網の空いたスペースに新しい肉やら野菜やらを敷き詰めて、そのおかげで空になった皿を後ろに退ける。するとそれを待っていたかのように遠くの机から余った野菜が送り込まれてきた。

 だから頼みすぎだっつったんだ。食べ放題とはいっても、ほとんど酒しか楽しみにしてない人たちの集まりに食いモンはそんなに需要がない。

 しかたなくそれらの世話をして置いておけば食いそうな奴らの皿に隙を見てこっそり放り込むという的確な処理を続けていると、割り箸がこちらに転がってきた。どこからやって来たのかと見ると、ひとつ席を挟んでではあるがやっとのことで隣席できた空未は、ほとんど話さないうちにどうやら眠ってしまったらしい。

 しんそこ落ち込みながらもとりあえず箸を救出し、皿やグラスを彼女の前からできるだけ遠ざける。眠りに落ちるときのようにいきなり机に伏されたりしたら大惨事になる。

 よく言えば賑やか、悪く言えばやかましい。そんな空間など関係ないかのように眠る彼女にはまったくといっていいほど起きる気配がない。丸めた背をひどくゆっくりと上下させて、細く滑らかな髪で顔を隠して。


「あれ、ヒナタ寝ちゃったんですか」

「…ああ、みたいだな」


 酒飲みたちから命からがら逃げきったらしい隣人が覗きこんできたのに気付いた途端、顔はすばやく彼女から離れていた。べつにやましいことを考えていたわけでもないのに、なにしてんだ俺は。

 俺と空未のあいだに当然のように腰を下ろした吉良は、眠る彼女の肩をやさしく揺すりはじめた。


「おい、寝かしといてやれよ」


 疲れてんだろうし。そう止めるけれど、吉良は申し訳なさそうに眉をひそめるだけで揺するのをやめようとはしない。そのうち寝ぼけたような声で何かもぞもぞとした言葉を発しながら空未は吉良の顔を見上げ、なにを問われたのか、ううん、と力なく首を振った。

 そうしてそのまま、正座をした吉良の膝にあろうことか頭を預け、あらためて眠り直したのだ。

 一方、膝を枕にされている吉良はといえば、ちょうど空未の後ろ、部屋の端に重ねてあった平たい座布団を彼女の腰にかけ、頭が安定したのを見届けてから何事もなかったかのように焦げかけた野菜を皿に取りはじめた。


 あまりに自然な流れで行われたその一連の行動には、慣れたような印象があって。きっと今までに何度も吉良の膝は彼女の枕になり。まるで家族や恋人のような距離に、お互いを許してきたのだろう。

 空未が生まれてから数日後には握手を交わしたほど昔から一緒にいたと聞いているし、実際大学でも昼食を一緒にとっている場面を何度も見かけたことがある。だから、この近さにも頷けないワケではない。

 けれど。しかしだ。


「せんぱい?檜佐木先輩?」

「あ、あ?なんだ?」

「どうしたんですかボンヤリして。ラストオーダー、なにか頼みます?」






(付き合ってないとはいっても、第三者が入る余地なんてどこにもないじゃねえか…)


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