものだ。アダムにも笑われたが未だ未練がましく指輪をしているし……。勿論、リリスも私とチャーリーと会うときには一応している。……あれもしかして今彼との指輪だったりする!? ぉえっ! しまった未練がましい男の嫉妬が出てしまった。幾ら仲が良くても私たちもう夫婦じゃないのに。エーン嫌だ嫌だ! もうリリスの夫じゃないなんて嫌だー!! 数日ぶり何百回目の癇癪。は? リリスの夫でいられない人生最悪。終わらせたい。あー駄目だ私にはチャーリーがいるんだから……パパがんばる……。

───

 チャーリーは切れた電話を見つめて項垂れた。反抗期があとを引いている。言いたいことの半分も伝えられない。定期的にルシファーのほうから連絡をしてくれる為に、自ら掛けるプレッシャーがないのはいいこと。でも、昔から変わらず優しくて強いルシファーへの反抗期を迎えて、そして落ち着いてきたチャーリーには、父親への接し方が少しわからなくなってきていた。昔ってどんなふうだったっけ? ああそもそも小さい頃にパパとママって離婚してる!
 チャーリーには、リリスとルシファーがなぜ離婚状態なのかわからない。だってリリスは頻繁にどこかへ電話しては「私のかわいいルゥが」「林檎ちゃん」「マイスウィート」などと繰り返している。それがルシファー以外を指すなんてことは、天地がひっくり返ってもありえない。リリスはいつも砂糖にはちみつを掛けたみたいに甘い声でルシファーを呼ぶ。つまるところ、惚気電話を頻繁にどこかへ掛けているということ。たまにルシファー本人に掛けたかと思えば、電話中はニコニコして、電話を切ったあとも上機嫌だ。あとよくルシファーの写真を見たり、ルシファーの部屋の映像を見ていたりする。離婚って何?

「ねえママ? ……ママは、どうしてパパと離婚したの?」

 ルシファーとの電話のあと、チャーリーは意を決してリリスに問いかけた。あまりにも世間一般の離婚した夫婦とかけ離れていたので。リリスはチャーリーの頭を撫でて、それはね、と笑った。

「ルシファーが私と離婚して悲しんでいるところが見たいから」
「えっ……」

 チャーリーには少し早いかしら! と高らかに笑ったリリスは、いつかわかるとチャーリーを抱き締めてリビングにあるモニタの電源をつけた。リビングで存在感を放つこのとても大きなモニタは、ルシファーが(恐らく)知らないうちにリリスが仕掛けた監視カメラの映像を見ることができるものだ。一応、普段はテレビとして役割を与えられているのだが、リリスがそれをテレビとして扱っているところは未だ確認されていない。チャーリーを「離婚って反りが合わなかったり愛しあえなくなったりしてするんじゃないの……?」と混乱させた原因のひとつでもある。
 モニタに映ったルシファーは、誰とメッセージのやり取りをしているのか険しい顔で舌打ちまでしている。チャーリーの見たことない顔だ。それを見て少し機嫌を損ねた様子で「あらまあ、金の亡者が鬱陶しいこと」と呟いたリリスが電話を掛ける。

「ま、ママ……?」
「いいからいいから。ほら座って」

 モニタの中のルシファーが電話を取り落としているので、今リリスが掛けている相手はルシファーで間違いない筈だ。何をしているのかと問おうとしたチャーリーをソファに座らせて、リリスは漸く電話に出たルシファーに甘い声で囁く。

「ハァイ、ルシファー! 良い夜を過ごしてる?」
「り、リリス! ああ、えーと、そうだね、いつもと変わりないよ。君はどうだい?」
「あら、私がなにしているか知りたい? ……あなたのこと考えてるのよ、今日だけじゃなくて毎晩ね」

 モニタ越しのルシファーの顔が真っ赤に染まり、リリスの顔は満面の笑みに変わった。初恋相手に電話するティーンのような反応をするルシファーと、それを揶揄うリリスに、チャーリーはますますリリスの思惑がわからなくなる。ママはなにしてるの? 私はなにを見せられてるの? 画面向こうのルシファーは、チャーリーとお揃いの尻尾をブンブン犬のように振っている。

