新聞紙のインクで黒くなった手を広げて、太陽に翳す。ほんとうは雲に隠れているから全然眩しくなどないのだけれど、こうすることで太陽も自分のアイデンティティを確認できて安心できるんじゃないかと思うから。

 きみは雲なんかに消されたりはしない。だってホラ、こんなにも明るいじゃない。


 下で新聞紙を折っていた平介が立ち上がったので、足元を見るとそれはそれは小さな足場があった。じゃんけんで負けた者が新聞紙の足場を小さくしていく、懐かしいゲーム。恒例の屋上戦。これは私の勝ちかな。


「新聞紙使ったゲーム、もうなかったかなあ」

「新聞紙は被るのが一番」

「段ボールを敷き布団にして?」

「そうそう」


 平介が足場を踏み外したので、今度はふたり並んで新聞紙に座りながら空を見上げる。暑くもなく寒くもなく、いい匂いの風が吹いている。こういうのを良い天気というのだろうな。ふわりと欠伸をして後ろに倒れると、隣のひとも一緒に倒れてきた。新聞紙のうえに、高校生が二人。


「コンクリートの上はやっぱり痛いね」

「鈴木に段ボール頼んどこうか」

「あ、そっかまだ授業中か…。メールよろしく」

「ん。霞水アドレス知らないの」

「平介のも知らないよ」

「あ、そうだっけ。いる?」

「んー…いいや、ケータイ使わないし」


 そういえば今も教室に置きっぱなしにしている。ごめんね我がケータイさん、名前通りに活用してあげられなくて。心のなかで謝りながら、寝転がったままケータイを操作して鈴木にメールを送る平介の方を向く。

 視線に気付いて寝返りを打った平介と、目があった。眠そうな目をしている。もうすぐ四時間目も終わりだから、昼食と段ボールを持った二人が屋上に来るまでこのまま昼寝でもしようか。

 とろけるように閉じられていく平介の目蓋を見届けてから、私も目を閉じることにした。









(オマエら…)
(ねえ平介、鈴木が怒ってる)
(怒ってますね霞水さん)
(でも段ボール持ってきてくれてるよ、いい人だね鈴木)
(あ、お弁当も持ってきてくれてる)
(気が利くね)
(ね。さすがは鈴木っ痛たたた)
(痛い痛いです鈴木さん。痛い!ごめんなさい!)
110916


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