賢者様の親友の賢者様
2023/02/12 16:21


真木晶の代わりに賢者として呼ばれた晶の親友の男

呼ばれて漸くまほやくの世界と認識。かといって別に詳しくはない。まほやくは舞台もやってたから、そのときにアプリもすこし触ったことがある程度。
晶が賢者であるというのは、まほやく世界に召喚されて漸く気がついた。賢者真木晶のビジュアルはぼんやり覚えてたけど、親友真木晶はあの格好じゃなかったから中々気が付かなかった。親友が賢者だってことに気がついて、「じゃあ自分は親友の代わりに召喚されたってこと?」という。
本来親友が召喚されるはずだったんなら、色々と俺じゃだめなんでは? とは思うけど、似たような感じで頑張ろうとローテンションで励んでいる。親友の晶が大好き。そんな晶程誠実になれないと思ってるので、自分は自分のペースと感覚で。それはそれとしてどないせいっていうんやという気持ちはある。
まほやくの世界に来てから、一応毎日日記をつけている。つけているけど、書き方が晶への手紙形式。日記とかつけたことなかった男と晶への重めの感情のドッキング。


───賢者様の日記


 珍しく賢者の魔法使いたちが揃った魔法舎の食堂で、ミチルが開いている本に目を奪われた。なぜここに? 俺の部屋になかったか?

「あ、賢者さ」

 ま、と続くであろうミチルの声を遮り、全力で本を閉じた。思いの外その音が大きく響いて、魔法使いたちの視線が突き刺さるのを感じる。

「け、賢者様……?」
「あ……」

 様子を伺うミチルの顔を見て、この世界の人は日本語が読めないことを思い出した。こんなに焦らなくたって、読まれることはない。

「すみません、これ俺の日記で……。読まれたのかと思って焦ってしまいました」
「あ、いいえ、大丈夫です! ぼくこそ、勝手に見てしまってすみません」
「気にしないで、大丈夫ですよ」

 読めやしないのに、律儀に謝るミチルに余計申し訳なさが募る。俺の反応を見て、よくないことをしたと思っているのだろう。当然同じように思う奴は他にも居るわけで。そう、この場には賢者の魔法使いが全員いるのだ。奴が……、居る……。

「へえ、賢者様はなにか見られたらマズいことでも書いてるの? 例えば、僕たちの悪口とか」

 で、出たー、オーエン! なにかと場を引っ掻き回したり俺をいじめたりする魔法使い。ここでもなにかひと言くらい言ってくると思っていた。ニタニタした顔に「賢者様をいじめるのたのしいです」と書いてある。
 どう返したものかと黙る俺の視界に少し不安そうな顔をしたミチルが入り、早々に否定してあげなければ可哀想だなと気を持ち直す。

「あなたにされたことは多少書いてありますけど、悪口までは書いてないですよ。そういうのは文字に残したら駄目でしょう」
「……」

 誰かが「あるにはあるんだ……」と呟いた。多分ヒースクリフ。そりゃあ俺は聖人君子じゃないんだから、オーエンに対する悪口のひとつやふたつくらいある。面と向かって「お前に不満あります」と言い返されたオーエンは少しムッとした顔をした(普段北メンバーと喧嘩してるんだから俺の不満くらいどうってことないだろ)が、それ以上言い募る前にスノウとホワイトに「オーエンちゃんまた賢者ちゃんに意地悪したの!?」と指導が入った。頼れるのは双子、はっきりわかんだね。

「あの、賢者様」
「はい?」
「私も少しだけ中身を見てしまったんですけど、そこで気になることがあって」

 ミチルと俺の日記を囲んでいたルチルがそう言うので、俺はおとなしく日記を差し出した。ルチルは先生だし、俺の世界の文字が気になるのかもしれない。

「この、最初のところ。毎回同じ書き出しですよね? どういう意味なのか気になってしまって」
「あ、そうか。日付や天気を書くなら、毎回同じではないですよね! 賢者様の世界の様式なんでしょうか?」

 ルチルが指さしたところには、日本語で「晶へ」と書いてある。……そう、この日記、日記なのだが晶への手紙のような書き方をしているのだ。人にそれを見られるとは思っておらず、今猛烈に恥ずかしい。

「これ、は……」
「まあ、賢者様。顔が真っ赤に」
「ほんとだ! 賢者様どうしたの? 恥ずかしい? それともなにかドキドキする? もっと見せて!」
「ちょ、なんでもないんです。ムル、やめてください。ムル?」

 顔を隠そうにも、ムルががっちり掴んで離さない為にどうにもならない。猫のような目に見つめられて、なんだか照れている場合じゃない気がしてきた。な、なに……怖い……。眼前いっぱいムルに占められて周りは見えないが、ザワザワ「賢者様が赤く……?」とか聞こえてくる。なんか気配が近くなってる気が……。見てもそんなに面白いものじゃないぞ。

「ムル、賢者様が困っていますよ。離してさしあげて」
「にゃーん! 怒られちゃった」

 空中でアクロバティックな回転をしてムルは離れていった。……と思ったらすぐ近くに着席。

「俺も聞きたい!」
「別に、そんな面白い話じゃないですよ。今まで日記をつけたことがなかったので、手紙みたいな書き方をしてたってだけで……」
「ええと、じゃあこれは宛名ですか?」
「はい。俺の親友に」

 ちょっと変な書き方な自覚はあるので恥ずかしかったんです、と付け足すと、ルチルとミチルは顔を見合わせて笑った。

「素敵ですよ、賢者様!」
「はい! 僕も素敵だと思います!」
「そうですか……? ありがとうございます」
「賢者様はその親友のことがだーい好きなんだ! 俺にとっての厄災くらい? 愛してる?」
「愛してる、って……。晶は親友だから、そんな愛してるとまではあまり言わないような……」

 友人や親友に「愛してる」とは中々言わない。家族や恋人には適切かもしれないけど。晶に対して愛してるなんて、別の意味になってしまうような気がして肯定し難い。いや、大好き、だけど……。日本人はそういうとこ敏感なんだよ。

「アキラって、あなた前に寝言で呟いてた名前ですよね」
「え」
「……そうでしたっけ」

 今日の食堂はやけに静かだ。こんなに大集合してるのに。話し始めたミスラに皆の視線が集まる。

「夜中に俺の横でアキラアキラって」
「夜中に、ミスラの、横で……?」
「そ、それって、賢者様とミスラが一緒に寝てるってこと!? 大人の関係!?」




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