昔から、共同作業が嫌いだった。霊術院が死神育成の基本として重視している相互協力なんてのは程々にしておいて、一人でもできることには単独で取り組んだほうが早い。少なくとも私はそうだった。

 だから学業に支障を来さない程度には避けていたし、そんな私に、共同作業を強要するような人はいなかった。はずだ。


「ずいぶん意地が悪くなったものだね檜佐木」

「だから俺の意志じゃねえっての」


 授業の用意をしている院生たちを眺めながら、隣に並ぶ元級友をちくちくといじめる。攻撃を予防するためか私の手から竹刀は奪われているけれど、私は自分の意志であんなことはしない。この間の突きには悪気どころか意識すらなかったのだと、何度言ったらわかってくれるのだろうか。立派な副隊長さまは頑固者だ。

 無言の圧力をかけているあいだに、授業の準備が整ったらしい。設置された柱の数を確認して集合の笛を吹くと、教育の行き届いた院生たちはすぐに規則的な列を作り真っ直ぐな目を揃ってこちらに向けた。


 もう何年もしていることだけれど、そうも逸らさず見つめられると緊張する。後ろを向きたい思いを振り切って横を向き、隣にいる死覇装の男を紹介すると、院生たちから抑えきれない感動の声が上がった。わたしなんかの意地悪に屈している男でも、さすが憧れの位置についているだけのことはある。院生たちの視線をすべて掻っ攫ってしまった。


「そんなに俺が講師ってのが気に入らねえか?」

「別にきみだからってワケじゃないよ。この少人数で今日の授業なら、一人で見た方が効率がいい」

「まあ確かにそうだろうが…つかそれなら違うときに呼べよ」

「わたしに言われましても、っと、ちょっと行ってくる」

「あー、いい、俺が行く」


 厭味なくらい様になる歩き方で院生のもとに向かっていった後ろ姿を見送って、自分は次にやることの準備をしに倉庫へ向かう。

 まったく、どうしてこんなことになってしまったのか。解せない。まだ刃もつかない斬術に講師を寄越すくらいなら鬼道に回してくれと普段から断っているのに。相互協力は院生に学ばせるものだろう。先生がしてどうする。

 たしかに、実際に死神が目の前に現れることで意志が強まることはあるし、学ぶことも格段に増えるだろう。院に入って間もない者なら特に。だからわたしのこれは、単なる我が儘に過ぎない。それは解っている。

 みんなを集めて丁寧に足運びを教えている、私よりもよっぽど先生らしい元級友を悔し紛れに一睨みしてから、真っ暗な倉庫に明かりを燈した。




120902
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