短編 | ナノ


▼ 五悠時空を疑う夏

※ほんのり漂う五悠のかおり(主に脳内で)
※単行本14巻前後のものなので虎杖の出自について有耶無耶


「お前達に、今年入った1年生を紹介する」

 夜蛾の「お前達も先輩になるんだからちょっとは落ち着け」という言外の圧力。ちょっぴりやんちゃでごめんね。ほら、ちょっと悪いくらいがいいじゃないって言うし。そこはね。
 夜蛾の横に並んだのは3人の1年生。そう、3人の1年生だ。

「まず、灰原」
「灰原雄です! よろしくお願いします!」
「七海」
「七海建人です。……よろしくお願いします」
「虎杖」
「虎杖悠仁! よろしくおなしゃーっす!」

 「虎杖は両面宿儺の指を……」と説明する夜蛾の声が遠い。虎杖? 虎杖悠仁? えっ、虎杖悠仁ってあの虎杖悠仁? 呪術師には珍しい陽キャ2人の眩しい笑顔に若干気圧されながらも、虎杖の顔を見る。うん、あの虎杖悠仁だ。

「両面宿儺の、器……」
「そんなかたい声出すなよ傑〜」

 強張った声で呟いた言葉を拾った悟が、私の肩に腕を回す。

「悠仁は今のところ宿儺をおさえてる。いざとなったときの為に俺が居るんだし? 大丈夫大丈夫」
「そう。……そうか、悟が」

 なるほど、五悠先輩後輩パロディじゃねぇの! 今日から私の最推しカプは五悠! ありがとうございます!
 夏油傑として生まれて、今後についてどうしようかとずっとずっとずーーーーーっと悩んでいたが、これで全て解決! 何故なら虎杖悠仁がいるから! ご都合同人誌の世界だかなんだか知らないが、そういうのは大抵ハッピーエンドって相場が決まってるし大概の場合は救済モノ。本当のハッピーエンドを見せてやる(虎杖悠仁が)状態。捻れてようが関係ない。バタフライエフェクト? ちょっと難しいことはわからないけど虎杖悠仁がいれば大抵のことはなんとかなる。そんな気がするし多分そう。ありがとう世界。ありがとう五悠。今後は五悠を最も推していきます。夏五? 五夏? 聞いたことないな。私は五条袈裟は着ない!!

「よろしく、3人とも」



 せっかくだしそのまま先輩後輩交流しようと、放課後に6人で交流会ならぬ菓子パ。各自好みの菓子を持ち寄って、ただただ駄弁る会。
 2年の教室で、机を3つ寄せて密集する。ちょっと狭いけど、交流を深めるって点ならまあいいんじゃないかな。

「まあやっぱ菓子っつったらコレだろ」
「おおー! きのこたけのこ!」
「偉いね、悟。戦争が起きないようにちゃんと両方買ってきたんだ」

 前は「きのこだろ! きのこ意外は食いもんじゃねぇ!」とか言ってたのに。さては虎杖が居るからちょっと気をつかったな? 悟がそんなことを気にするようになるなんてね。お兄さんは悟の成長が嬉しいよ。因みに私は正直どっちでもいい。

「どっち派か語ると悟の逆鱗に触れる可能性があるから、その話はしないでおこうね」
「五条心狭いし」
「おいコラ」
「ほら怒った。夏油〜」
「はいはい」

 硝子が私を盾にするように背後に回る。肉壁かな? こんな扱いも慣れたもので、そのまま悟を諌める。はいはい、どうどう。
 1年たちは悟の言動に早くも慣れ始めているのか、きのこたけのこ各々好きなものを手に取っている。そういう図太さいいと思うよ。おやおや君はたけのこ派かな?

「私はこれ」

 硝子が机に出したのは、お酒のお供として有名なあたりめ。肴は炙ったイカって言うよね。

「酒のつまみじゃねぇか」
「イカ! 七海! イカ!」
「そんなに大きな声で言わなくても聞こえてます」
「俺これ結構好き」

 甘いものが好きじゃない硝子なので、可愛らしいお菓子が出てくることはないだろうと思っていたが、まさかイカが出てくるとは。「時々無性に食べたくなるよなぁ」とあたりめを掴んだ虎杖に、硝子が「炙る?」とライターを出す。あたりめをライターで炙る男子高校生の絵面面白すぎる。

「イカくせぇ……」

 悟は嫌そうに顔を顰めているけれど、私は虎杖の先程の意見に賛成。おつまみ系は時々無性に食べたくなる。あと、人が食べてるときとか。イカを炙る匂いにつられて、何だか私も食べたくなってきた。勝手知ったる硝子のライター。私も貸してもらおう。

