すっかり乾いて温かくなった真白なタオルを水で濡らし、かたく絞る。そうして日の照る窓の方へと歩き、窓際で腹這いになっている大虎の背に冷えたタオルを乗せると、生温い風が小さく吹いた。







 大きな背中を濡らす汗を、白いタオルで丹念に拭き取ってゆく。込めた力に配慮は一切ないけれど、この大虎にはすこし痛いくらいがちょうどいいはず。本気で決闘を嫌う相手には噛み付かない、やさしい虎。もしくはライオン。触れていると、飼育員にでもなった気分だ。

 背をこすった延長で髪を掻き上げてみると、じっとりした汗がそのなかの湿度を上げているのが判る。いっそ丸刈りにしてしまえばいいのに。強引にやってしまいたい衝動に駆られたけれど、ライオン要素が減ってしまうのは残念なので自重。傍らに落ちていた団扇で扇いであげると、タテガミがふわふわ揺れた。


 現場の作業や屋台でこんがり焼けた肌に浮かぶ汗すべて。わざわざ洗い直してきた白いタオルで、念入りに吸い取る。拭いても拭いても、冷房設備のないこの部屋ではトラの肌は汗を出すばかり。起きたら水分を取らせなければ。このままではいくら百獣の王でも、熱中症になってしまう。

 ぱたぱたと二刀流ならぬ二扇流で扇いでいると、寝返りを打ったトラの目がうっすらと開き、こちらを見上げ、またゆっくりと閉じた。まるで獣が辺りの様子を窺うときみたいだ。

 敵ではないことを判って安心してもらえるように。隣に寝そべって無防備に頭を押し付けると、まだじっとりとした胸板と腕に捕獲された。このまま食べられてしまいそう。


「ねみい…」

「あついじゃなくて?」

「あつい…か?」

「あついよ」


 本物の虎やライオンがどうなのかは知らないけれど、どうやらこの大虎は暑さに強いらしい。この猛暑日に眠気が勝つとは。まあ、トラの仕事は体力を使うものばかりだから、少なからず疲労も影響しているのだろう。

 おつかれさま。湿度の高い腕のなかでそう労うと、やけに大人しい大虎が力無い声で小さく唸った。おやすみ。この暑さでは眠れる気がしないけれど、これも飼育員の仕事。








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はっぴーばーすでぃ東条さん!!
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