短編 | ナノ


▼ ifヤクザパロ

※ぶつぎり
※五悠疑惑要素は最後に少し添えるだけ



「またなにか拾ってきたんだね……」

 呼び出された悟の部屋。そこで居心地悪そうにソワソワする青年。紙面で何度も見た顔が、状況を把握しきれていない表情でそこにある。

「虎杖悠仁くんでーっす! 借金背負ってたから、その分払って貰ってきちゃった」
「まあそんなことだろうと思ったよ」

 呼び出された時点で、大方予想はついていたのだ。若干諦め気味に「今回は誰かな」なんて予想をたてながら、今後のことに頭を悩ませていた。金は山のようにあるのだから、勝手にそれを使うことは別にいい。問題は、拾ってくるのが人間だってところ。「かわいーよね!」と虎杖の頭を撫でる悟には全面的に同意なんだけど、終始困惑気味の虎杖が少し哀れだ。現状に関する説明とか全然されてないんだろうなあ。

「それでぇ、こっからが本題なんだけどぉ……」

 告白前の思春期女子の真似なのか、身体をくねらせてソワソワする悟に嫌な予感がビンビンする。顔面力のお陰で、気持ち悪いとも言えないところが余計に腹立つ。お前ほんとにその顔面に生まれたこと感謝しなよ。

「一応聞いてあげよう。何?」
「悠仁のこと、傑がもらって欲しいなぁ、って」
「は?」

 いや、自分が勝手に拾ってきておいてそれはお前。拾ってきた犬猫の世話を母親に任せる小学生より酷いな。相手は人間だぞ? 私は悟のママじゃないんだよ! 

「嫌だよ。自分が拾ってきたんだから、ちゃんと責任持って自分で世話しなさい」

 ああっ、虎杖の視線が痛いっ! 「やべぇこの人ら、俺のこと犬猫みたいな扱いしてる……」みたいな目で見ないで。いや、悟の方はそれくらいの軽さでホイホイ人を拾ってくるけど、私も悟も流石に人間を犬猫と同じに見ているわけではないんだよ。信じてもらえるかどうかは別としても、すごく弁明したい。

「そうしたいのも山々だけどさ……ね?」
「……ああ、乙骨憂太と祈本里香か」

 周りの反応を想像したのか、悟が少し残念そうに肩をすくめた。手も上に上げて、随分とアメリカンなジェスチャーだな。
 悟は少し前に乙骨憂太と祈本里香を拾ってきている。悟が人を拾ってくること自体はよくあることだが、あまりにスパンが短いとあまり良い顔をしない奴が居るのだ。悟は純粋に「家族」として拾ってきているのだけど、それを理解できない者からすると滅茶苦茶に個人勢力の増強をしているように感じられるらしい。不思議ぃ。別に良いだろほっとけ、と思うが、そういうところは絶妙なバランスを保つことが必要みたいだし。と、いうわけで、ここでまた悟が拾ってきたとなれば周りの組を無駄に警戒させてしまう。組内にも、よく思わない人間(悟が頭になる前から組に居る奴とか)が出てくるかもしれない。流石に悟もそこは多少なりと考えているのか。

「仕方ない。わかった、私が貰うよ」

 詳しいことを考えたことはないけれど、悟ではなく私が引き取って部下にすることでおさまる話もあるらしい。なにそれ。私、悟と双璧をなすとか言われてるけど、悟と対立する予定ないよ? 諌めはするけど、結局最後はGOサイン出しちゃうからなあ。保護監督者としては失格だけど、私は別に悟の保護監督者ではないのでなにも問題ないね。

「わーい傑ありがと! 大好きっ」
「はいはいありがとう。それより早く仕事行きなよ」

 好きの大安売り。甘い猫なで声の悟を軽くあしらって虎杖の方へ目を向けると、目があった虎杖の肩が一瞬跳ねる。あ、うん、見た目が完全にカタギじゃない自覚はあるけどまさかそんな反応されるとは思ってなかった。ここは優しく優しく、仔猫に接するように……。

