刀の柄と同じ形をした石の前に胡座をかき、欠伸をする。わざわざ山奥から摘んできた花の、匂い立つような香がした。笑みが零れたのは、顔を顰める旧友の姿を思い出したからだ。名前とは違い犬のように鼻が敏感な彼女は、強い香が大の苦手だった。

 ごめんよ。思ってもいない謝罪をして、花を墓石の前に置く。根っこの切れたこの花はもう明日にでも枯れてしまうだろう。そうしたら風に吹かれてゆかない限り、この場所の土の肥やしとなる。よろしく頼むよ。


 後ろに身体を倒し、空を正面に見つめる。目を逸らしたことに気付けば私をよく知る旧友は、話が始まるのを待つだろう。尤もそれを訝しむことなく受け入れるのは彼女くらいのものだったけれど。優しいのではない。目を合わせることなどどうでもいいのだ。口が目に負けるわけがない。それが彼女の口癖。

 可愛い顔と声をして、中身には無数の刺を有している。あんただけはタダでくたばるはずが無いと思ってたのにね。呆気ないもんだよ。あの日から何年経ったかなんてどうでもいいことは、覚えていないけれど。


「何年振りだろうね、カニ」


 頭を和草に預け、雲を追ったまま話し掛ける。風はこちらに吹いているのか、甘ったるい花の香がした。私とは違い花が似合う容姿をしているくせに花の香が嫌いな旧友が顰めっ面を見せる。


「学院に檜佐木が来たよ。それで二本ほど突きを入れてやった」


 風の甘さに目眩がする。気持ちが良くないから、少し眠ろうか。起こしてくれる友など持たないから風邪を引いてしまうかもしれない。明後日は仕事だ。先生が変わっても戸惑わない上級生なら構わないけれど、始まったばかりの一回生の指導を休むのはさすがに不味いだろう。

 先生が変われば、明後日も講師としてわざわざお越しいただく予定の檜佐木副隊長サマは喜ぶかもしれないけれど。現に、一昨日の初授業も非常にやりづらそうだった。私がヤツを嫌いなように、ヤツも私をよく思っていないのだ。昔からそれは変わらない。

 相変わらずだと言った。何も考えずに。何も知らないのは当たり前だから責めないけれど。


 身体を起こし、墓石を見つめる。目で伝わることなど、口で伝えられることに比べたら無いも同然だ。旧友は何も受け止めないだろう。そんな彼女だからこそ私は似合わない墓参りなんてものをしているのだ。尤も、正しい参り方などしていないけれど。花だって嫌がらせに過ぎない。

 石になってもやはり背の伸びない彼女の頭を叩いてから、墓石の並ぶ園を出た。






120902
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