十一番隊の友人に頂いたちょこれいとを口のなかで溶かしながら、着々と進んでいく作業を眺める。つぎつぎと運ばれてくる書類はすべて統一性の欠片もないものなのに、どうしてこんなにも混乱することなく処理できるのだろう。

 さすがは、副隊長だな。感心しながら、また甘い味を口に運ぶ。


「ねえねえ檜佐木くん」

「悪いが忙しい」

「…」


 手が止まったタイミングで話しかけたのに、わたしに返事をしてから直ぐにまたその手は動き出してしまう。右へ、左へ。

 こんな作業ばかりしているから、あんなに腕がたくましくなったのだろうか。

 当然、それだけではないと思うけれど。でもきっとそれも要因のひとつなんだろうな。


 ずっと止めていたらしい息が吐き出されたタイミングで再び話しかけると、彼はやっとこちらを見てくれた。そうして差し出された手に、ちょこれいとをみっつ乗せてあげる。


「ねえ檜佐木くん」

「なんだ?」

「どうして君だけ、そんなに忙しいの?」


 檜佐木くんが食べたものと同じかたちをしたちょこれいとを口に運んで、訊ねる。固まった腕を解すように回し始めた彼が、不思議そうな顔をした。


「まあ、私の隊も副隊長は忙しくしてるけどさ。でも檜佐木くんほどじゃないし」


 極端な例を挙げるとするなら、ここに来る前に寄った十一番隊なんて、仕事をしている人すらいなかった。普段から、仕事は五席の暇つぶし道具のようなものなのだ。それでもちゃんと成り立っている。

 それにも拘わらず、九番隊は年がら年中こんなにも慌ただしい。隊それぞれに特性があるとは言っても、これほどに差が出るものなのだろうか。


 立ち上がり、脇に除けてあった急須を掴む。重たい急須のなかのお茶はもう冷たくなっていた。いつものことだ。集中しすぎて水分補給をすることに頭が働かなかったのだろう。

 淹れなおしてこようと、同じく少しも役に立たないまま冷えてしまった湯飲みを持って扉に向かうと、うしろからぼんやりとした声が聞こえた。


「なんでだろうな。解んねえけど、いつのまにか忙しくなってんだよな…」


 仕事を中断して糸が切れたのか、覇気なく喋りながら上を向く檜佐木くん。


「理由は君の人柄と大きすぎる責任感にあると思うよ。いや、あるよ」

「そうか…そうは言ってもだな」


 目を閉じ口を引き結び腕を組んで、真剣に悩み始めてしまう彼。この立派な副隊長サマの考えていることくらいは大方予想がつく。

 頼りにされると断れない。そこもたしかに長所のひとつではあるのだけれど、間違いなく短所でもある。

 けれど私は、彼のそういうところに惚れたんだ。なんて甘ったるいことは言っていられない。このままではいつか、確実に倒れてしまう。


 うむ、と決意を固めて扉から離れると、悩み続けていた檜佐木くんが不意に顔を戻した。その勢いに驚いて立ち止まると、彼はじっとわたしのほうを見て。


「…安心しろ、忙しさが退いたら甘味処でもどこでも連れてってやるから」


 任せとけとでも言いたげな顔つきで頷く彼に冷たい視線を送って、無言のまま外に出る。手のなかの急須と湯のみが割れそうに揺れた。

 だから、ちがうんだ。そうじゃない。そういうことじゃなくて。





(もうう檜佐木くんのばかー!)
(わああちょ、落ち着いてください霞水さんっ!)
(誰かあのひと鬼道で縛ってきて!いますぐ!無理にでも休ませてやる!)





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