最近仲良くなった猫(といっても死神だ。戻るとナイスバディのおねえさんらしいが真偽は定かでない不思議なひと)の友人(こっちは本物の猫)が教えてくれたとおりに、外では雨が降っている。激しい雨ではないが、これでは明日まで止まないだろう。 仕上がった瀞霊廷通信の最終確認を終え、郵送の手配を部下に頼んで息を吐く。パソコンのキーを叩いていた指を、ふと止めた。なにか、いやな予感がする。こういうときは大抵当たってしまうのだ。特に、あのひとに関することは。 考えだしたらじっとしていられなくなって、三席に許可をもらって鞄と傘を引っつかみ外へ出る。冷たい雨のなかを走りながら傘を開き、尚も走りつづけていると、見えた後ろ姿は予想通りのことをしていた。 絶え間無く当たりつづける雨を傘で遮ると、姉はおどろいて大きくなった目でこちらを見上げ、すぐに嬉しそうに笑って俺の名前を呼んだ。 「ったく、風邪ひくぞ」 「なんだかんだ言って無病息災だからダイジョーブだよ♪」 「大丈夫じゃねえっつの」 濡れそぼった身体をこれ以上冷やさないように拭いてやりたいけれど、あいにく役に立ちそうなものは持っていない。とりあえず自分の外套をと脱ぎかけると、慌てた姉が俺の腕を掴んだ。 「駄目だよ寒いのに!修ちゃんが風邪引いちゃう」 「姉さんのほうが深刻だろうが。ほら、離せ」 「なら走って帰る!」 「あっ!!ちょ、待てって!」 家まで走る姉の背中を追いかけながら、まるで小さな子の世話でもしているような錯覚に陥る。 姉は不可思議で自由で、自分のことはいつでも後回しにする。たしかに俺は立場上そう簡単に風邪を引くわけにもいかないけれど、だからといって姉に風邪を引かれても困る。きっと、仕事にならない。 姉は知らない。仕事中、疲れてすこし休みたいと思ったときに俺が必ずといっていいほど思い浮かべてしまうのが他の誰でもない姉であること。そうするだけで簡単に元気が引き出せてしまうこと。 腕を掴み引き止めれば満足げに笑った姉が、悔しそうに、しかし嬉しそうに俺の目を見た。すっかり冷えた身体から、つめたい体温が移ってくる。これで、このひとが温まってくれたなら。 「修ちゃん?」 姉が俺の名前を呼んで、やがて俺自身も分からない何かを理解したらしく嬉しそうに、くすぐったそうに笑う。このやわらかくあたたかいものがずっとここにあればと、ただそれが叶えば、もうそれだけでいいと思った。 (もうちょっと歩けばおうちだよ、修ちゃん) (…ああ、そうだな) (はやく帰ってお風呂行こう?風邪引いちゃう) (ん……) (…修ちゃんってば) 111011 |