ちり、と焦げたような音がした。七月も半ば、青い空の下。水道で冷やしタオルを大量生産していると、すぐ隣でオレンジが水を浴びて、きらり、輝いて。ちりり。夏が来たような、気がした。
勢いよく呼吸をして顔を上げた彼の目の前に乾いたタオルを差し出すと、こちらを一瞥してからお礼を言って受け取る。
「今回はいくらで雇われたんだい?」
「いきなり金の話かよ…」
「よく言うよ、並外れた技能を餌に後輩から金を巻き上げている黒崎さん」
「ひどい言い草だな。別に脅してるワケじゃねえよ。れっきとした契約だ契約」
「ふうん、金儲けは順調そうだね」
「だからな…、お前は言葉を選べ」
今回は陸上部と契約したらしい。涼しげな練習着をまとった黒崎が、溜め息を吐く。まったく、どんなユニフォームでもすんなりと着こなしてしまう男だ。気に食わないから、今度吹奏楽部のユニフォームでも着せてみようか。つまり白いカッターシャツに赤いリボン、そしてスカート。さすがに似合わないはず。
絵に描く太陽に似た色の髪から、水が滴り落ちる。きれい。夏だ、と。思わず呟くと、空を仰いでいた黒崎がこちらを見下ろした。日焼けした首を汗か水かが伝って、どことなく扇情的。
「くーろさきいっちごー」
「なんでフルネーム?」
「はっぴぃばーすでーぃ」
青い空に、白い太陽ひとつきり。冷やしたタオルを一思いに黒崎の顔面に投げつけ、祝いの言葉を告げると、はりついたタオルを剥がしながら真面目な黒崎は素直にお礼を言った。
「プレゼントは新しいランニングシューズでいいよ。ずっと欲しかったの」
「何でお前にやらなきゃなんねぇんだよ。逆だろ」
「やだな黒崎。外国ではね、誕生日は自分を支えてくれる人達に感謝する日なんだよ。花束贈ったりとかするの」
「そうなのか?」
「なんかそんな話を試験対策の英文で読んだ気がするようなしないようなしないような」
「うろ覚えかよ。…まあでも、それなら」
ありがとな。
ランシューはやらねえけど、と。ひんやり冷えた黒崎の手が、頭をやさしく叩く。わたしは妹ではないというのに、彼にはすっかりお兄ちゃん魂が染み付いているらしい。いっそ保父さんになればいいのに。エプロン着せてみたい。プレゼントしてみようか。
七月も半ば。十五日。ちり、と焦げる音がしたならば。きみに出会ってから先、わたしの夏のはじまりは毎年、この瞬間から。
120715
(おい、なんか変なこと考えてねえか)
(え?大丈夫だよ、黒崎にエプロン着せたいとか考えてないよ)
(考えてんじゃねえか!つかどっから思いついたそんなこと)
Happy Birthday Dear Ichigo!!