イヅルくんは力が弱いのに、心はやわらかい。身体つきも女の子の私と同じように頼りなくて、それは年のせいもあるのだろうけれど、とにかくイヅルくんは、まだ大人じゃないのに、強がりだった。


 やわらかい身体に泥がつくのを見て、ただそれだけが残念だと思った。活発な子供のような服はイヅルくんには似合わないから、そんなものは汚れたって構わない。けれど。肌は、だめだ。白くて滑らかな肌は、白くて滑らかなまま、私に触らせてくれなければいけない。汚れては、傷ついては、だめだ。

 だめだと、頭では思うのに身体は動くことをしない。頭は神経に繋がっていないのだろうか。わたしの大事にしていたリボンを掴む黒い手に、イヅルくんが飛びつく。白い肌に、また傷がつく。私の手はスカートを握ったまま動かなかった。


 飽きて帰っていった知らない男の子たちの背を蹴飛ばしたい衝動に駆られながらも、じっさいは地面に伏せているイヅルくんに駆け寄るのが精一杯だった。イヅルくんの金色は金色のままで、すこしだけ心が休まる。白い肌にできた掠り傷からは、赤色が滲みでていた。


「とりかえさなきゃ」

「イヅルくん」


 たくましいのは、めずらしい。尚も立ち上がろうとするイヅルくんの服を掴むと、こわかった表情がいつもの情けないものに戻った。このほうが好き。イヅルくんは、弱々しいほうがいい。


「でも、あのリボンは」

「とりかえさなきゃ、だめ?」


 きれいなステッチの入ったリボンに、未練はない。お母さんが作ってくれたのが気に入っていつも付けていたものだけれど、いまはそのリボンより、イヅルくんの白い肌の方が気にかかった。

 泥だらけの手が私の頭を撫でかけて、はっと気付いたように止まる。撫でてほしかったからその手の下に自分から頭を入れると、私も一緒に泥だらけになってしまった。ありがと、と言うと、イヅルくんはごめんねと返す。

 リボンを取り返せなかったことはもうどうだってよかったのだけれど、イヅルくんの白い肌が汚れてしまったことやイヅルくんが謝ったことは確かに嫌だったので謝罪は大人しく受け取っておくことにした。






(かえろっか)
(ん)
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