お弁当はたいそう豪勢なものだった。食材は多くないが、飾り切りをしてあったり色がついていたりと、手が込んでいる。どうやら母は相当嬉しかったらしい。

 お弁当そのものが久しぶりなこともあり、テンションが上がる。それを見て喜んでいた貴之のお弁当を早く開けてとせがむと、勿体振って開けられたそこには、よく言えば普通、悪く言えば手抜きの食材たちが並んでいた。貴之が解りやすく落ち込む。


「いいんだ…いいんだ別に…。昔から親はヒカリに付きっ切りだったし、健康優良児なオレはなおざり…それでいいんだ…」

「泣くなよ貴之、バランあげるから」

「慰めはいらねぇよっ。つかバラン慰めになってねえ!」

「まあまあ。母さんも嬉しかったんだよ、ヒカリが健康になって」

「はあ…。ま、そうだよな。つか声は出てるけど具合は大丈夫なのか?頭痛いとか無い?」

「ん、平気」

「そうか、ならよかった。苦しくなったらすぐオレか男鹿に言えよ?」

「わかった。漫画読んでてもイメージしてたけど、貴之って心配性だねえ」

「そうか?つか読んでみたいなその漫画。べるぜバブだっけ?」

「うん。最近ハマってたから枕元に置いてたんだけど、こっち来たときにはごはんくんに変わってた」

「あ、それオレが貸したやつだ。男鹿がなかなか返してくれなくてよ、無理矢理回収した」

「それは正しい判断。あ、噂をすれば」


 焼きそばパンとヨーグルッチを持って屋上にやってきた男鹿が、私の隣に腰を下ろす。萌黄色の髪をした魔王、ベル坊が私の髪を引っ張った。貴之と同じ銀色の髪。この色にあまり違和感を感じないのは、元の世界の私が栄養不足で白髪だったからだろう。白髪と銀髪はかなり違うけれど、心境は似ている。


「あ、さてはオマエまたベル坊のミルク忘れたな?」

「ヒルダが渡してこなかったんだよ、オレのせいじゃねえ」

「ほお?私は間違いなく貴様に渡したはずだがな?」

「あ、ヒルダさんこんにちは〜。朝振りです」

「ヒカリ。今日も阿呆面下げて元気そうで何よりだ」


 黒いオーラ全開で男鹿の頭に重そうな袋を置き、笑顔でベル坊を抱く。その差が間近で見ても素敵なヒルダさんは、思っていたよりも話しやすい人だった。人間を見下す悪魔であることだけを理解しておけば、円満に過ごせる。

 先程自販機で買ったカフェオレを飲んでいた貴之が、思い出したように声を上げた。どうやら人間界の人ではないヒルダさんに一応私のことを訊いておこうと考えていたらしい。

 男鹿にしたものと同じ説明を既に貴之から受け、私の事情をしっかりと理解していたヒルダさんが、思案する。


「二次元と三次元のことだからな…。アランドロン、何か知らんか」

「はて…。次元転送悪魔の私にも、二次元に入り込むということは出来かねますゆえ…」

「だそうだ。済まんな、今の時点では力にはなれん」

「そうですか…。ありがとうございます、考えてくださって。ヒカリに負担がない程度で、色々と試してみようと思います」


 双子で並んで頭を下げる。やっぱり貴之は心配性だ。けれど確かに、動くたびに負担が増えていることが解る。次元が変わっているとはいえ、病人である自分が病人であるヒカリの身体に入っているのだ。体調が良くなるわけがない。

 不調を表に出さないように振る舞うことには慣れているし、貴之にも男鹿にも告げないつもりだけれど。実際、このまま一日を過ごせるかも不安な状態だ。何日間かこの身体で過ごしたら慣れるだろうか。その前に夢が覚めるかもしれないけれど。


 しかし、いつになったらこのリアルな夢は覚めてくれるのだろう。頭の隅でそんなことを考えながら、意識が遠退いてゆくのがわかった。


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