「虎杖、ライター次貸してくれるかい? 私も食べたくなってきた」
「あ、じゃあ俺のと一緒にやっとくんで」
「そう? じゃあお願いしようかな」
「……じゃあ俺も」
「なんだ、五条はあたりめに文句があるんじゃなかったの」
「うっせ! いいだろ別に」

 はいはい、喧嘩しないの。本日2回目数分ぶり。仲がいいねふたりとも。
 虎杖が自ら炙ってくれたあたりめを噛み締める。虎杖が、自ら炙った、あたりめ……、うん、なんか字面が……、ネッ! 炙るって別に変な言葉じゃないのに雰囲気がアレ。雰囲気すけべポイント100点追加です。
 きのこたけのこにあたりめという異色のラインナップに、灰原が追加を投入する。

「じゃーん! 駄菓子です!」
「懐かしいね」

 幼少期に何度か駄菓子屋で買ったものや、ちょっと見覚えのないものまで。馴染みのある虎杖や硝子は「これが好き」「あれが好き」と色々物色しているが、対する悟と七海は物珍しいものを見る目で駄菓子を見つめている。

「悟はともかく、七海もあまり馴染みないのかな、駄菓子」
「あまり……」
「えっ、そうなの? おいしいよ、駄菓子。安いし」
「たくさん買えるから多幸感があるよね」

 「じゃあ七海はこれとこれとこれね!」と渡された灰原厳選駄菓子を受け取った七海。それにならって、私も夏油厳選駄菓子を見繕ってあげようかな、といくつか手にとって悟に渡す。

「傑のおすすめ?」
「そう。昔よく買ってたやつ」
「へえ」

 素っ気ない返事だが、悟の目はキラキラしている。まるで子供を見てるようでほっこりする。たくさんお食べ。私が持ってきたやつじゃないけど。

「ん、うま。悠仁のおすすめは?」
「俺? 俺は……」

 五悠、いちゃいちゃしてる……! 「これ甘いから五条先輩におすすめ」とか「うん、うまいこれ。好き」とか。そっかそっか、虎杖は悟の味覚を把握してるんだね。尊いね。
 七海はコンビニお菓子の新作、虎杖はお菓子のファミリーパック。そして私は無難にチョコとポテチ。このメンバーで闇鍋したらマトモな鍋ができそうで安心する。但し、悟がふざけなかった場合に限るけど。……闇鍋はやめておこうかな!

「山ほどあるお菓子の多幸感って、すごいですね……」
「わかる」

 楽しそうにお菓子を頬張る灰原に、皆で同意する。お菓子は人生を豊かにするよね。
 だがそんなほんのりほわほわふわふわな雰囲気で終わらないのが五条悟。

「ただ菓子食うだけってのもアレだし、なんかゲー厶しねぇ?」
「いいよ、王様ゲー厶でもする?」
「ああ! 人数居たら楽しそうですね!」

 意外にも悟の発案に乗ったのは硝子。そして更に盛り上げたのが灰原。このメンツで王様ゲームは地獄だな。特に、悟が王様になったときの命令が予測できない&ロクでもなさそうで。いやいや、冷静になろう。王様ゲームを合コンの定番ゲームであり、BLにおいて事故が起こりやすいゲームとして認識している私が過剰に心配をしているだけだ、これは。ほぼ男しか居ないのだから滅多なことは起こらない筈。エロ同人じゃないし。
 紙で適当に作ったくじを、「王様だーれだ!」の掛け声と共に引く。私が引いたのは3番。

「おっ、私王様〜」

 王冠マークの描かれた紙を掲げた硝子が、「どんな命令にしよっかな」と私たちの顔を見回す。一応親睦会だし、あまり厳しいのはやめてくれよ。まあ硝子はそういう采配がうまいから心配は要らないか。

「じゃあ……、5番が夏油の乳揉んで」
「硝子!!!」
「夏油声デカい」
「声もデカくなるよそりゃあね! 硝子王様ゲームのルール知ってる?」

 あと女の子が乳揉むとか言わないでほしいとかあるけど、まず王様ゲームは番号指定のみで名指しはできない。女の子が自分しか居ないから遊び放題だな硝子。エロ同人みたいなことすな。このメンバーでは誰も喜ばないぞ。……いや、嘘。五悠当たったら私喜んじゃうな。

