どう思うかと問われても、困ってしまうけれど。たしかにわたしは、その色が好きで好きで好きで。それを多用する他に、この感情を言い表す術を見つけだせない。抱きつきたいわけでも、唇を奪いたいわけでもないのだ。 くろさきくん、と声をかけると、隣を浮遊していた幼子がぴくりと反応して辺りをきょろきょろと探しはじめた。黒崎くん、この子とお知り合い?その言葉を飲み込んで、電波を伝って飛んでくる彼の文句を聞きながす。 「うん。でも、太陽が見えなかったから、今日は朝が来ないんだなあって思って」 「オマエな…太陽が隠れてても時間は朝なんだよ!明るくなったら来い!」 「黒崎くんはいつからそんな真面目になったのさ〜」 「オマエはいつまでそんな不真面目なんだよ…受験生だろ」 「つまんないの」 「うるせえ」 電話越しに黒崎くんの声が聞こえたのか、いつの間にか隣に小さな子の霊が張り付いている。ああごめんね、気付かなかった。謝罪を込めて携帯をその子の耳にあててやったけれど、相手はおーいしか言わなかったらしい。いくら返事をしても呼びかけられてばかりだった幼子は、さみしそうに私を見て首を振った。携帯を自分の耳に戻す。 「ひどいひと」 「あ?」 「イヤ、なんでもない。それより、購買でクリームパン買ってきといて」 「お、やっと来る気になったか」 「いんや、家持ってきて。購買のクリームパン好きなんだ〜」 「オマエな…」 「はは、嘘です行きますよ」 急に学校に来るようになって、急に早退しなくなって、急に霊と話さなくなった黒崎くんを。どう思うかと問われても、それはすこし分からない。あのひとの弱いところは隙間ほどしか見たことがないし、だからといって強いところもあまり見たことがないのだ。 わたしにとって黒崎一護というひとは、単なるクラスメイトで、単に自分と同じように霊が見えるひと。いや、今は見えたひとと言うべきか。今や黒崎くんは、すこし仲の良い、単なるクラスメイトだ。 何故か浅野の声が聞こえはじめた電話を予告なしに切って、布団から出る。顔を洗って制服に着替えて、身嗜みを整えおわってから、カーテンを開けた。なるほど、あのひとの言うとおり。太陽は雲に覆われて見えないけれど、力はしっかり地上に届いているじゃないか。それなら、しかたないな。 携帯を取り出して、今度は番号ではなくアドレスを選択する。クリームパンはもう、買ってきてくれているだろうか。 111019 (きみの色が、どうかくすんだりしませんようにと。ただそれだけを) |