熱が逃げ道を見つけられないようにと炬燵布団をしっかり押さえて、背を丸めた状態で暖をとる。ひっそりと静まりかえった夜のなか、音量を消したテレビの明りだけがやけに賑やかに見えた。 冷えるのを覚悟で手を布団から出し、リモコンに伸ばす。切のボタンを押したところで、かすかな声が聞こえた。 もぞ、と動いた布団から淡い色の髪が現れてくる。炬燵の足に幾度かぶつかりながらもなんとか這い出してくる彼に朝の挨拶をすると、乱れた髪の向こうで驚いた瞳がようやくこちらを捉えた。 「ここの人たちはみーんな早寝なんですね」 「…奏サン、いつ来たんスか?」 「年が明ける前かな、戸締り寸前に滑り込みセーフで」 ちなみにテッサイさんは子どもたち抱えて先に休まれました。そう付け加えると、意識がはっきりしてきたらしい喜助さんは背を丸め炬燵布団を肩まで上げて、髪をすこしだけ撫で付けた。ぴょんと大きく跳ねた髪が、ふたつみっつ。 それから申し訳なさそうにこちらに目を合わせる彼が考えていることは、なんとなくだけれど予想がつく。帽子がないと表情を隠されなくていい。 「スミマセン、ひとりで年越しさせてしまって」 仕事が入ってるので、一緒に年越しは間に合わないかもしれません。そうやって約束を作れなくしたのは私のほうなのに、それを咎めることもせず謝ってくれる喜助さん。 「お正月から謝るのはナシですよ」 こちらこそごめんなさい、と謝罪の言葉を口走りそうになるのをなんとか抑えて、にこりと笑いかけると、今朝お祝いの言葉を告げたときと同じ明るい笑顔を浮かべた彼が、いそいそと私のとなりに移動してきた。 「ちょ、近いです」 「いいじゃないっスか。お正月くらい、くっつかせてくださいよ」 「割といつもくっついてる気がしますけど」 「そうっスか?」 炬燵に入ったままこちらに傾いてくる喜助さんにこちらからもそっと寄って、すこし笑う。目を合わせると、となりで微笑んでくれた彼が、やさしく額にキスをおとした。 「ボクはまだまだ、足りない気がしますけど」 欲しいところに口づけを落とさないまま、いたずらっこのように笑う喜助さん。その表情は穏やかなのに、わたしの心には小さなひりひりが生まれる。 足りない、とか。まだまだ、とか。手に入れられないもっと多くのものを、求めるような言葉。ふと口にされるそれらの言葉を聞くたびに、わたしの心臓はいつだってこうしてひりひりと火傷の痕のように痛むのだ。 喜助さんと出会ってから、たくさん経験してきたこと。原因はまだよくわからない。 でも自分の弱いところを極力見せないようにするこのひとは、そうして笑顔で話す言葉のうちに、切ない真意を挟み込んでいるような気がしてならなくて。 けれどそれを聞き出そうとしたところで、わたしは術を持たない。 だからそういうとき、ひり、とかすかにでも風が吹いたときには、こうすることに決めている。考えたところで何も出て来はしないなら、わたしがしたいと思ったことを、考えずに。 「……奏サンたら、」 今年、きっとなにかが起こる。喜助さんが欠けるわけにはいかないなにかが、起こってしまうのだ。それが何であるかなんて、きっと私なんかがいくら考えたところで判るはずもないのだろう。だから。 「随分と積極的っスねェ」 「寒いんです」 精一杯伸ばした腕は震えて、足りないぶんは喜助さんの方から繋ぎとめてくれる。そんなふうに、とても頼りない抱きしめかただけれど。そばにいます。揺るぎないその意志が、この温もりに乗って、欠片だけでも届けばいい。 軽口を叩きながらわたしをつつみこむその身体が、その体温が。まだ言葉になることを許されないなにかを、すこしずつ伝えているような気がした。 111231 (今日もそこに居てくれて、ありがとう。) |