ルシファー成り代わり(hzbn)とep8後アダムのif
2024/03/04 14:20

「チャーリー、そろそろ夜も更けてきたし、パパは帰るよ」
「えっ! 泊まっていかないの?」

 しばしばチャーリーのほうからホテルに来るよう誘ってくれるようになったが、流石に娘の仕事場に自分の部屋を構えるほど図々しくはない。夜になれば家に帰るのが通例なのだが……。

「お嬢ちゃんが悲しそうだぜパパ?」
「アダム……」

 ああ、頭が痛い! 昔のよしみと連れ帰ったアダムは、散々こき下ろしていたホテルの何を気に入ったのか毎回帰る時間にはチャーリーの味方を気取って駄々をこねる。

「ここは罪人の更生施設だ。更生する余地もない私と、ここに居てもどうにもならんお前が従業員でもないのに部屋を借りるなんて」
「あ、あのね、パパ!」
「なんだい、チャーリー?」
「毎回そう言ってるから、1つパパ専用の部屋を用意したの! 折角来たのに、お泊りもせずに帰っちゃうなんて寂しいなって思ってて……。従業員じゃなくても、パパはいつも手伝ってくれるし、ほら! このホテルを建て直したときも! ……駄目?」

 きゅる、と涙目で首を傾げるチャーリーのなんと愛らしいことか! 父親を気遣っている娘に駄目だなんて言える父親がどこにいる? 隣で「駄目じゃないよな? どうせ家に帰ってもアヒル量産するだけじゃないか」と騒ぐアダムは後で口にチャックをつけてやろうな。

「……とても嬉しいよ!」
「やったー!」
「お前はほんッとォーに娘に弱いなァ!」
「可愛い可愛い娘だからな」

 チャーリーから鍵を笑顔で受け取り、鍵が1つしかないことに内心首を傾げる。たしかに私の部屋とは言ったが、てっきりアダムの分も渡されると思っていた。

「……チャーリー、まさかアダムは」
「ええ、「ペットだから同じ部屋でいい」って……」
「ハァァ……」

 部屋の場所を知っているらしく、すでに廊下を幾分か進んでいるアダムを見て深く、深くため息を吐いた。最初家に連れ帰った際「なんのつもりだ」「情けでもかけたつもりか」「バカにしやがって」とうるさかったアダムのメンタルを1回ヘコませておこうと「落ちてたから拾っただけだろう、犬猫を拾うのと同じだ。わかったら黙れペット」と言ったことを未だ根に持っているらしい。事あるごとに「ペットなんだろ?」って言ってくるしな……。本気でペットとは、別に思ってないんだよ……。

「他の部屋もあるし、アダムにはそっちを使ってもらう?」
「いや、そこまでしてくれなくても大丈夫だよ。悲しいことだが、慣れた」
「慣れちゃったの……!?」
「おいルシファー、なにしてるんだ! まだか!」
「今行く! それじゃあチャーリー、部屋を用意してくれてありがとう」

───

「ルシファー」

 アダムは部屋に着くなりベッドにダイブして、ボスボス、と隣を手のひらで叩いて催促する。

「全く……、今部屋に来たばかりだろう」
「どォーせ他にやることもないんだからいいだろ」
「……それもそうだ」

 確かに、家ではないのだからやることもない。アダムとは談笑するようなこともないし。やる気が何も起きないとか、そういう理由もなく贅沢にごろごろするのは久しぶりかもしれない。アダムが日々うるさく言う健康的な就寝時間、というやつだな。天国ではベッドで運動してたかどうだか知らないが、今は大罪に数えられそうなくらい怠惰なお前に健康を説かれたくはない。下は履いたまま上は全て脱いで、羽を出して横たわる。

「おー、これこれ! 元最高位天使の高級羽枕&羽根布団」

 アダムは羽に埋もれて眠ることを好むらしく、度々こうして羽を出せと言いながら私のベッドに潜っては、6枚羽に埋もれる。服を着たままでも羽は出せるのに脱げと言ってくるし……、この羽に埋もれることの快楽をどこで開拓してきたのかは聞きたくない。聞いたらもうこいつにこれはやれない気がする。

「お前の家は駄目だな、どこに居てもなにかに見られている気がして落ち着かない。不気味だろあんなの」
「ああ、だから泊まりたがるのか? あの家には私とお前以外居ない筈なんだが……、不思議だな」
「やめろよ怖……、じゃなくて不気味だろ!」

 やけに家の外に行きたがると思った。アダムはどちらかというと怠惰で、活動的じゃないから可笑しいなと思っていたんだ。夜にベッドに入り込んで「ペットはこういうのするだろ」といい加減なことを言っていたのもそれが原因か……。