「……5番が3番の乳揉んで」
「なんっ……!? 悟!!」

 硝子がピンポイントで私の番号を当てたことに驚いたが、振り向けば悟が私のくじを硝子に向かって広げていた。犯人は貴様か。

「いーじゃんか乳くらい揉ませてやれば。5番誰?」
「俺違ーう!」
「同じく違いまーす!」
「ってことは七海だ。おめでとう」
「傑ちゃんのおっぱい、柔らかくて最高だから目一杯堪能させて貰えよ」
「おい」

 人の胸筋をおっぱい呼ばわりする悟の頭を鷲掴む。なんだよ傑ちゃんて。キャバ嬢じゃないんだぞ。かわいそうな七海、くじ引きでたわし引き当てたみたいな顔してるじゃないか。

 結局「王様の言うことは絶対」にならって私の胸筋を触った(揉んだとは言わない)七海は、終始形容し難い顔をしていた。ただ後輩なりに何も言わないのは不味いかなと思ったのか、苦し紛れに「良質な筋肉は柔らかいって本当なんですね」とだけ。それを聞いた灰原と虎杖は目をキラキラさせて、「間接夏油さん!」「あっ! 俺も!」と七海の手を握っていた。1年3人輪になって手をつないでいる姿は可愛らしかったので、もう全てがどうでも良くなってしまう。

「よかったじゃん、いい親睦会になって」
「何終わらせようとしてるんだ硝子。ゲームはまだ始まったばかりだよ」

 言外に「テメェ絶対やり返してやるから覚悟しろよ」と伝えれば、硝子は上等だとばかりに笑みを浮かべた。

「いいね、夏油。今度は私がその乳揉んでやるよ」
「硝子なんでそんなに私の胸に拘るの?」



 硝子を柔軟の刑に処すことができた私。流石に2度も私をピンポイントに指名することができずに悟の胸を揉んだ硝子。運命力で虎杖と共に飲み物買い出しの刑にぶち当たった悟。全く関係ないのに柔軟の刑に処されたが、身体が柔らかくてなんてことなかった灰原。虎杖とハグした七海。私の額にデコピンを叩き込んだ虎杖。

「結構満遍なく当たったね……」
「傑デコめっちゃ赤いのウケんね」
「夏油先輩サーセン! デコ無事?」
「一応無事だよ」

 ゲラゲラ品なく笑っている悟を無視して、虎杖の頭を撫でる。よしよし、あれでもきっと手加減したんだよね。流石フィジカルお化け。私の頭が吹っ飛ばなかったのは偉い。私頭割る予定ないからね。

「そろそろお開きにしようか」
「あ゛ー……、笑ったわ……」
「早く片付けるよ、悟。硝子も」

 椅子にもたれかかってまるで死体のような硝子を起こして、空っぽになったお菓子の箱や袋をゴミ箱へ捨てていく。後輩たちがテキパキ動いてくれたお陰で、後片付けはすぐに終わった。
 ぞろぞろと部屋を出ていく中、虎杖がそっと私の横に並んだ。

「あのさ、夏油先輩。ちょっといい?」
「ん? いいよ」
「じゃあ、自販機んとこで」



 悟は若干訝しんでいたようだけど、結局何も言わずに部屋へ戻っていった。顔はうるさかったけど。心配しなくても虎杖のことはとらない……、というかとれない。五悠の運命力を信じろ。

「何飲む?」
「あっ、うんと、じゃあコーラ」

 虎杖の分のコーラと、自分の珈琲を買ってベンチに腰掛ける。「あざっす!」と元気にお礼を言ってコーラの蓋を開けた虎杖は、ひとくち飲んで話を切り出した。

「夏油先輩はさ、呪霊食べるんだよね?」
「そうだよ。正しくは取り込む、だけど。呪霊操術と言う術式でね」
「……俺もさ、宿儺の指食ってるからなんか親近感
、みたいな。先輩は嫌かもしんないけど。だからちょっとゆっくり話してみたくてさ」

 そういえば虎杖には両面宿儺が居るんだった。五悠界隈では度々障害になる、虎杖の中の同居人。伏黒恵が虎杖の同級生としていないこの世界では、虎杖は一体どういう経緯で宿儺の指を食べたのだろうか。……七海か?
 しかし、思い返せば宿儺の声をまだ聞いていない。原作では度々虎杖の色んなところに口や目を出していたのに。

「先輩の取り込んだ呪霊って、意思疎通とかできんの?」
「意思疎通というより、指示を出すというのが近いかな。自我を持つような強い呪霊というのは手持ちに居ないし……、指示通り動く犬猫とか、ロボットだとか、そういうのに近いのかな。感覚的には。「操術」だからね」