「声が聞きたかったのよ、ルゥ。それだけ。おやすみなさい」
「あ、ああ! おやすみ、リリス」

 見えないにも関わらず(見えているけれど)笑顔で電話を切ったルシファーの尻尾は、リリスの声がしなくなってへにゃりと力を失った。暗くなった画面を寂しそうな顔で見つめてため息を吐くルシファーを指さして、リリスは少女のように笑う。

「ほら、見てチャーリー。あなたのパパって本当に最高なのよ。たまらなくかわいいわ」
「あー、ああ、えーと……、そうね、パパはかわいいと思う……」
「ママはね、パパのどんな顔もどんな姿も見たいの」

 好きな人には笑顔でいてほしい。チャーリーはそういう質なので、リリスの気持ちはわかりそうになかった。好きな子をいじめたくなるタイプが周りに居ないでもなかったので、「ママってそういうタイプなんだ」と少し納得はしたけれど。離婚は手段、そういうこと。

「でもぉ……、その、離婚したら、パパが他の人と結婚したり、とか、考えない?」
「ルシファーが結婚? 他の誰かと?」

 ここでリリスははじめてその可能性に気がついたらしく、何度か瞬きをして少し考え込む仕草を見せた。ルシファーのあの様子からしてその可能性は限りなく低いけれど。
 チャーリーは、特に夫婦仲に問題がないのなら離婚しなくてもいいんじゃないか、と思っている。昔みたいに3人で暮らすことができたら素敵だなと。ルシファーやリリスの知り合いから「新しいパパ(ママ)とかどう?」と聞かれるのに辟易していた……、というのもあるけれど。少しだけ。

「ふぅん……」
「嫌じゃない?」
「そうね……、嫉妬しないと言えば嘘になるわ」
「でしょ!? なら、」
「でも興味があるわね、とっても」

 チャーリーの目論見通りとはいかず、キラキラの笑みでモニタを消したリリスは「そういえば寝取りってしたことないもの」と悪魔の呟きを残して去って行った。ルシファーから愛されているという絶対的自信(事実)が恐ろしい計画を加速させているような気がしてならず、チャーリーはルシファーへ電話を掛けるか4、5時間迷い、結局掛けられず翌日寝不足となった。



──────



 マーーーーーーーージで全てに対してやる気がない。やらなければいけないこと……、は、そんなにないけれど、「そういえばやろうかなと思ってたけど放っておいてること」とか、「今じゃなくていいけどいつかはやらないとなと思ってること」とかが頭の中を飛び交う。でもやる気がなくて「あー今日なにもやらなかったな」だけが蓄積されてその結果無力感が襲いかかってくる。悪循環。地獄の王だから時間だけは無限にあるのに、なんとなく時間に追われている気がして居心地が悪い。なにか、なにかやらないとな……。気持ちだけはあるんだよ、本当だよ……。

「……もしもし、チャーリー? あの、そう、ちょっとパパからお願いがあって……。いや無理はしなくてもいいんだよ、もしよければ、なんだけど、……天使軍のリーダーとの、会議に代わりに行ってくれないかなと……。うん……、えっ? そう? そうかそうか! でもその、相手には気をつけるんだよ? 危害を加えられることはないだろうけど……、まあ、その、なんていうかな、向こうの奴は……、ちょっと、アレだから……! 我慢ならなくなったらすぐ帰ってきていいからな、パパが全部責任取るから、本当に! あっ、かなりやる気なんだな、いやいやいいことだ。うん。あ、じゃあ、はい」

 心苦しいが、チャーリーも地獄のプリンセスであるし、そろそろこういう仕事を回してもいいかなと思っていた頃合いでもあったので、アダムとの会議を代わってもらうことにした。少しでも嫌だと言われたり、気配を感じたらすぐに引っ込めようと思ったのだけれど、思いの外チャーリーは乗り気だった。天使に興味があるのかな? 天使なんかいいものじゃないぞ……、だって最近のは特に神が作った天使じゃなくて人間が昇天した結果の天使が増えてるからな……。冗談じゃなくこの世界の人間って倫理欠如しまくりだから。天使になる人間もロクなもんじゃない。まあ神が作った天使も私とは大概反りが合わないんだが! ははは! ……はあ。

