「…なるほど」

「いやいやいや、そんな冷静に納得されても」

「いやもう、何でもアリかなって」


 古市貴之、べるぜバブ主人公である男鹿辰巳の幼なじみで腐れ縁で巻き込まれ体質でツッコミ担当。その設定は、私ではなく彼のものであったらしい。まあこの果てしなく残念な感じは私には出せないだろうから異論はない。

 そしてその古市貴之によれば私の名前は、古市ヒカリ。なんと古市貴之とは双子の関係らしい。一卵性らしく、胸を触ってみればそこには何もなかった。いや、元々貧相だったけど。多少の膨らみはあったのに。くそう。


「つまり、ヒカリ、…ヒカリちゃんは、べるぜバブという漫画がある世界に、女の子として生きていたということで…合ってる?」

「うん。まあ生きていたというか死にかけだったけどね」

「死にかけ?」

「いや、何でもない」


 心配されても困って困られるだけだし、何より今は過去にないくらい体調が良いから、病気のことは内緒にしておくことにした。だってせっかく夢なのだから。病人扱いされないで済むのならば、それが一番良い。


「で、何か心当たりは?こっちの世界に来ちゃった原因とか」

「さあ。というか古市、そんな必死にならなくても。夢って案外すぐ覚めるもんよ?」

「夢って…いや、夢かも知れないけどこっちは現実だから。現実に、ヒカリがヒカリちゃんになってて」

「でもその弟くんって、べるぜバブには登場しないんだよ」

「…え?うそ」

「ほんと。妹のほのかちゃんなら居るけど、古市家は二人兄妹だし。古市双子設定とか無いよ」

「えええ……ちょ、ちょっと待って、頭混乱してきた」

「しっかりしろよ智将」

「ちょっ、つかさっきから何でそんな横柄なの!?ヒカリとはいえ中身は出会ったばっかだよね!?」

「あ、ごめん。漫画読んでたらついこれが正しい扱いだと思っちゃって」

「えっ、そんな酷い扱いされてんのオレ?」

「かまわれるの好きでしょ」

「…まあそうだけど。これは構われるっていうか蔑まれるというか」


 落ち込み始めた古市貴之……兄を放置して立ち上がり、部屋のなかを物色する。状況を理解したうえで見てみれば、窓からの景色が違う。話を聞くとここは古市貴之の部屋の向かいで、古市ヒカリの部屋らしい。なるほど。

 机の上には小さな筒に最低限の筆記用具が立ててあり、教科書類はすべて本棚に仕舞ってある。制服はハンガーにかけられ、ぺしゃんこの鞄も静かにそこに在った。その部屋の作り方に、なんとなく親近感を覚える。何の因果か名前も同じだし。

 古市ヒカリ。原作には存在しないとはいえ、私が成り代わってしまった人。古市貴之の双子の弟だった古市ヒカリは、いったいどんな人物だったのだろう。


「なんて呼んでた?」

「え?」

「古市のこと。弟なのに、兄を苗字で呼んでたらおかしいでしょ」

「あー……。貴之…って、呼んでたな」

「たかゆき、ね。そっか、双子って名前で呼び合うんだ。じゃあそうしよ」

「ヒカリちゃんはどうする?呼び捨てでいい?」

「でいい、というか、そうしなきゃ不自然だし。呼び捨てでいいよ貴之」

「ん、わかった。ヒカリ」


 お互いに確認しあうように名前を呼びあうと、何か悪いことをしているような気がする。まあ本物の古市ヒカリには間違いなく悪いことをしているのだけれど。でも大丈夫、すこしのあいだだけだ。夢はすぐに覚めてしまうものだから。少しだけ貸してね、ヒカリくん。

 貴之の話によると、ヒカリも石矢魔高校に通っていて、貴之や男鹿辰巳と同じクラスらしい。知り合いは教えてもらった限りでは漫画で知っている程度の人達だった。ちなみに今は既にベル坊は男鹿の背中にいて、漫画で言うと邦枝さんがスカートを履いた頃。つまりこれから夏休みが始まり古市がリゾートから市民プールに連れ戻され、高島に絡まれ、ベル坊が熱を出し…と展開してゆくところらしい。


「なるほど」

「だからオレはヒカリがなんでそんな冷静なのかが謎だわ…まあ元々ヒカリは落ち着いたやつだったけど。あーもう、ちょっと待てよまずはこの状況を家族に…いやいやいやそれは混乱させるだけだ、だめに決まってる。でもヒカリが…」

「しっかりしろよ貴之」

「だから何でそんな横柄!?」






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