休日は、飛んで喜べるほど好きなワケでもなければそう苦手なものでもない。学生の本分なるものは休日にもここぞとばかりに課されるから関係がないし、まあいいところと言えば、時間を気にしなくていい生活ができるところだろうか。

 ぼんやり空へ向けていた目を、足元に遣る。そこには私の足にしがみついて離れまいとする幼子とその子を必死で引きはがそうとするクラスメイト。ううむこれは。どうしたものか。


「佐藤くんや佐藤くん」


 呼び掛けるとやはり自然と人を見下ろすことになる。なんだか心苦しくなってしゃがみ込もうとしたけれど、足元の拘束が障害となっておかしな体勢になってしまった。腰が疲れる。

 見上げてきた佐藤くんに、へへ、と笑いかけてみる。この隣人兼クラスメイトとは正反対の、きわめて下手な笑い方。


「そう泣くなよ」

「だってええええ」

「佐藤家さえ良かったらですけど、私は別にここにいても支障ないから」

「だ、だめにきまってんだろー!それじゃひとじちにならない!」

「こた!ホンットいい加減に」

「なんだよこの状況」


 あくまで私という人質を逃がさまいとしがみつく虎太郎くんを叱り付けてなんとかベリッと剥がそうとするその兄。相変わらずの苦労っぷりに他人事のように同情していると、佐藤家の前の道の方から、知った声が入ってきた。

 反射的に目をやると、予想通りの馴染みのメンバー。と言っても二人だけれど。あ、三人か。小川くんと手を繋いでいる幼子を視認したとたん、拘束が緩むのを感じた。

 大声で嬉しそうに名前を呼んでそのまま離れていく虎太郎くんと、心底安堵したように玄関先にへたりこむ佐藤くん。おつかれさま、と頭を撫でてやる。


「きーてくれよあき!そーにぃってば今日はあそんでくれるって言ってたくせにやっぱり図書館に行くからあそべないって言うんだぜ!」

「そんで出掛ける佐藤を引き止めるために月水を人質にとったっつーわけか…」

「ハハ…、災難だったね月水。佐藤も」

「いやぁ、休日になかなかハードな体験をさせていただきましたよ」

「てかおれは別に予定がないって言っただけで遊べるとは言ってないのに……」


 腰に手をあててあっくんに兄についての愚痴を声高に述べる虎太郎くんと、依然うなだれたままのその兄。うん。相変わらず平和だ。佐藤くんにとっては乱世であろうが。

 このお詫びはいつか必ずするから!急に顔を上げて私などに向かって必死に手を合わせる佐藤くんに冗談で購買のチョコラテで手を打つ旨を告げ、その場にいる皆さんに別れを告げる。そろそろ病院に向かわなくては先生に泣かれる。

 ほぼ一方的にだがお話している可愛らしい幼子二人にも別れの挨拶をしようとしゃがみ込むと、やけに凛々しい表情をしたあっくんが私の向こう側を見た。そうして少し急いたように口を開く。


「お、おとこに、にごんはない」

「そうだ!あき、よく言った!」

「だからぁぁぁ……」


 ごしゅうしょうサマです。とうとう立ち上がれなくなった佐藤くんに私がチョコラテを捧げることを固く決意して、ひそやかに手を合わせた。









(つーかもう今日お前ん家で勉強することになったから)
(え、そうなの?)
(あっくんもいるしね〜。図書館は退屈だろうと)
(そっかそっか…よかった…)
(相当やられてんな佐藤)
(というか月水と家近いの)
(ん、お隣りさん)
(へー初耳)
(めちゃめちゃ巻き添え食らわしちゃったよ…あとでもっかい虎太郎連れて謝りにいこ)
(別に大丈夫じゃね?アイツそういうの気にしなさそうだし。つか寧ろ自分に非があるとか勘違いしてるだろ)
(あ、そうかも。鈴木ってけっこう月水のことよく見てるよね〜)
(対象範囲が違うだけで似てるヤツがいるからな)
(え、なに、何のハナシ?)



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