─prrrrr

「リリスッ!! や、やあ、リリス、今日もいい日だね!」
「ええルシファー。このあと時間はある?」
「こ、このあと? えーと……」

 ある。ありまくる。なにせ今しがた予定をチャーリーに投げたばかりなので。元気がないとかやる気がないとかはリリスの声を聞いた時点で吹き飛んでいるので問題ないが、娘に用事をぶん投げたなんて、リリスが聞いたらどう思う?

「ルゥ、もしかして、私よりも大事な用事があるの? なら、」
「ない! ないよ! 君よりも大事な用事なんて! ……あー、その、今日は実はアダムと会う約束があったんだが、部屋から出る気が起きなくてチャーリーに任せてしまって。父親としてそんな体たらくだなんて、その、なんていうか、……ごめん」

 しかもよりによって会わせる相手がアダムだ。リリスもいい気はしないだろう。チャーリーの身が心配な筈だ。何者からも家族を守ると誓ったはずなのに、私は……。

「ああ、なんだ、そんなこと! 大丈夫よ。チャーリーは今、自分のやりたいことをしていて、それには天使と話すことも必要だもの。偶然とはいえ、チャーリーには丁度いい機会だったはずよ」
「えっ、そうなのか?」
「そうよ、もしかしてチャーリーから聞いてないの? ……ああ! 落ち込まないで私のかわいい林檎ちゃん。きっと時が来ればチャーリーのほうから話してくれるわ!」

 ちょ、っと、ショック。嘘。だいぶショック。チャーリーとは近頃距離も近づいてきて、仲良くなれてきたと思っていたのに。私は娘がなにか目標を持って取り組んでいることもその内容も知らなかったなんて……。話してくれるかな? 本当に? ぱ、パパには、話したくなかったとか、そういうの、ない……? 「パパは余計なことするから……」みたいな、いや、チャーリーはそんなこと言わないけど。お、落ち込まない、落ち込まない! せめてリリスの前ではね!

「大丈夫だよ! 君の言う通り、いつかチャーリーのほうから話してくれるまで気長に待つことにするさ」
「ルゥ、ねえ、そんな悲しい顔しないで。私まで悲しくなってしまうわ……」
「えっ? リリスまで? 参ったな、そんなに声に出てたかい?」
「…………ええ! それに私、あなたのことならなんでもわかるわ。表情だって手に取るようにね」
「ハハ! 君はなんでもお見通しだ。でも、そうだね、君を悲しませるわけにはいかない。チャーリーを信じて待つよ」

 「そうして」と笑うリリスは本当に素敵な女性だ。彼女はまるで魔法を使うかのように、いとも簡単に私の心を軽くしてくれる。いや、私が単純とかそういうんじゃなく。違うよ。リリスの魅力だよ。言葉、仕草、声色、それらすべてが私の心を解く。うん、愛だ。君の全部が好きだよリリス……。たまに「電話越しに私のこと見えてる?」って思うときあるけど、やっぱりそれも……、えへ、リリスからの、愛……なのかな!? まだ枯れきってないのかな!?

「それじゃあ、少し出かけましょう。食事でもどう? あなたはたまに食事を抜いてしまうときがあるから心配だわ」
「えっ、あ、あはは! 大丈夫だよ、私はほら、元気だし! でももちろん喜んで!」

 ちょうど2、3日何も食べていなかったからドキッとした。食べなくても死んだりしないから、うっかりそういうこともある。うっかりね! しかしこれは……、もしかして、デート、なのでは……?

