α公子成り代わり(gnsn)
2022/12/12 17:23



 ファデュイの基本理念として、「我々は理性なき獣ではない」というのがある。要するに、αだのΩだの第2性に縛られない、本能だけに従うなんて人間ではない、ということ。執行官の完全実力主義や第2性の秘匿性などからみれば、まあ悪いことばかりではないと思う。
 薬により第2性をコントロールし、秘匿性により差別をなくす。現実的でないこの理念を現実にしたのは、博士の研究だ。秘匿というものは非常時のリスクも生むが、博士の研究のお陰でそれも随分と減った。万が一に備えて、執行官には第2性の把握が許されているが。博士ってやべー。あれでβだっていうんだから、世の中バグってる。そりゃ第2性への殺意も湧くよ。散々「βなのに」とか「αだったら」とか言われたんだろうなぁ。開示してないはずなのに、どこからか漏れ出る上に、人の口に戸はたてられないものだ。目立てば目立つほどそれは顕著になる。

「公子、この中のどれがΩだ?」

 差し出された瓶。中にはフェロモンの染み付いた布が入っている。すん、とにおいを嗅ぐと甘い香りが鼻を抜けていく。においは嫌いじゃないけど、実験とはいえなんだか変態くさくてちょっと嫌。

「…………全部だね」
「チッ」
「その態度どうかと思うな……」
「ああ思わず。鼻が利いて偉いな公子、褒めてやろうか」
「それはいらない」

 第一、視線が微塵もこっち向いてないんだよなあ。褒める気ないだろ。博士にとっちゃαなんて嫌な生き物だろうし仕方ないけど、ファデュイの理念的にそれ許されるのかな。執行官でしょ、ちゃんとして。
 これはまあ推測に過ぎないが、執行官の中でαなのは俺と……、まあ居てひとりくらいだろう。そもそもαはびっくりするほど人口が少ない。予想じゃ執行官もほぼβ。もしかしたらΩは……、居るかも? じゃなきゃファデュイで憎しみ燃やして執行官なんかしてないよね。淑女なんかは顕著だ。ま、本当のところは興味ないから知らないけど。
 先遣隊連中やデッドエージェント連中は結構ごちゃまぜだけど、ファデュイ内の第2性の扱いからしてβやΩが集まるのは当然の帰結。蔑ろにされたβやΩが世間様を見返す為の集団なのか、って思ったこともあるくらいだ(入隊した動機にそれがないとは言わないが、ファデュイの本題はそこじゃない。どっちかというと使えるもんは使うって感じ)
 とは言え、ファデュイの上意下達は結構ガバなので、第2性関係ない職場として燃えてゴリッゴリに仕事してるやつも居れば、どうせβだからと腐ってるやつも偶にいる。基本理念、とは? 大きな問題に発展する、または過敏な執行官にバレなきゃ捨置かれるのでファデュイは結構色んなところがガバガバだ。厳しくて堅苦しいのも嫌だけどさぁ。

「薬は」
「飲んでるよ。フェロモン耐性は俺の実力じゃないからね、過信は禁物でしょ」
「ふむ、今日の夕と明日は休薬して……、そうだな、明日の晩にまた来い」
「なにかあったら博士の責任だよ」
「ああ、薬を怠った部下の処理は任せるといい」

 薬でのフェロモン抑制が徹底されてるから、そりゃそうなんだけどさ……。博士から見えていないのをいいことに、「この人はさあ……」と半目で博士を見る。部下の処理は確かにしてくれるだろうが、積極的に俺を庇うこともしてくれないだろうから絶対に理性を強く持たなくてはいけない。絶対にだ。場合によっては組織内に何人居るかどうかみたいなΩを、態々探し出して説得して仕掛けてくる可能性もあるからな。博士を信用しちゃいけない。執行官内で信用してはいけない人物ぶっちぎりのナンバー1。2は富者。個人調べ基、100%の偏見だけど。




prev | next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -