取り出した水鉄砲(墨汁入り)を鞄に仕舞って、代わりにビリビリ☆電気ハリセンを取り出す。それもイマイチなので仕舞って、今度はもっと奥を探り、スライム、辛子、山葵、催涙スプレー、猫、タバスコ、一味、七味、その他もろもろどろどろしたもの。すべてを鞄に仕舞う。猫は逃がす。

 今日に限って、いまひとつ良いものが入っていない。悔しいのであとで古市をとっちめてやろう。関係ないけど古市。


 しずかな小川のほとりで、なんとも無防備に。鼾をかいてお昼寝中の男鹿くんの枕となっている鞄をすばやく引き抜く。いい道具がなかったとはいえ、我ながら古典的な手である。頭をしたたかに打ち付けた男鹿くんは、やっと私を視認してくれた。

 気付いてもらえたので鞄を返却し、いそいそと隣に寝転ぶ。ふわりと欠伸をした男鹿くんは、私がそうすることをいつもどおり許してくれた。


「オマエな…オレと居てまた襲われても知らねえからな」

「だいじょーぶ!今日は超活躍しそうな撃退グッズ持参なんだから!」

「撃退グッズ?」


 布団代わりに抱えた鞄を探り、先程仕舞った諸々の隙間からそれを見つけだす。取り出したそれを男鹿くんの目の五センチほど前に差し出すと、息を吐く音が聞こえた。断じて溜め息なんかじゃない。息を吐いただけだ、きっとそうだ。


「不良がみんなヨーグルッチ好きなワケじゃねえと思うぞ」

「ええっ!で、でも男鹿くん好きでしょヨーグルッチ!」

「そこそこ」

「あ、私もそこそこ好きだよヨーグルッチ!それで男鹿くんはめちゃめちゃ好き!」

「はいそりゃどーも」


 気持ちだけは一世一代の清水の舞台の死活問題の恒例告白に、男鹿くんはつれない体温。

 いつだってそうだ。育ち盛りの男の子なのにも拘わらず、体温が低い。もしかしたら喧嘩するときのために熱を温存しているのだろうか。どこか誰も触れない、奥底に。それを放出して喧嘩をする男鹿くんに、さわりたい。

 かたい胸板を触ってたしかめて、心臓に手を落ち着かせる。動いている。わたしを許してくれる唯一のこのひとの心臓は、ちゃんと規則的な拍動を刻んでいる。


 私の手から取ったヨーグルッチを飲んでいた男鹿くんが、急に身体を起こす。とっさに水鉄砲(墨汁100パーセント)を構えると、降ってきた名称不明の凶器を視認した男鹿くんが心底楽しそうな顔をした。それを見て嬉しくなった私は、投げ捨てられたヨーグルッチを拾いに川へ洗濯に。って、違う違う。

 いつの間にか土下座させられているたくさんの人々と、さらさらと穏やかに流れる河川、楽しそうな男鹿くんの声。撃退用のヨーグルッチはやっぱり、必要なかったみたいだ。だって、大好きなひとの楽しみを奪うわけにはいかないから。










(しかし皆さん奇麗な土下座するなあ)
(そういう問題じゃないと思います霞水さん)
(ん?古市。なんでこの世にいるの)
(この世!?こことかじゃなくて生きてること全否定!?)


110925

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