「あー、リリス? シャワーと着替えの時間だけ欲しいかな……。ずっと部屋にいたから、身支度ができていなくて」
「寝癖がついてるあなたも素敵だけど……、準備ができたら連絡して」
「ああ、わかった!」

 急いでシャワー浴びないと! どんな服を着ようかな、あまり派手なのは駄目だ。いつもの白は地獄では目立つ。リリスとの食事を邪魔されたくないし……落ち着いた色の、上品な服を引っ張りだそう。たしか……、ああ、あった。よしこれ。あとはシャワー……、あ、寝癖ついてる。


──────


 そうだ、酒を飲みに行こう。思い立てば即行動、京都行くよりは近いさ。
 外に遊びに出かけるなら、変装は必須。地獄の王って有名人なんだ……。面が割れてる。目立たず遊びたいなら、やっぱり変装するしかない。トレードマークを隠せば顔が似てたって気がつく者はいないのは、そもそもの話、そこまでする悪魔が居ないから、か? まあ私のレベルまで変装するような悪魔も居ないからな。ふふん、私の変装スキルは地獄いち! なんて。
 白い服はやめて、そうだな、黒にしよう。髪は……黒だとナメられる気がするから少し明るく茶色。背も少し伸ばしておこう。別に私の背は人間基準なら特別小さくはないが、背格好が人外ばかりだと少し埋もれる。つまるところ、ナメられる。治安がまるで世紀末。本当に、昔は大変だった、地獄の王なのに小さいとかどうとかこうとか散々理由をつけられケンカを売られては高値で買い……。よし! これで……、うん? うーん、茶色だけだとすこしまだ野暮ったいか? 髪は明るければ明るいほど威嚇になるからな。メッシュ入れておこう。よしよし!

 大概の悪魔は酒を好んでいるので、酒を飲む場であるバーはいろんなところに存在している。酔っ払いのせいで潰れる頻度も高いが、酒を飲める場所を求める者は多いのですぐに直るなり新たな店が建つなりする。欲望のためなら幾らでも動けるんだ、悪魔ってやつは。ただなあ、この、バーの悪いところはな、大抵どこもセックスバーになってるところだ。3大欲求解放推奨派大多数なもんだから、酔ったらセックスしたくなるしなんなら酔わせてセックスに持ち込みたいやつらばかり。どうして地獄ってそうなんですか? 地獄だから。地獄の王の称号ちょっと嫌になってきたな。私の統治が悪いみたいに聞こえない? そこまで厳格に統治してないんだよ、別に。

「お兄さん、かっこいいねぇ! どう、向こうにいい部屋あるよ?」
「いいや、私は遠慮しよう。まだ1杯も飲んでないんだ」
「そうなの? 残ねーん! もしノってきたら声かけてねー!」

 今日は比較的潔いレディに当たったな。たまに「酒なんていいじゃん」と言う者もいる。何をしにバーに来るのかなんて人それぞれだが、他人の目的を「なんて」と下げるのはいただけないなと思っていたので幸先が良い。いや、セックスはしないが。気分転換も兼ねてアルコールをぶち込みにきただけなんだ私は。

「ふむ……。バーテンダー、最近の人気はなんだ?」
「セックスドラッグ入りのスクリュードライバーですかね」
「あ、そう。マティーニにしよう」

 うっかり表情がなくなってしまった。人気メニューを聞いて薬入りのカクテルが返ってくるとはね。それ自分で頼んでるやつ? それとも……、これ以上はやめよう。おすすめを聞いた割に別のものを注文した私に何を言うでもなく、こっくりと頷いたバーテンダー。さっきの会話は聞こえていただろうし、ただの酒飲みだと思ったのだろう。それでいい、それがいい。

「どうぞ」
「どうも」
「……お客さん酒を飲みに来ただけと言いましたね? しかし、もし1人で来たのなら、すこし気をつけたほうが」

 いい、まで言わず言葉を切ったバーテンダーは、「失礼」とひと言残し足早に他の客の方へと向かった。ふん、まあ、わかるさ。私の後ろから近づいてくる奴のせいだろう。別に楽しく談笑していた訳ではないが、人との会話に割り込もうなんて品のない奴。つまらん。

