洗面台の脇に備え付けられた窓を見つめ、空を睨んでみる。相手にもなってくれない。お天道さまは、温かそうだけれどほんとうは触ってみたらゾッとするほど冷たいのではないだろうか。


「なんかあったのか?」


 後ろから現れた弟に場所を譲ると、狭い洗面所からは追い出されることになる。見ていたくもないので窓から離れたところで待っていると、弟が顔を拭きながら私の不機嫌の理由を訊いてきた。


「晴れてる」

「ああ。いい天気で結構じゃねえか」

「…修ちゃんのばか」

「あ?」


 居間に戻り、布団を片付けてできた空間に机を移動させる。不思議そうにしながらも私の正面で机を運んでいた弟が、ようやく気付いたように声を上げた。そうして、おどろいた顔をする。


「もしかして、晴れてるせいで相合い傘できないから怒ってんのか?」

「せっかく朝になったら修ちゃんの傘隠そうと思ってたのに」

「隠すなよ、オイ」


 炊飯器のなかで湯気を上げているご飯に杓文字を突き立て、ゆっくりと混ぜる。となりで弟は味噌汁を温めはじめている。

 昨日の夜中、弟と相合い傘出勤をする約束をした。約束と言っていいものなのかは分からないけれど、雨が降るなら相合い傘ができると言った私に、弟は珍しく反対しなかったのだ。

 それなのに。朝になり、古い屋根に当たる雨の音だけを楽しみに早起きをした私の耳に届いたのは空しいだけの鳥の声で。にらみつけたお天道さまは相手もしてくれない。

 なんということであろうか。まったく。


 わたしが落ち込んでいることが気掛かりだったのか、揃いのふたつの椀にお味噌汁を手早くよそい終わった弟は背後に来て、そっと頭に手を置いてくれる。私がそれを好きなのを知っていてだ。

 生来単純にできている私は昔から、弟に何かしてもらうだけですっかり気分が晴れてしまう。後ろに倒れてみると、弟の胸板に当たった。そのまま、身体のバランスを完全に委ねる。


「まあまたいつか機会はあるよね〜」

「…次の日が雨って分かったら隊舎に帰ることにするか」

「それなら隊舎まで迎えに行こうかな♪」


 困ったような笑い方をした弟が私の肩を掴み、丁寧にバランスを戻す。くるりと回って見上げた弟の表情はやっぱりちょっと微妙なもので、尚更迎えに突撃したい願望が膨れ上がる。さていつにしようか。

 お味噌汁のとなりに置いたご飯は、今日もほかほかとあたたかな色をまとっていた。







110930
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