人、それも立派な成人男性の重みというものは、けっこうなものであるらしい。

 上半身を完全に預けてくるそのひとを、ゆるく受け止めながら考える。


 明らかに膨らみの足りないそこを何の厭味か避けて、彼の頭はわたしの顔の真横。普段隠しているだけで実はたくましい腕を背中に回し、ふかく、呼吸をする。

 静かに伝わってくるその心音に、落ち着いてしまうのは、どうしてなのか。赤子のような気分。赤子のときの記憶なんてないけれど。


 おそらく意味などないのだろう。名前を呼ばれて、返事を返す。背中を手がこすり、わたしも彼の背に回した腕をゆるりと上下させる。広い背中に、浮き出る背骨。


「イヅルくん、ちゃんと食べてる?」

「昨日?」

「昨日だけじゃなくて、毎日」

「…うん」


 食べてないな。きっと栄養と名のつく薬を飲めばすべての栄養が摂取できるとでも思っているのだろう近くの男に、あからさまな溜息を聞かせる。これだけで反省をしてくれるはずもないけれど、一応。


「だめだよ。ただでさえ働きすぎで、」


 肩口に埋められていた顔がもそりと離れて、なにか不味いことを言ってしまったのかと思ったら、背中に残っていた腕で強く引き寄せられる。

 私が彼を支えていた先程までとは反対に、今度は彼が私を抱きしめる状態。その力の入れ方は、依然としてゆるいまま。


 額のあたりで、心臓が鼓動しているのが分かる。一般的な成人女性である私の重みは、果たして如何ほどであろうか。それほどに身体を預けることは、わたしにはできていないけれど。


 弱いね、とわらう。ごめんね、と謝る。イヅルくんは、強い。今現在の彼のように、他人にすこしでも重たい何かを預けることのできる人間というものは、強いのだ。



 わたしをまるで抱え込むように丸くなった彼が、また一度だけ名前を呼んだ。

 そっとこすった背にはやっぱり、骨が浮いている。










(きみが、きみだけであるはずがないんだ)

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