玄関先で、柳のように流れ降りている金色がなにかの観葉植物に見えた。とたんにこわくなって走り寄ると、イヅルくんは驚いたように顔を上げる。それとほとんど同時に抱きしめると、どうしてかイヅルくんは笑った。


「イヅルくんが壊れちゃうかと思った」

「はは。傘じゃないんだから」


 つい先程あのひとが壊したばかりの傘を見遣り、いつもの登下校のときのように笑ったイヅルくんが、私をそっと押し退ける。それから大事そうに、私の腕を撫でた。それだけで治るなんて、ただの人間にそんな治癒能力はないはずだけれど、痛みはたしかに引いてゆく気がした。イヅルくんの魔法。

 イヅルくんが傘なら、あのひとは暴風だ。杞憂なんかじゃない。あのひとが間違えば、わたしたちなんてすぐに壊れてしまう。ひっくり返って、もう使い物にならなくなる。なんの役にも立てなくなる。

 おもむろに立ち上がったイヅルくんが、あのひとが出ていった玄関扉を閉めた。鍵をして、それでも、帰ってきたら受け入れるのだろう。


「酔っ払うと、ひどいね」


 なんにも痛くないみたいに笑うイヅルくんは、あのひとのことを責めたことがない。私のことも。いつだってイヅルくんは私の家に困らされて、その白い肌に傷を増やされているのに。私とあのひとは、いつだって悪いのに。イヅルくんは、ずっと信じている。

 そんなイヅルくんを、わたしは抱きしめるだけで精一杯だった。




(もう巻き込まれないで、でも、離れてゆかないで)

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