雛人形、七夕伝説、天体。きっと、だれかのとなりに在ってもいいものは、はじめから決められている。うつくしいものの隣には、うつくしいもの。それなりのものの隣には、それなりのもの。もし相応しくないものが並んでいたならば、指先でつまんで退けてしまうことが正しい判断。

 誰が決めたのかは知らないけれど、既にそう成ってしまっているのだ。変えることのできないルール。


 机に伏せて恥ずかしげもなく泣きじゃくる私を、たつきがためいきまじりに慰める。そんな決まりは無いなんて嘘。幻聴も考えすぎも嘘。どうでもいいなんてそんなワケない。だってわたしはたしかに、退けられる対象なのだ。


「あーもう面倒くさいな。テキトーに聞き流しときなよ馬鹿の言うことなんて」

「馬鹿じゃなくて後輩だもん…かわいい後輩…」

「でもアンタにヤなこと言ったんでしょ?」

「わたしなんかにヤなこと言ったくらいで後輩の価値が下がるはずがない……」


 ハァ。溜め息が濃くなる。苛々されているのは百も承知だけれど、いま話していることはすべて本音なのだ。出会ってから今年で三年目。たつきに嘘を吐いたことは一度も無い。たつきはカッコよくてキレイで、たつきのとなりには、うつくしい可愛さの頂点を極めた織姫が似合う。

 そう。たとえば私が織姫のように美しくて可愛かったら。あの後輩ちゃんたちだって、わたしを排除しようとはしなかったはずなのだ。だから彼女らは悪くない。責任があるのは間違いなく、たつきに相応しくない私の方。まさに自業自得だ。


 椅子を引く音がして、思わず顔を上げる。せっかく久しぶりに用事のない放課後を私なんかのために使ってくれていたたつきが、今までずっと座っていた席から消えていた。あわてて辺りを見回すと、背後から首にまわる、すこし日焼けした温かい腕。

 いきなりのことに驚いて動けずにいると、たつきの腕はそのまま後ろに引かれ、当然わたしの身体は椅子ごと後ろに傾いた。


「っわわわ!た、たつきたつき!こける!!」

「ちゃんと考えてるわよ。アンタはその自虐的な博愛だけが取り柄なんだから、せめて顔上げて笑ってなさい」

「ジギャクテキなハクアイ……」


 顔を上げても拭うことを考えなかった涙が、正しく頬を滑り落ちる。大して整ってもいなければ芸もできない顔。気の利いたことひとつ言えない口。体力のない身体、よわくて穴ぼこだらけの心。なにひとつ、たつきに相応しいといえるものはない。だから彼女たちは私をたつきの隣から退けようとしたし、たつきは溜め息ばかり吐いているのだ。わたしがここに在るべきものではないから。


「しかしアンタは毎度毎度、よくもそんなどうでもいいことばっか考えるわねー」

「どうでもよくないもん…」

「どうでもいい」

「よくない」

「いい」

「よくない」

「いいっつってんでしょ」

「…う、首、絞ま……ぎぶ」


 白旗をあげた私をたつきが解放して、椅子の傾きが戻る。回されたままの腕がやわらかくて、本能的に安心した。たつきは絶対に良い母親になる。いま女子高生を謳歌している私たちがそうなるのは、まだ随分と先のことだけれど。

 そう、きっと私がたつきの子供であれたなら。隣にいても、どれだけくっついていても排除されることなんてなかったのに。自分でも方向がよく解らなくなってきた後悔を飲み込んで、未だ流れたままの涙にこっそり含ませる。話してしまえば確実に今度は拳骨が落ちてくるだろうから。

 代わりに何度目かの愛の告白をすると、頭に顎を乗っけたまま黙り込んでいた大好きな人がいつもよりワンテンポ遅れて、いつもの台詞であしらった。












(でもね、彼女たちは知っているの)
120816
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