 原作夏油傑の勝手は知らないが、私はそんな感じだ。低級は特にそうだと思う。意味不明な単語は喋るけど、基本的に意思疎通はほぼ不可能。考える頭がない、っていうか、本能のまま生きてる(?)っていうか。教師五条悟が言っていたように、言語を解し、意思疎通を図れて、徒党を組むような呪霊なんて現状はほぼ未確認。

「両面宿儺ともなると勝手が違うだろうさ。虎杖は自分の中にもうひとり誰か居るような感覚だろう?」
「大体そんな感じ! っつっても、宿儺ほぼほぼ寝てるから、あんま実感ないけど」
「……寝てる?」
「うん」
「へえ。まあその方が平和でいいか」

 虎杖はまだ指1本しか取り込んでいないらしい。詳細は私が知る由もないのだが、まだ所有する指が少ないこと、悟が年若いことが関係していそうだ。
 宿儺は任務のときだとか、悟と喧嘩するときには出てくるが、学校生活に関してはノータッチらしい。言われてみれば、原作での少ない日常シーンではあまり宿儺は見かけなかった気がする。2次創作だとバンバン出てくるけど。現代人の日和った生活には興味ないのかもしれない。あと推し(伏黒恵)も居ないし。原作で宿儺の行動原理に関わってきていた伏黒恵が虎杖の同級生として居ない今、大人しく寝ててくれたほうがこちらは有り難いのだけど。乖離怖いね。予期せぬ事態が起きた場合の損失が大き過ぎて最早それしか言えない。

「あ、私と虎杖に共通する話題があるよ」
「えっ、なになに?」
「呪霊はクソ不味い。宿儺の指もクソ不味いでしょ」
「クソ不味い!!」
「ゲロ拭いた雑巾の味」
「そう!! それ!!」

 不味いは不味いが、形容するに適当な言葉を見つけられていなかったらしい虎杖は、私の言葉に強く同意した。私も未だ慣れないし、これから先も慣れる気がしないクソ不味いもの。人間の負の感情の煮凝りだものね、美味しいわけがないよな。ゲロを誘発してくるゲロ味のゲロ。あ、ゲロじゃない、呪霊だ。……いや? 人間が負の感情吐いたものだから実質ゲロでは? 呪霊=ゲロ理論は今後飲み込めなくなっちゃうからこれ以上は駄目だな! 他人のゲロの始末とかそりゃ闇落ちしちゃうわ!

「ただのゲロじゃないんだよ。雑巾なんだよ。ゲロと雑巾のマリアージュなんだよ。埃っぽさだとか湿っぽさだとかカビっぽさだとか……!」
「わかるっ……! 宿儺のも流石に指だからさ、美味しさとか期待してないけど……!」
「はは、まさか呪霊の味の話ができるなんてね」

 呪霊の味の話ができる相手はほぼ居ない。原作夏油傑はそういうところでもさぞストレスを溜めていたことだろう。私は今の虎杖との会話で解消された。話の合う相手って大事だね。もしかして今のって夏油傑救済ルートかな? やだ……、私救済されちゃった……!? 無意識救済ルート選択男虎杖悠仁、光属性極まってるな。推せる。

「夏油先輩、今度口直し探しに行こ。一発でなんとかなるやつ」
「そうだね……。もしかしたら食べ物よりも口内洗浄方面を探したほうがいいかもしれない。呪霊相手にどこまで効くか未知数だけど」

 実際、あの呪霊の味に食べ物や洗浄剤で勝てるのだろうか。一応呪霊だしなあ……。でも、なんとかなるならそれに越したことはない。

「虎杖だって、あと19本も指を食べないといけないし、早めに見つかるといいね」
「まずはどこら辺から攻める?」
「……オブラート系列? 呪霊を包むところから始めてみようか」

 超喉詰まりそうだけど、現状まあまあのサイズの呪霊を飲み込んでるわけだし、オブラート1枚くらい大したことないだろう。

「虎杖が次の指を飲むまでに見つけたいね」
「え? 俺より夏油先輩の次までの方がよくない?」
「私は明日任務があるから、それだとあまりにタイムリミットが近くて面白くないじゃないか」
「夏油先輩明日任務かぁ……、明日任務!? 明日!? じゃあ呪霊飲む!?」
「うまくいけばね」
「えーっと、えーっと! あ、そうだ! じゃあ飴ちゃん持ってって! 部屋戻ったら渡すから!」

 虎杖から貰った飴ちゃん、おいしかった(小並感)




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