「怖くてひとりじゃ眠れない、なんて。多少は可愛げあるじゃないか」
「アァん? 別にそういうんじゃねぇしぃ! 逆にお前は昔より可愛げがな」
「パパ! 部屋はどう? なにか必要な物とか……」

 扉を勢いよく開いたチャーリーが、ベッドに横になる私とアダムを見て固まった。大の大人の男がふたり同じベッドっていうのは、視覚的にキツいものがあるよな! なに? 「あのお嬢ちゃんにノック教えてないのかよ」? ちゃんと人の部屋に入るときはノックしなさいと教えてある。私の部屋に入るときは別にいいよと言ってあるだけで。いつ何時でも、チャーリーに見られて困るようなことはしないようにしているから……。

「ぱ、パパが……」
「? チャーリー?」
「パパが寝取られるーーー!!」
「チャーリー!?」

───

 ルシファーをホテルに泊まらせることに成功したチャーリーは思い切り喜びを噛みしめていた。そんなチャーリーを見てエンジェルは「よかったね、パパが泊まってくれて」と、ヴァギーは「あれだけ悩んでたもんね」と声をかける。

「アダムが協力的だったお陰だわ!」
「いや、チャーリーに弱いからだと思う」
「あ! そうだ、パパに部屋に足りないものがないか聞いてこないと! 前のファーストインプレッションは色々あって正直微妙だったかもしれないけど、今回は最高の体験をプレゼントしたいわ! 目指せ月1!」

 前々から部屋は整えてあったけれど、チャーリーはルシファーの私生活についてほぼ何も知らない。普段使うものとか、部屋の希望とかを聞かなければ! とホテルの経営者として意気込んでいた。このお泊りを気に入ってくれれば、段々とホテルに泊まってくれる回数も増える筈。まずは月に1回。それから段々と増えたなら、それはとても嬉しいこと! チャーリーは数年越しに父親と同じ屋根の下で過ごせることに浮足立っていた。

「パパ! 部屋はどう? なにか必要な物とか……」

 勢い余ってノックもせず扉を開け放ち、チャーリーの目に飛び込んで来たのは、同じベッドに横になるルシファーとアダム。服を脱いだルシファーの背にある6枚羽に顔や身体を埋めている、アダム…………。

「ぱ、パパが……」
「? チャーリー?」
「パパが寝取られるーーー!!」

 絶叫した。

「ね、寝取り……パパが……」
「チャーリー、落ち着いて。大丈夫かい?」

 羽をしまいアダムをベッドに落として、チャーリーに駆寄ろうとルシファーが起き上がる。

「なァにが寝取りだ。寝取りってのは相手がいる相手に使うんだよ。こいつはリリスと離婚して独り身だろ」
「う゛っ」
「パパーーッ!!」

 しかし快適空間を突然終了されて臍を曲げたアダムの心ないひと言で、ルシファーが胸を押さえて崩れ落ちた。そのお陰と言ってはなんだが、チャーリーは動揺から抜け出してルシファーのそばへと駆け寄った。

「大丈夫? 元気出して」
「ありがとうチャーリー……、うっ、リリス……」
「ただの事実だろうが。まだ引き摺ってんのか」
「うるさい……」
「ま、そういうことだから、私がこいつをリリスから寝取るというのは正しくないな」

 「おい、いつまでヘコんでるんだ」とルシファーを引き寄せて抱えるアダムは放っておくとして、チャーリーは少しの違和感に気がついた。確かにチャーリーは「パパが寝取られる」と言ったが、それは「アダムに寝取られる」という意図ではない。しかしこれをルシファーに聞かせるのはなんだか良くない気がして、チャーリーはアダムの耳元に口を寄せて声をひそめる。まあ、ルシファーは今消沈しているからどっちにしろ聞こえていないだろうけれど。

「あ? なんだ?」
「離婚した後にママが、「寝取りってしたことなかったのよね」って言ってたの」
「…………おい、マジか」
「あ、あはは……だからちょっと、思い出しちゃったというか……」

 チャーリーは、ルシファーがアダムと「そういう」ことになったら、リリスが嬉々として寝取りに来るだろうと思って叫んでしまったのだ。リリスがルシファーを誰かから寝取るというのは元の鞘に戻るということなので、チャーリーからすればそう悪いことではないが、ルシファーに他に心を砕くような相手ができたのならそれは少し可哀想だなとも思う。複雑な娘心である。

「お前ヤバい女と結婚したなー」
「離婚したんだよ、クソが……」
 




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