「ウサギになるためにはまず何から取り組めば良いだろう」

「は?」


 神崎ストアより大量に万引きしてきたヨーグルッチを積み木にしながら、真剣に考える。タワーの穴から見える寧々さんの奇麗なお顔は怪訝に歪んでもやはり奇麗で、惚れ惚れする。


「あ、正確には兎じゃなくて卯ね。そしたら十二支のねーうしとらうーたつみーで、なんというか、はああん」

「言わんとしてることは分かったわ、だから黙って」

「東条さんと男鹿さんにサンドイッチされるなんてどんな極楽浄土!」

「黙ってって言ったわよね私。ねえ言ったわよね?」


 青筋立てても美しいだけですよ寧々さん。揺れる机の上で崩れたタワーの残骸から拾い上げた生温いヨーグルッチにストローを挿入しながら机に張り付く。張り付いたまま顔を上げた視界がなんだか天国。あれわたし変態みたい。はあはあ。


「てかどうでもいいけど十二支のトラの字って…あ、やっぱ違う」

「発音だけで十分イけます」

「いけるの変換間違わないでね頼むから」

「昇天」


 昔から強い男が至上の理想像で、むしろそれしか受け付けないほどで、だからこの石矢魔でホンモノを見つけたときにはそれはそれは発狂した。いろんなひとに激しく引かれた。つまるところ高校デビューに失敗した。

 入学当初に運命的な遭遇を果たした東条さんと、在学二年目に偶然と書いてウンメイと読むという感じで発見した男鹿さん。男鹿さんの方は後輩だけれど、だからといって強さへの敬意を外すワケにもいかないのでさん付け。あ、いま気付いたけれど学年的にもサンドイッチだ。はあたまらん。改めてありがとうございます両親、いい時期に産み落としてくれて。

 私への対処に疲れ、所用で職員室に行っている葵ねえさまを待ち焦がれている寧々さんでの栄養補給は怠らないまま、とらたつみーの二人へ想いを馳せる。ほんと、うーになりたい。はさまれたい。筋肉に押し潰されることも厭わないよ、むしろ本望です、そのために生まれてきました。


「でも今日は東条さんいらしてないみたいで」

「今日も、でしょ」

「しかも男鹿さんも来てなくありませんか?匂いがしない」

「…アンタ兎より犬に近いんじゃない?」

「ダメですよ犬なんて。とらたつみーからいくつ離れてると思ってるんですか!たえられん!」


 ふかい溜め息の海に沈み込む寧々さんには残念ですが逃がしません。あのふたりがいらっしゃらないぶん、わたしには栄養が必要なんです。そのしなやかで温かいトルソーに包み込んでいただきたい。固い胸板も大好きですが柔らかい胸も大好物です。もう自重しない。


 兎により近付くべくとりあえず歯を用いてウサギ口を作ってみる。結構うまく出来ているのではと寧々さんに見てもらおうとした、とたん、電流。鼓膜から脳へ、突如として電流が走りぬけた。ヨーグルッチを握り潰して腰を上げると、匂いはたしかなものになる。いつも通りたつみーオンリィだけれど、贅沢を言ってはいけない。兎になるためにはまず亀さんを見習わねば。謙虚に謙虚に。


「神崎ストアに持ち込みゴミしてきますね。ついでに一年生凝視して匂い嗅いできまっす!」

「はいはい、行ってらっしゃい」

「ありがとう寧々さん大好き!イってきます!」


 後ろを振り向きながらも、しっかりと前へ駆ける。男鹿さんの現在地はとうに特定している。高性能ドッグナビと言われた私を舐めるなよ、犬ではないけれど。東条さんの現在地までは特定できないけれど、リサーチによれば今朝から河原で固定だ。午後も授業があるせいでさすがにそこまでは行けないので、今日は男鹿さんでたっぷりと栄養補給することにする。だから走る、走る。そうだ。兎は走りが速いものなのだ。









(待ってて男鹿さん!そして叶うならば私を殴って!)
(ほお、ンなに殴られてえんならオレが殴ってやろうかこのコソ泥)
(失礼、落ちた男に興味はないの)
(あはは、奏ちゃん相変わらず面白いね〜)



110926

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