「君、ついておいで。悪いようにはしないから」
「っ、はい……!」

 しまった、完全に悪いようにする人のセリフだったな今の。虎杖がビビってる。私、悪い夏油傑じゃないよ! 悪い夏油傑も居るには居るよね。この世界線にはもう居ない(と思う)けど。悪い夏油傑(中身)
 悟の部屋を出て、私の部屋への廊下を進む。悟の趣味ではない真っ赤なカーペットが足音を見事に吸収してくれるので、足音は全然しない。さて、貰うとは言ったものの、私部下の育成とか向いてないんだよなあ。どうしよ。伏黒甚爾は一応管轄的には私のところだが、部下って感じはしないし。伏黒恵は悟の部下だし。これはもう、なるようにしかならないな。


───


 私の部屋は、面倒なことに悟の部屋から少し遠いところにある。何が面倒かというと、遠いことを理由に、夜私の部屋に来た悟が部屋に戻りたがらないこと。引き摺って部屋に戻すにもちょっと遠い。悟は私のベッドを占領し、私はその悟を床に落とす。私のベッドは1人用なんだ。

「さ、入って」
「し、失礼します……!」
「ははっ。そう怖がらなくても、本当に何もしないよ。君も今日から家族だからね」
「家族……?」

 家族という単語に困惑する虎杖にソファをすすめると、「俺ここに座っていいの!?」みたいな顔をされる。革張りで見るからに高そうだからかな。いい子だなぁ、虎杖は。どうぞどうぞ座りなさい。悟なんか血塗れだろうと容赦なく突っ込んでいくよ。清掃代を出してくれてなかったらぶん殴ってたね。嘘。清掃代出せよお前とぶん殴りました。

「君も、この組の家族。あー……、イタリアンマフィアが出てくる映画とか見たことある?」
「あ、はい。それなら、少し」
「組のことを、ファミリーって言うだろう? これならわかる?」
「あ、あの……、でも俺……」
「何?」

 虎杖が語ったのは、ここに来るまでの経緯。唯一の家族である祖父が亡くなり、天涯孤独となった虎杖のもとに現れた「祖父に金を貸していた」と主張する男。え、怪し過ぎるでしょ。信じちゃったの? 信じちゃったからここに居るのか……。何だこの純粋な生き物は。わ、私が守らなければ……!

「……それは随分前から目つけられていたんだろうね。祖父と2人だけの未成年となればそうか」
「や、やっぱりあれ嘘……!?」
「君の祖父は人に金借りたまま死ぬような人かい?」
「そんな人じゃない……! あ、いや……、だから、俺も可笑しいなとは……」
「なるほど、罪悪感と相手の勢いに負けた訳ね。君良い子そうだからなあ……」

 そして借金を返すために「金払いのいいバイト」をしていたところ、悟が虎杖の分の借金を払い、虎杖はここに貰われたのだという。その金払いのいいバイト、後で悟に詳細聞いておこう。もしも、いや、ないとは思うけど、身体売らされでもしてたら、その男殺さねばなるまい。もしもそうなら、今頃悟が殺してるだろうから流石に違うとは思うけど、一応ね。

「だからなんていうか……、俺って買われた訳だし、家族とかっていうのは……」

 眉を八の字に曲げて、力ない笑顔で頬を掻く虎杖。なるほど、借金肩代わりの負い目。良い子で真面目。私の教育で性格ひん曲がりませんように……!

「悟はね、身内に甘いんだよ。ひと目見て君のことを「よし、家族にしよう!」って思ったんじゃないかな、多分。もうその時点で君は悟の身内。そしたら、大事な大事な家族(仮)が不当な借金なんか負わされてるから「よーしパパ頑張っちゃうぞ!」ってノリで金払ったんじゃないかな」
「そんなノリで!? 初対面なのに……」
「悟はそういう男だからね」

 そういうノリで灰原も七海も連れ去ってきた訳だし……。なにか本能に刻まれてるのか、ピンポイントに本来関わる人間を引き抜いてくる。しかもその上マジで時々保護者面しているので、一部に大層ウザがられている。「身内センサー」とか適当に形容して面白がっているけれど、原作の知識がなかったら私は悟のこと多分気狂いだと思ってた。

「だから、君も家族だよ。もしもこのことが気にかかってるなら、いつか悟に「あのときからずっと感謝してる」って手紙とチョコレートでもあげればいいさ。家族なんてそんなものだろう?」
「そ、う……なんだ……」

