花畑を、眺めるのが好きだ。色取り取りなものも然り、もちろん一色きりのものも然り。

 色素の薄い髪を揺らして、花に輝きを与える太陽のように眩しく、生気を与える水のように麗しく。花畑のなかで笑う、きみが好きだ。



「奏!奏!もうすぐやで俺の出番!しっかり見ときや!」

「あーうんガンバレー。ふれーふれーケンヤくーん」

「ちょ、なんやねんそれテンション上がらんなあ!」



 そう言いつつも十分なテンションでストレッチをしている友人に、声だけで応対する。よくもまあそんなに張り切れるものだ。体育祭でもない、ただの体力測定で。

 まあそういう常に全力なところには、敬意を表しますよ友人。わたしはきみが大好きだ。


「…っあー、そういうコトか」


 普段は驚くほどニブいくせに、こんなときだけ。視線だけですべてを分かってしまうところもね。決まりが悪いけれど、嫌いではない。


 ケンヤくんが気付いた視線の先の男は随分前から花畑に入ってしまって、姿も見せない。入ってしまったというよりは花畑の方から群がってきたというか、二回ある測定のうち一回目を走る前から騒がれていたというか、そのような経緯なのだけれど。


 わたしを見てと、咲き誇る。誘う香りはそれぞれに。美しいや、可愛らしいや、冷たいや、幼いや。

 黄色い声、舞い上がるハートマーク。きっと温かいだろうそれら諸々に包まれたそのひとの困ったような笑顔を思い浮かべて、足元の砂を鳴らす。

 拒みきることをやさしさがゆるさず、現れてしまう困ったような笑い顔。如何せん顔が整っているせいで、そんな表情すらも見惚れるほどの価値を十分に持ってしまっているのだけれど。

 でもそんな顔、わたしはもう見たくない。飽きたよ。きみにその顔を向けられないようにするために、私がどれだけ健闘したと思っているの。



「ケンヤくんの方がカッコいいのにね、…走りは」

「なっ!走りはって何やねん走りはて!」


 私の機嫌が徐々に悪くなっていくのを察して念入りに言葉を選んでいてくれたケンヤくんにけしかけてみると、案の定の返事。

 つい習癖でツッコミをいれてしまった自分に気付いて、あ、と口を覆った愛しき友人に笑いかけると、このひとまで困ったような表情。


「大丈夫、こんなん慣れてます」

「慣れてる言うたかて……ま、奏が大丈夫言うんなら俺は何も言えんけどやな」

「うんうん。何も言うな友よ」


 ホラ、そろそろ二回目の測定なんちゃう?コースを指すと、本当にその時だったらしくケンヤくんは慌てて走っていってしまった。風が起こる。やっぱり、カッコいい。

 去り際に残した心配そうな表情に心が痛む。きみこそ大丈夫なのかい。そんなに繊細でさ。良いタイムが出せなくても私は責任とらないからね。まあそんなことは、万が一にもないんだろうけれど。君が私に気付いてくれるように、私は君を信じているから。



 空を見上げ、息を吐く。

 まだきっと、花畑のなかには彼の姿。一回走っただけですぐあれだ。タオルにもドリンクにも困らない。


 ケンヤくんは心配してくれたけれど、本当にこんなのは慣れっこで。彼がたいそうおモテになることなんて重々承知しているし、いちいちそんなのに餅を焼いていたらキリがない。食べ切れませんよ。



 ただね、ただ。白石。そう埋もれないでくれないか。花畑はたしかに奇麗だけれど、きみの笑顔が見えなきゃ、それはただの非現実だ。私はそんな夢の世界など要らない。

 振り向いたら、もう困った顔はしなくていい。燦然と輝く花畑のなかから、外側にいる私を見つけだして、そうして、笑いかけて。私は迷わずシャッターを切る。君が笑顔を向けた私を、忘れないでいてもらえるように。







ファンタジーから手を振って(たしかに君は私のとなりにいると、)

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