さまざまなお弁当やパンの匂いを混ぜて、教室は既にお昼の時間を完成させていた。賑やかなその地帯にできた細い道を発見してなんとか自分の席まで辿りつくと、見慣れない横顔が隣にあった。

 ふと気付いて、周りを見渡す。席はどうやら小川くんの席、つまり私の前しか空いていないようだ。私の席を含めて、ちょうど三人分。

 立ち上がると、学級日誌を書いていた鈴木くんに鋭い目で見上げられた。鈴木くんに限らず、人を見下ろすのは何かいやな感じがする。


「おい、どこ行くんだお前」

「いや、そっかぁと思いまして」

「何がそっかぁだよ」


 眉間に寄った皺の意味を察知して、とりあえず逃げるのはやめておく。どうして怒られているのだろう。正しく状況を判断したはずなのに。

 いつもはどこで食べているのか知らないけれど、きっと何かの事情で今日は教室で食べることにしたのだろう。朝から降り続いている雨のせいかもしれない。事実そのせいで教室はいつもより人で溢れ返っていて、席もほとんど空いていない。

 そうしてこの近辺で空いている席は窓際一番後ろに位置する私の席を要に扇型で広がる三つのみ。先程購買で見かけた二人を合わせれば、そっかぁと、こうなるワケだ。

 眉間の皺をどんどん深くしていた鈴木くんが、呆れたように溜め息を吐いた。


「めんどくさいこと考えず、そこに座ってりゃあいいだろうが」

「いや、しかしですね」

「気ィ使われると気に障る」

「すみませんでした」


 とどめとばかりに睨まれて、大人しく抵抗をやめ席に戻る。購買で買ってきた野菜ジュースにストローをさして現実逃避するように見上げた空は、白から灰色までのグラデーション。そこから降り注ぐ雨粒が、見慣れた景色を霞ませる。

 思わず抱えそうになった頭をはげしく左右に振ると、隣から痛く突き刺さる視線を感じた。










(な、なんでしょうか)
(おまえ昼食それだけ?)
(野菜ジュースは健康にいいのですよ)
(それだけじゃ却って健康に悪いだろ。メシ食えメシ)
(鈴木くんは世話焼きだねえ。あ、お帰りですよ二人が)
(あれ。珍しい組み合わせだ)
(佐藤、そのパン一個月水にやれ)
(うお、いいですからホントに!)
(やだ!)
(…期待してすみませんでした)


111006
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