「ヘェイ、初めて見る顔じゃないか? 色男」
「……」

 おまけに馴れ馴れしいときた。私の今日の運は、先ほどの潔いレディで使い果たされたらしい。身体に回された腕2本を外しながら横目でご機嫌ゼロ距離男を見やると、彼は私の嫌そうな視線に物怖じせず「ヒュウ!」と鳴いた。変な鳴き声。私がもう少しマシに作り直してやろうか? そういうのは神の次に得意なはずだ。そうだな、私ならまず蛾じゃなくてアヒルにする。

「なんの用だ」
「おいおい、冷たいな。でもそういう顔は唆る。蕩けた顔を想像すれば尚更だ。夜のバーで声を掛ける、その意味くらいチェリーボーイでもわかるぜ。なぁ?」

 品のない奴だとは思ったが、本当にこんなに下品な奴だったとは。私はリリスとイチャイチャするのは好きだが、知らない男にストレートなセクハラをされるのは好きじゃない。あたりまえ体操。好きなやつ居る!? 居ねえよな!?

「生憎だが、私はここに穴を探しに来たんじゃないんだよ」
「じゃ、棒か? 俺はそっちも自信あるぜ、ハニー」
「ハッ! 冗談は止してくれ。お前が?」
「当然冗談じゃない。俺が誰だか知らない、なんて言わないよな? 身を任せろ、天国見せてやる」

 ピンクの煙を吹きかけてくる男のハート型サングラスを叩き割りたい衝動に駆られるが、地獄の王は理性的なので我慢した。ビークール。事を荒らげず、場を騒がせることなく酒を飲みたかったから変装したっていうのに、ここで怒りに任せては意味がない。お前のことなど知らないし、私はどうでもいい他人にぐだぐだと時間を使うのが嫌いだよとストレートにNOを突きつけてやりたいのも山々だが……。

「……ん?」

 おっと、リリスからメッセージ。電話じゃないなんて珍しいな。

「オイ、ムードがわかってねぇな。普通こういうときによそ見するかよ! ご主人様に呼ばれた犬みてぇなツラしやがって!」
「すこし静かに」

 ムードもクソもないんだよ。私は嫌がってるだろ? あ、なに? 嫌がってても段々ヨくなってくる? あ、そう。ふーん。ええと、「今はどこにいるの? 用事が終わったら電話して。待ってる」? こ、こうしちゃいられない! リリスが待ってる! なら素早く片付けられる方法はひとつ!

「よしわかった、5分だ」
「アァ?」
「5分で私がお前に天国を見せてやろう。無理だったら幾らでも付き合ってやる。お前のシたいことを、好きなだけな」

 天国って、まあ私堕天してるんだが! ハハハ! プライドの高いらしい悪魔は、侮られたと感じたようで眉間に皺を寄せたが、「そこまで言うならお手並み拝見といこうか」と席を立った。

「それだけ大見得切って期待はずれだったら、お前が主演のレイプAVだ。約束しろよ、かわいこちゃん」

───

「もしもし、リリス?」
「ハァイ、ルシファー。随分早かったのね」
「君を待たせたくなくてね。それになにより……、その、私が君と話したかったから」
「そう? ……嬉しいわ」

 5分どころか3分で用事を済ませ、変装も解いて部屋に戻ってきた。口ほどにもなかったな、後でシャワー浴びよう。先程の悪魔の煙たい匂いが染み付いている気がする。

「さっきまでどこで何をしていたの?」
「少し外にお酒を飲みにね! たまの気分転換だよ」
「あら、外に? じゃあ魅力的な誰かからのお誘いも沢山あったのかしら」
「まさか! 君より魅力的な人なんて居ないよ、リリス」

 君がなにより、誰より1番だよ……! 離婚していたとしても、私が他の誰かを君以上に愛するなんてことはない。そこのところ知っておいてほしい。誤解しないで。あ、ちょっと待ってこれ別れた旦那から言われると重くてキツい? タンマタンマ。ちょっと待って。

