おんなのこはみんな、総じてきらきらしたものに惹かれるいきものらしい。とすれば私も例外ではなく、この何の首傾げもなく与えられた制服のスカートに相応しい生まれをしているのだろう。

 本を閉じて、賑やかな教室内に目を移す。きらきらが好きと言ってもその光度は人によってさまざまで、どうやら私の求めるそれは今は教室内には無いみたいだ。

 黒板のうえに当たり前のように張り付く時計を見て時間を確認し、本の栞を指でつまむ。細いだけで、きれいではない指。


「霞水っさーっん!!!」

「っ!!」

「っあ!ごめんねごめんね!びっくりしたよね、怪我とかない?大丈夫?」


 びっくりしたどころの話ではない。光度ぴったりのそれが、まさに目の前に揺れる。大きな目が心配そうに私を覗きこむ。ちょうどいい高さの声が私の苗字を呼ぶ。

 やわらかな絹糸のように机に降りてきた髪を、無意識に捕まえようとしていた自分に気付いて慌てて律した。


「だい、じょうぶ、だけど…」


 どうしたの?井上さん。目を見て、苗字を呼ぶ。それだけでも私の心臓はばかみたいにその弱さを誇示しはじめる。なさけない。

 金色がまるで体操のリボンのように膨らむ場所を変えてゆき、さいごには先端を跳ねさせた。私の机に指を残してしゃがんだ井上さんを見下ろす、思いもよらなかった状態。


「あのね!ういろう!」

「ういろう?」

「うん。このあいだ寝る前にふと思い浮かべてからどーしても食べたくなっちゃってね。それでどうせなら自分で作って食べたいなと思って」

「はあ…」

「で!だれかういろう作れる子はいねがーって探してたら、浅野くんが霞水さんは和菓子教室通ってるって教えてくれたの!」


 浅野家弟。あのご近所さんめ。たまには良いことをするじゃないか。これしきのことで見直したりはしないけれど、また気が向いたらみづ穂さんにおまんじゅうを献上しに行こう。

 その大きな瞳をさらに輝かせてこちらを見つめてくる井上さんから、たまらず目を逸らす。どうやらこの眩しいほどの光の具合は、教室中のほぼ全員が好きなものらしい。ざわつくなかで、誰にも見えない小人にでもなりたい気分だ。


「あまり本格的なものでもないけど…」


 作れることには、つくれる、よ。だんだんと消えてゆく声に井上さんがどんな表情をしてどんな印象を持つのか。首を傾げられたらどうしよう。そんなことばかり考えながら俯いてじっとしていると、本に縋り付くように乗せていた手を両方、包み込まれた。そうして正面に見える、井上さんの真剣な顔。


「霞水先生」

「せんせ、い?」

「せんせー!教えてください!できれば今日の放課後からでも!」


 無理な商談でもするかのように真剣に頼みこんでくる井上さんを前に、わたしの内部ではさまざまなところから熱が放出される。体温は果てしなくプラス。もとよりマイナスの答えなんて、うまれるはずがない。

 うまく目を逸らせないままほぼ夢を見ているような感覚で引き受けると、光度ぴったりの彼女は眩しいほどの笑顔を見せ、その刹那、教室中がまるで天上のようにうまれかわった。







(ねえわたしの世界というものは、いともたやすく変わるのだ)

120908
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