電車に揺られながらふと思い出し、駅を出てすぐに最寄のコンビニへ向かう。お目当てのものはお菓子コーナーで抜かりなく販促されており、まんまと策略に嵌まる客を演じながら一番おいしい味を買ってコンビニを出た。


 未だ霜も引かぬ時間の校舎には、まだ人っ子一人いない。静かな空間に足音を響かせ、一番乗りなのをいいことにお菓子の袋をあける。スティック状のそれを口に運ぶと、変わらぬ味が広がった。ああ、やっぱり。

 制服のポケットから携帯電話を取り出し、アドレス帳からお目当ての名前を探し出す。電話もメールも長らくしていなかったから、履歴には残っていない名前。11コールほどで、懐かしい声が聞こえた。すこしだけ甘い響きを含んでいる。


「寝起き?」

「まだ6時半だからな…学校あいてんの?」

「正規の入口じゃないとこは開いてる」

「…相変わらずだな、霞水の侵入スキル」

「いやあそれほどでも」

「褒めてないよ?念のため言っとくけど。断じて褒めてないからね?」


 電話の向こうの古市がいきなり失礼を詫びて、長く大きな欠伸をする。謝る必要なんてないのに。毎日何かと慌ただしい彼を勝手に甘さのカケラもないモーニングコールで叩き起こしているのは私なのだから。

 おはよう。…うはよ。挨拶ととりとめもない会話を交わしながら階段を上がり、特設教室のドアを開ける。もちろん、人はいない。昼間とは比べものにならないほど静まり返った教室のなかに入り、教卓に携帯電話を置いた。


「で、古市。席どこ?」

「え?なに、誰の席?」

「古市の。どこだっけ」


 状況説明をせずに聞きたいことだけ聞き出すのは、私の悪い癖らしい。簡単でいいから状況を教えてくれとかつては怒っていた古市だけれど、今やもう慣れてしまって、素直に自分の席を教えた。

 その席に近付き、持ってきたラップを敷き、四本のお菓子を並べる。


「じゃ。一応ラップは敷いといたけど、溶けたり虫がたかる可能性無きにしもあらずだから、早めに来た方がいいと思うよ」

「へ?霞水、何の話してんだ?つかいまどこにいんの」

「あ、用務員さんおはようございまーす。やですね、不法侵入なんてしてませんよー」

「おいっ」


 ぷちり。通話を切り、用務員さんなどいない教室に静けさを戻す。古市の机にはただ並べただけの四本のお菓子。少しだけ違和感のあるその様子に満足して、教室を出た。






121111

ハッピーバースディふるいち!


「はーっさむさむ!!何でエアコンないんスか私立のくせに!ありえねーっス!」

「仕方ないでしょ。居候の身で文句言わないの」

「でもマジで…あれ?」

「どうかした?」

「いや。アレ何スかねえと思って」

「本当ね。ポッキー?」

「あ!わかった!今日ポキプリの日だからっスよ!だから四本で11/11。冴えてるっスねえウチ」

「はあ…。でも何で古市の席に?」

「たまたまじゃないっスか?食べましょ食べましょ!」



結局早めに来ても何もわからない古市。

おめでとう!

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