「あっ、ちょっと待ってくれ、これは、」
「……嘘なの?」
「嘘じゃない!」

 あっ、しまった、急に声を荒らげてしまうなんて紳士的じゃない。

「あー……、ごめん、急に大声を出して、ええと、すまない。うるさかっただろう。……でも、本当の気持ちだよ。私の君への気持ちはいつも嘘偽りない。君とは……、道を違えたけれど、ずっと大切に思っている。どうかその気持ちを抱くことは許してほしい」
「ルシファー……。……私も」
「えっ!? ちょ、りり、あっ切れてる!!」

 今の「私も」ってどう……!? 脈あり? ありかな? まだ死んでなかった? なら死者蘇生より希望があるじゃないか! ……じゃあなんで、離婚……、これ、あれかな、過去の男としてはまあまあ、みたいな? ぐっ……、格好悪くても離婚の理由くらい聞いておけば良かった……! それさえしておけば今こんなにもだもだすることもなかったのに! でも、もしリリスも未だ私を愛してくれているのなら、なぜ離婚に至ったのだろうか? やっぱりリリスは私のこと嫌いに……、いやでもさっきはどこに掛かっているかはわからないけど「私も」と言ってくれたし……、まだ電話もくれるし声が聞きたいとも言ってくれるし……。リリス……。

「ズビ……」

 駄目だ。夜は情緒の振れ幅が酷くて、嬉しい悲しいてんこ盛りだからすぐに涙が……、いや、まだ泣いてないから。涙が落ちない限りはギリギリ泣いてないこととする。強がりたいよ、男の子だもん! こんなの恥ずかしくてリリスに顔向けできない! グズグズな私の介護をさせなくて済んでいることは、離婚の唯一の利点だろうか……。さっさとシャワー浴びて寝よう。

───

「チャーリーってさ、兄弟いる?」
「え?」

 雑談の流れで聞かれたことに、チャーリーは首を傾げた。地獄のプリンセスとして有名なチャーリーは、自分以外にその血族がいないことも地獄では知れ渡っていると思っていたからだ。思いもよらないことを聞かれてびっくりしたチャーリーに、ヴァギーも「えっと、居なかった……よね?」と聞いてくる。

「いないいない! 居たらみんなにも紹介してるわ」

 きっと、多分、恐らくは。チャーリーは連絡のとれないリリスと、電話のやり取りしかしていないルシファーを思い浮かべて苦笑いした。多分、紹介できると思う……多分……。

「でもどうして急にチャーリーの兄弟の話を?」
「ああ、うちのボスがさぁ、ちょっと前にセックスバー行ったんだって」

 チャーリー隣でヴァギーがギュッと顔を顰めた。……顰めたが、行ったのはエンジェルのボスなのでここで話を遮るようなことはせず、話の続きを待っている。チャーリーはそっとヴァギーの背中に手を添えた。偉い、大好き、愛してる。

「まあそれだけならいつものことなんだけど、面白いのがその後! ……って言っても本人が喋らないから、噂程度なんだけど。ヴァルが声掛けた客が「5分で満足させてやる」ってヴァルと部屋に入って……どうなったと思う?」

 「だって、相手はあのヴァルだぜ? 5分って!」と興奮するエンジェルは、チャーリーとヴァギーに考える暇も与えずそのままの勢いで続ける。

「マジで驚くよ、3分で部屋から出てきた! ヴァルを置いてその男だけ! アッハハハ! あのヴァルが! 3分で腰砕けだよ! この話聞いたとき半信半疑だったけど、ホントだったらいいなって腹捩れるくらい笑った!」
「そ、そうなんだ……」

 チャーリーとヴァギーは話の笑いどころがわからず置いていかれたが、エンジェルが笑っているならチャーリーはそれでよかった。笑いの種は他人の醜態だけれど、ヴァレンティノという上司はどうやらエンジェルに酷い仕打ちをしていたようだったから。

「で、それがなんでチャーリーの兄弟の話になるわけ?」
「そりゃもちろん、似てたからだよ」
「えっ、私に!?」
「違う違う! あ、いや、違うこともないのか? 似てたのはルシファーのほうだよ」

 エンジェル曰く、噂話が知れ渡ることになった原因は「ヴァレンティノがヴォックスに人探しをさせたが、認識阻害のせいで見つからなかったらしく、今日は恐ろしく機嫌が悪い」という事態から。