 ぎこちないけれど、確かに笑みを浮かべた虎杖にこちらも安心した。とりあえず腑に落ちたようで何より。

「じゃあ風呂入っておいで。着替えは……、まあなんとかするから」
「えっえっ、あの、ちょっ」

 虎杖をソファから立たせ、ぐいぐい背中を押してバスルームへと押し込む。虎杖と体格が似てるのは誰かな。恵は虎杖より細いけど、大きめのものがあればそれは入るかもしれない。恵に電話を掛けると、ツーコール程で繋がった。

『はい、どうしました?』
「恵、少し大きめの服持ってる? あるなら貸して欲しくて」
『は? ……いや、ありますけど』
「新しい家族に貸してあげたいんだ。悟が拾ってきたのを私が引き取ってね」
『あの人、また拾ってきたんですか……』

 「しかも夏油さんに……」とため息まじりの恵の声に、苦笑いを溢す。恵も呆れ気味だけれど、悟の行動を止めはしない。なにせ恵も悟に拾われた子。自分がそうされて良かったと思っているからだろう。伏黒甚爾の息子に生まれ、禪院(極道)に引き取られるとかそうじゃないとかバチバチに揉めてたところだったしなあ。

「多分恵と同じくらいの年頃だと思うんだけど、ちょっと恵より体格が良さそうだから……」
『……わかりました。すぐ持っていきます』

 最後の声が気持ち拗ね気味だった。体格の話は駄目だったかもしれない。父親が体格いい上、それに関して揶揄ってくるからなあ。
 電話を戻し、虎杖が座っていた反対側のソファに深く腰掛ける。高級感あるソファは身体を柔らかく受け止め、深く沈む。私のお気に入りなのだが、仕事の関係で中々部屋自体に戻ることも少なく、ゆっくりとこれで寛げるのは久々だ。上着を背凭れに掛け、ネクタイを緩める。もう仕事したくない。

「夏油さん。……あの、入っても良いですか」
「ああ、恵? どうぞ」

 「すぐに持っていく」の言葉通り、急ぎで来てくれたらしい。部屋が近くて助かった。

「よぉ、元気そうじゃねぇか!」
「げ」
「……すいません」

 扉を開けたのは恵ではなく、それによく似た顔の(厳密には恵が似ているのだけど)父親だった。恵が若干言い淀んだのはこれだったか。ズカズカと遠慮なく部屋に入ってきた伏黒甚爾を止めることはしない。あの野郎はフィジカルがゴリラなので私では止められないし、嫌がるとヒートアップするタイプだ。申し訳なさそうな恵にも悪いので、軽くため息を吐く程度でおさめてやる。

「はぁ……。恵、服はバスルームのところに置いてくれるかな」
「はい」
「あー……、新しく拾ったんだって?」

 私が仕事用に使っている革張りの椅子に座って頬杖をついた伏黒甚爾が、恵の背を追うようにバスルームへと視線を向けた。虎杖が来てまだ2、3時間しか経っていない筈だが、何故伏黒甚爾が知っているのだろうか。恵に私が連絡を入れているので、恵から聞いているという可能性もある。あるにはあるが、恵と伏黒甚爾は仲が悪いのでなんとなく違和感が拭えない。
 訝しげな視線を払うように手を振った伏黒甚爾が口を開く。

「両面宿儺、居るだろ」
「……両面宿儺? また随分大御所の名前が出たね」

 両面宿儺。本来なら呪術廻戦で虎杖悠仁が飲み込んだ指の所有者(?)であり、呪いの王。この裏社会では、悟率いる五条と鎬を削る程のビックネーム。古くから裏社会に轟く重鎮の名前だ。勿論人間がそんな長生きできる筈がないので、両面宿儺の名前を代々継承していくナニカ、というのが暗黙の認識だが。虎杖の存在が我々のもとに来た直後にこの名前を聞くことになるとは。これは、もしかしたらもしかするのかもしれない。

「ついさっき、エントランスで絡まれた。「虎杖悠仁を出せ」つってな」
「……は?」
「周りの奴に聞いてもそんな名前知らねぇっつーから、一旦応接に通してお前んとこ来たわけ」

 ついさっきエントランスで両面宿儺と名乗る人物と会敵。「虎杖悠仁を出せ」と言われたが、拾われたばかりの虎杖の存在を知る者が居らず、しかし追っ払うにも追っ払えず取り敢えず応接間に通した。それで、一応自分の上司である私に報告しに来た……、のか?

