背中を折り曲げながらひどく辛そうに走る姿を、日射範囲内でぼんやりと観察する。ひゅうと吹いた風は、マフラーでガード。 放課後のグラウンドでは、多種多様な部活動の音がまるで競い合うかのように響いていて。彼らが意識的に避けてくれているその中心では、何名かの生徒がトラックをぱらぱらと走っている。そのなかに、細すぎるうえに白すぎる体躯。 「ったく、測定の日にサボるからこうなるんだ」 「結局走るハメになるんですネーなんて泣いてたよ小川くん」 「んなの当たり前じゃねえか、馬鹿かアイツ」 タオルとドリンクを持って、一人分ほどの距離を空けた隣に座る鈴木くん。冬の日陰の寒さってばひどいものなのに。私の隣は御嫌らしい。 「それ、小川くんの?」 片手に握られたドリンクヘルドバイタオルを指すと、苦い顔で肯定の返事。なんだかんだ言って、気が利くよなあ。褒めたら今以上に嫌われそうだからやめておくけれど。 「そういやお前はいいのかよ」 「え?」 「お前も休んでたろ、測定のとき」 「あー、うん。ドクターストップってヤツでございます」 「ほーん」 尋ねておいてほーんとは、なんと適当な。のんびりとした足運びで辛々走っている彼との共通点を見つけて、すこしだけ楽しくなる。 気にされたくないことには、あまり突っ込んでこない。そんなありがたい理解が、彼らの特長。 歩き出した鈴木くんの向かう先を見て、ゆっくりと立ち上がる。いくら小川くんとはいえ、最後にはならなかったらしい。膝に両手を突き苦しそうに肩で息をしている小川くんに、鈴木くんがタオルを渡す。 そんな光景を見ながらスカートについた土を払い、昇降口に向かって進行開始。日陰には誰かに待てを食らっているペットボトル。 「あれ、」 「あ!平介走り終わった?」 「うん。なかなかの青春群像図でしたよ」 「そっか!」 先程ずっと眉間に皺を寄せていた彼とは雲泥の差。ぱっちりと丸い目を弓形に細めて笑う佐藤くんが、わたしの隣で外靴に履きかえる。 「もう帰るの?」 「もう放課後だからね」 「あっ、なら一緒に帰ろーよ!ドーナツ屋さん寄ろうって話してたんだ〜」 内履きと外履きの境目を挟んで会話をする。どうやらドーナツ屋さんは小川くんの体力測定完了祝いらしい。口実だろうけれど、やさしいひとたちだなあ。 すまないね、と手を合わせる。 「また今度ね」 「あはは、前と同じ断り方だあ」 「記憶力がいいねえ」 「でしょ?」 あはは、と笑って、また今度ね。私の常用する断り文句を繰り返して手を振る佐藤くんに、手を振りかえす。 言いたくないことまでは、言わせようとしない。同じ特長がもうひとり。個々に違ってはいれど、成分の香りが共通しているのだ。この三人が寄り合ったのは、どんな音が鳴ったからなのだろう。何色の音が、どんな大きさで、どれほどの長さで。 長く長く伸びをして、再び足を進めるついでに天井に問い掛けてみる。別に誰が潜んでいるワケでもないけれど。 若者らしい音たちは、遠く、とおく。運動部、文化部。誰かと何かを比べ合うことが苦手な私には、縁のないものだ。 誰もいないことを良いことに小さくハミング。教室までの道をゆっくりと歩きながら、今日はたくさんのひとと話したなあと、そんなことを考えた。 (あれ、そういやアイツ何しに外来たんだ?) (アイツ?) (おーい平介ーっ!鈴木ー!) (あ、さとうだ) 110911 |