「しばらくヴァルが「あの顔どこかで……」って呟いてるもんだから、どっかのちょっと有名な奴でも引っ掛けたのかなー、くらいに思ってたんだけど。撮影終わってたまたまスタッフの持ってた雑誌見て、ヴァルが「その顔!!!」って叫ぶからさ。もうわかった?」
「ああ……雑誌の表紙がパパだったのね……」

 メディアは地獄の王という強くて格好いい象徴が大好きだ。ルシファーが調子のいいときはたまに撮影に応じるらしく、チャーリーも実は2冊買ってある。1冊ではなく2冊なのは、音信不通のリリスがもしも万が一買っていなかったら渡すため。多分手に入れているだろうけれど、リリスが手に入れていないなんてことになったら、チャーリーの1冊を持っていかれる恐れがあるので。チャーリーだって、実の父が表紙の雑誌は持っていたい。

「でも私に兄弟は居ない筈だけど……」
「そうなんだよね。……隠し子とか?」
「エンジェル!!」

 チャーリーの代わりにヴァギーがエンジェルを咎めたが、チャーリーの頭の中は大騒ぎでそれどころではなかった。隠し子? 隠し子って、隠す子供? ママの知らない間にパパが作った子供ってこと? 待って、バーに居るってことは少なくとも酒の提供に「坊っちゃんにはまだ早いんじゃないかハハハ」なんて言われないくらいの年齢ということ。なら、チャーリーと大きく年も変わらない筈だ。ここまできてチャーリーの頭の中は少し静かになった。ルシファーに隠し子なんて居ようもないじゃないか、という結論にたどり着いたから。

「大丈夫よ、そんなに怒らないでヴァギー。似ているのは気になるけど、パパに隠し子は居ないわエンジェル」
「あれ、チャーリーってパパは浮気とか絶対しないと思ってるタイプ? わかんないじゃん、裏でどこの誰と子供作ってるかなんてさ」
「ちょっと、エンジェル! さっきからなんてこと言うの!」

 「地獄じゃよくあることだしー」と言うエンジェルは隠し子説に肯定的なようだが、こればかりはルシファーとリリスの子供であるチャーリーが1番よくわかっている。自信たっぷりに、チャーリーは胸を張った。

「だって、もしパパが子供をどこかで作ったとしても、ママがそれを知らないわけないもの! だから、少なくとも隠し子じゃないわ!」
「……知らないわけない?」
「そう! ママはパパのことならなんでも知ってるもの。なんでもね!」

 チャーリーに伝えられていない可能性はあるが、それにしたってリリスが知らない筈がないのだから「隠し子」というのはきっと正確ではない。年齢から察するに離婚前にできた子供だろうから、より正しく言うなら妾の子であるとか、恐らくはそういう。チャーリーは隠し子を、言葉通り誰からも隠している子供だと認識している。

「あっ、でも世間から隠してたら隠し子になるのかしら?」
「いや、うーん……、それより気になるところがあってそれどころじゃないって言うか……。チャーリーのママって結構な束縛系?」
「とても愛情深い人よ! 私も愛する人と、パパとママみたいに深く愛しあえたら……、あっ、やだ! ヴァギー今の聞かなかったことにして! 恥ずかしい!」
「…………ヴァギー、束縛は遺伝してるかもよ」

 恥ずかしがるチャーリーを横目に、エンジェルはヴァギーの心配をした。ヤバい女の娘がヤバい女のことを「愛情深い」と称したからだ。しかしヴァギーは無言で首を横に振った後、そっと親指を天に向かって突き立てた。「心配ない、受け止めてみせる」の意である。

「でも気になるわ、パパに似てる誰か……」
「そのうち本人に聞いてみたら?」
「えっ!? え、えーと、そうねー……ははは」

 チャーリーは言えなかった。未だにルシファーに自分から電話をかけるという行為ができないことや、思春期を引き摺って少し会話がよそよそしくなってしまうことを。それでまず「もしかして私に兄弟って居る?」なんて聞くのは、ちょっと、いやだいぶ……キツかった。





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