保健室からもらってきた湯たんぽを枕にして、机に伏せる。湯たんぽを包むタオルは、気持ちの良い肌触り。

 ……ああ、寝られる。



 みんなが体育に行って残されたのは私ひとりのはずの教室に、椅子を引く音が響く。かなり近い距離だ。続いて、ポキ、と。国民的お菓子の音が響くのを聞けば、わたしの手は自然と伸びていく。その手に、触れる細いもの。

 それを口に運びつつ上半身を起こすと、わたしの前の席で椅子をこちらに向けて呑気に口から棒を出していた小川くんが、呑気にオハヨウと挨拶した。


「…体育は?」

「んー、気付かれないかなあと」


 べつに一人くらい抜けててもね、ただでさえ合同で人数多いわけだし。ポキキッ。小気味よい音を鳴らして一本を食べ終わり、また袋のなかに指を入れる。


「……なーんだ」


 手を出しお菓子の催促をすると、一袋をそのまま渡されてしまった。そうかこれ、一箱に二袋入ってるんだっけ、お得。でもこの場合はすこし、残念。


「私を心配して来てくれたのかと思った」


 袋の端を破って一本ずつ出る便利なシステムを構成する。小川くんの顔は見ない。きっと、なんだろうなあこのこ、みたいなカオをしているんだろうから。


 そうだよね、いくら授業中に倒れて保健室に行ったからと言って。心配されようだなんて厚かましい。

 本体から離れ口のなかに転がり込んできた破片は、甘い味。うーん、変わらぬ味がする。



「したよ?」


 ボリボリとお菓子を噛み砕きながら、いかにも適当そうに。そんな姿を目を丸くして見つめる私に、小川くんが口元をほんわりと緩める。


「心配。したけどきみ、元気そうじゃない」


 お菓子食べちゃってるし。もう平気?生ぬるい湯たんぽの感触を楽しむように遊びだした小川くんの呑気そうな表情を見ていたら、なんだか顔が緩む。

 なんというか、笑いが込み上げてくるというよりは、笑い飛ばしてやりたくなるというか。そうか、そうだね。


 お腹はもう、いたくない。





「そうだねえ」








(ま、大事なくてよかったよ)
(でも体育サボったのは私のためじゃないでしょ)
(おれ体力使うことニガテなんだよねえ)





110911
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テーマ「人外ファンタジー」
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