「美人さんには、変人さんが似合いますよね」


 同居人に淹れてもらったお茶を、俯く彼女の前に置く。立ち上る湯気によって白く曇ってしまった眼鏡を、彼女はおとなしく拭いた。


「また何の話っスか?」


 正面に腰を下ろし、熱い湯呑みのフチを持ってお茶を飲む。猫舌の彼女はまだそれには口を付けず、卓袱台の真ん中に常備してあるカゴのなかからいつものお菓子を選びだし、ひとつ食べた。そうして今度は話すために口を開く。


「…友達にね、すごく美人なコがいるんです」

「前に言ってた、小学校からずっと一緒の?」

「うん、そう。…そのコがね、こんど、結婚するんだって」


 結婚。いま目の前に座るこのコには適齢期と言われているものだ。同級生がみんなヒトヅマになってっちゃうんです。奏は嬉しそうに話していた。つい先日のことだ。

 それが今日は、同じことをこんなにも沈んだ目をして話す。ずっと一緒にいた友人だからだろうか。とくに仲がよかったからだろうか。それとも。


「何回か会ったことあるんです」

「その、旦那さんになるひとにですか?」

「はい。そのひと、すごく変なひとで。彼女が噴水キレイだねって言うと、噴水の歴史から語りはじめちゃうんです。そんなこと訊いてないのに。でも彼女、すごく楽しそうで」


 幸せそうに、聞いてて。そう言ったきり黙り込んでしまった彼女は、菓子の包み紙を小さく丸めてごみ箱に捨てる。その手には力がない。

 奏の言う“彼女”は、小学校のとき人見知りだった奏の手を引き外へと連れ出してくれた救世主らしい。遊んでいるうちに、いつのまにかたくさんの友達ができて。そのときからずっと彼女は自分にとって一番なのだと、奏は嬉しそうに語ってくれた。

 その彼女が、だれかのものになる。変人だとか、そんなのはきっと何の関係もない。彼女が自分ではない誰かと外の世界へ行ってしまう。それが奏は、こわいのだ。


 机の上で力なく握られた手を、おどろかさないようにゆっくりと包み込む。顔を上げた彼女の眼鏡が少しだけずり落ちていた。笑って自分の目元を示してやると、気付いた彼女は照れ臭そうにそれを直す。

 きっとこのまま時は進んで、奏の想いは届かないまま其の人はドレスを着るのであろう。奏は泣いて、明るい彼女は奏を抱き留める。きらめく涙を目にためて。


「お茶、もう熱くないですよ」


 元の位置に戻った眼鏡の奥で急にハッと驚いた顔をして、俯きがちに眼鏡を外し、しずかに静かに泣きはじめた彼女に一言教えてやると、開け放した窓から雨の香りが入り込んできた。








ジューンブライド
(どうか君が、しあわせに笑えますように)

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