そうして、おやすみなさい、惣右介さん。あなたはどこにいても準備無しには眠らないひとだったから、今回もおそらくそうしているのでしょうね。たまには揺すられても起きないくらい深いところまで行くのもいいんじゃない?そこは、一番深くまで行ったくせに。この天の邪鬼め。

 ねえ惣右介さん。やっぱりあなたの叱ったとおり、わたしは手紙を書くのが不得手のようです。次へ次へと話したいことが溢れて、収まりの良い文章をうまく探し当てることがかなわない。身体だってもぞもぞ動いて、口だって勝手にあなたの名前を発音しはじめて。あたまのなかも、瞼だって、余すところなく落ち着いてくれない。

 だから申し訳が無いとは言えないけれど、ごめんなさい。苛々すると思うけれど、最後まで目を通してくださいね。あなたの説く常識とやらにもあったでしょう。よく私も叱られた。ひとのはなしを最後まで聞く。


 また話が逸れてしまいましたね。ええっと、なんだっけ。ああそうだ。あなたの部屋の話をしておきます。あなたが拘束されて牢に入ってからやっと、あなたのものはすべて処理をされました。知っていると思うけれど、ここ瀞霊廷はあなたが裏切ったということを信じない者たちばかりだったから。まったく、えらく築き上げてきたものですね。まだ信者(というのはおかしいでしょうか。つまりあなたの謀叛を信じない者たち)はたくさん居ます。あなたは殺されて、下手人は市丸さん、もしくは未だに判明していないと。それが彼らの事実でありつづけている。愚かなことです。ひどくおろか。あなたは生きて、たくさんのものを奪った。

 あなたの部屋のはなし。あなたの部屋にはもう何もありません。調度や日記、作品もすべて。いつ何に必要になるのかわからないけれど、撤去されたものはすべて禁踏区域内のどこかにある倉庫に保管されているそうです。たぶん眼鏡も置いてありますよ。替えなんて持っていたんですね。すこし笑ってしまいました。


 ところで、わたしはいま、その空っぽになったあなたの部屋で手紙を書いています。立入禁止のこの部屋に、こんな長い時間。見つかったらどうなるか、分かったものではありません。でも立入禁止という割には見張りなど何処にもいないし、このまま霊圧を消してさえいれば気付かれずに済むでしょう。それにもし見つかってしまっても、わたしは愚かなあなたの信者の振りをすれば良いだけのことなのですから。藍染隊長が恋しくてたまらない。忘れるなんてできない。裏切ったなんて、信じない。わたしのものとは正反対の感情です。惣右介は裏切って、もう私のことなど忘れていて。そんなあなたを恋しくは思えど耐え切れないほどではない。


 たえますよ、わたしは。幸運にも、あなたとわたしを二人として考えるひとはいない。表裏など無いように振る舞っていたあなたにそんな存在があったことがそもそも信じられないことでしょう。すべてを視ることなどできないということは、全員が知っているくせに。あなたには穏やかな笑顔が似合うと信じている。それでいてたまに見せる真剣な表情も魅力的で。それ以外の表情は無い。だからそれ以外の表情を見せるひとなど、どこにもいない。


 惣右介。そうすけ。そーすけ。もうそろそろ、思い出したころですか。わたしの名前。わたしの顔。わたしの声。わたしの体温。わたしの指の腹のやわらかさ。思い出せたころですか。あなたは頭がいいひとだから、こんな私のことすらも忘れてはいないのかもしれませんけれど。封じられたと聞くそれらすべては、あなたに私を思い出させてくれますか。私の名前が口にできますか。そうすけ。いま、わたしはあなたを呼びました。


 想定していたよりも長くなってしまいましたが、最後にひとつ。あたまのよろしいあなたに無茶な頼み事をします。あなたが今忘れたいと願っていることすべて、直ぐに、わすれてください。それすらも望まないこと、直ぐに、わすれてください。そうして最後の最後に、わがままをひとつ。前に述べたことでくらい、私を優先してください。これだけは絶対に、だれよりも。なによりも。




 かしこ





120529
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