「馬鹿お前もっと早く言え!」

 ゆっくり椅子に座ってる場合かー! ネクタイを締め直し、上着を羽織る。本物かどうかはさておき、両面宿儺を名乗る人物を応接間に長時間待たせるのはまずい。なんで悟が居ない時に来ちゃったかな! 虎杖を貰ったのは私だし、私が行くしかないのか。あーくそ、悟に押し付けたい。

「恵! 後よろしく頼むよ!」
「えっ」
「ちょっと応接行ってくるから! 応接何番?」
「3」
「遠い!」

 だけど、応接室3は広くて他より比較的いい部屋感があるので選択は正解。「面倒そうな客を迎えるときはとりあえず応接室3」と言い聞かせていた甲斐があったらしい。虎杖のことは一旦恵に任せれば大丈夫。後ろに伏黒甚爾がついてきている気配を感じながら、廊下をなるべく早足で進む。

「一応聞いておくけれど、エントランスの被害は?」
「あー……、まあまあ酷い」
「頭が痛いね。まあ、私が何するってわけじゃないけど」

 道すがら、両面宿儺の居たというエントランスの被害を問えば「まあ酷い」との回答。だろうね。両面宿儺がカチコミに来て無事でいるわけがない。経理関係の仕事は私はしていないので、本当に頭が痛いのはその仕事を担当している人々だろう。痛いのはもしかして頭じゃなくて胃かな。傑くんは伊地知の胃が心配です。

 応接室の扉の前で深呼吸をひとつ。一応襟を正して扉を開くと、椅子にどっかりと座った男が私を迎えた。その顔は虎杖に似ており、私が漫画で見た受肉した両面宿儺と生前両面宿儺を足して2で割ったような姿だ。その背後には裏梅と思しき人物も控えている。どう考えても“あの”両面宿儺。

「どうもお待たせしたようで。今五条は外に出ておりますので、代わりに夏油が伺いましょう」
「……お前が夏油か」

 両面宿儺からの認知されている。まあこれでも組の中では重鎮のほうなので。悟と小学生時代に同級生になってしまったが運の尽きってやつ。

「それで、用件を伺いましょうか」

 あんたと世間話してる暇はないんだよ、と話を急ぐ。余裕そうに笑みを浮かべる両面宿儺に、顎の下で手を組んでこちらも笑みで返す。踏ん反り返る両面宿儺VS前屈み気味の私。笑顔は威嚇と常に申しております。

「虎杖悠仁を引き取りに来た」
「引き取りに?」

 それは可笑しな話だ。虎杖は祖父と2人で暮らしていて、その祖父が亡くなり天涯孤独。オマケに悪い大人に騙されて働いていた、という世界名作劇場みたいな悲劇を味わわされていた筈。そこに両面宿儺の関わる余地はない。あと、虎杖はもううちの子なので、引き取るとかそういうのはないです。さーて、どうやってオブラートに包んで伝えようかな、と思った矢先、応接室の重厚な扉が開いた。

───バンッ!

「夏油さんっ!」
「おい、虎杖!」

 扉を開け放ったのは、件の虎杖悠仁その人。虎杖の背後には恵が控えており、その顔に焦りを滲ませている。自分が面倒見るよう頼まれた人間が(一応)上司の面会に乱入だからね、無理もない。
 乱入してきた虎杖と、椅子に座った両面宿儺の目が合う。

「……小僧」
「……誰?」
「えっ、知り合いじゃなかったの?」

 まさかの赤の他人ですか? お帰りいただきますか? 虎杖の困惑がこちらにも伝播する。その様子に両面宿儺が舌打ちをひとつ。

「祖父の顔を忘れるとは……、この鳥頭が」
「……祖父?」
「いや、知らないッス」

 苛立ちを顕にした両面宿儺の口から出たまさかの血縁関係。祖父とは、恐らく虎杖が2人で暮らしてた祖父ではないだろう。先程の身の上話の際に存在を微塵も語られなかったように、虎杖の記憶にはまったくないようで、「俺のじいちゃんは1人だけだし」と存在を真っ向から否定されている。1人の人間が出来上がる過程を考えると、祖父が2人というのは当たり前のことなので、恐らく父方の祖父か母方の祖父かどちらか。虎杖の言っている「じいちゃん」は恐らく父方の祖父なので、両面宿儺は母方の祖父ということだろう。それにしたって秒で知らない判定される両面宿儺めっちゃ面白いんで一旦笑っていいですかね。

「とりあえずおいで。こっちに座って。……恵も入っておいで!」

 このまま立ちっぱなしで話をするのもなんだ、と虎杖に着席を促す。恵にも入室を促すと、気まずそうに伏黒甚爾の横へと待機しに行った。伏黒甚爾、ニヤニヤしながら肘で息子をつつくのやめなさい。嫌そうな顔してるでしょ。

「祖父、でしたっけ。本人から顔どころか存在すら認知されていないあなたが、今更何故「引き取る」と?」

 祖父って割に若いな……、と頭の端で考えながら話題をもとに戻すと、虎杖が「えっそんな話してたの……」と小さく呟いた。そして、両面宿儺が言葉を発するのを待たずに続ける。

「俺、あんたの顔も名前も知らないし、今更血縁者とか言われても困る」
「それに、もうこの子は私達の家族なので……。申し訳ないですが、引き渡すつもりはありませんよ」

 家族と言われて心なしか嬉しそうな虎杖に対し、両面宿儺の眉間には深い皺が刻まれている。実際のところ、虎杖の祖父が亡くなってから私のもとへ辿り着くまで、両面宿儺が虎杖を引き取るチャンスはあったはずだ。でなければ、虎杖かここに引き取られてすぐカチコミなんて芸当はできない。両面宿儺の思惑など知ったことではないが、さっさと引き取らなかったそっちが悪いんだよ。虎杖悠仁の家族権は先着制なのでね。余裕ぶっこいて逃してやんのウケる。血の繋がりでどうこうできると思った?

「はー……、うざ」

 しかし、状況の割に両面宿儺の表情に怒りは滲んでいない。どちらかというと、うんざりしたような、面倒くさいって感じの顔だ。面倒くさいのもうざいのも私と同じだね。キャッ、おそろっち(はぁと)

「うざいのはそっちなんだけど」

 あ、やっべ、声に出……、いや、私の声じゃないな? 音のした背後を振り返ると、我が親友であり、組のトップである悟が恵の横に並んでいた。え? 後ろ? 扉の開いた音とかしなかったと思うんだけど、いつから居たのだろう。

「悟? 仕事は……」
「両面宿儺が来たとなったら、こっち優先でしょ! ああ、終わらせてはきたから怒んないでね」
「別に怒りはしないよ」

 相手が相手なだけに、なんならそっちの仕事代わりにやったほうがマシって気持ちすらあったよ。掲げたブイサインを下ろした悟が私と虎杖の前に立ち、両面宿儺と相対する。若干ピリついた空気が部屋に漂う中、私の思考は遥か彼方へと飛んでいた。
 悟がピンチに駆けつける感じに、虎杖の生い立ち、まるでヤクザものの恋愛漫画みたいだ。ヤクザものの恋愛漫画? 恋愛? 悟と虎杖が? えっ……。そういうことか!? え、ほんとに? そういうこと?

「さっきも傑が言ったけど、悠仁はもううちの子だから。諦めて帰ってよ、おじいちゃん」
「……チッ。まあ良い、今回は退く」

 少し睨み合った後、両面宿儺は引くことにしたらしい。もう2度と来ないで。裏梅に言葉をかけるでもなくさっさと部屋を出ていく両面宿儺と、黙ってその後ろをついていく裏梅。裏梅の方は最後にこっちにちょっと眼光鋭い一瞥をくれて出て行ったが。
 それにしても、両面宿儺が祖父か……。若くない? 両面宿儺、若くない? びっくりしちゃった。美魔女(女ではない)かと思ったよ。両面宿儺は継承している名前というわけじゃなくて、普通にずっとあの人のこと指してるのかもしれない。そんな両面宿儺の孫か、結構なもの拾っちゃったな。バチくそに可愛いのでもう離すつもりないけどね! 両面宿儺と一対一(伏黒甚爾は含めないものとする)という心細い場面で乱入してきてくれた神の遣いだから。一生推す。虎杖はもう私の息子。在記持ちメンツに夏油傑の名前加えておいて。

「いやー! まさか両面宿儺直々にカチコミ来るとはね!」
「あの、俺ほんとにあの人のこと知らなくて……。でも、迷惑かけてごめんなさい」
「悠仁は悪くないよ、安心して。何回来ても僕が追い返してあげるから、悠仁はドーンと構えて待ってなさーい!」





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