120パーセント、あいつのせいだ。あとで殴るぜってー殴る土下座させる。深い穴掘らせてそのなかで字のままの土下座をさせてやる。

 苛立ちから段々ふるえてきた指で、忙しなく呪いのメールを打つ。無視されていることに気付いていないのかもうあとがないのかは知らないが、画面を覗き込んでくる下衆なお方は意識からシャットアウト。迷惑という言葉を知りもしない連中はシャッターに挟まれてくたばってしまえ。


 そもそも、あいつが悪い。古市。まずおまえがくたばれ。メールの最中に偶然近くにいることが判って会うことになって、女の子を歩かせるのは男として失格だからオレが貴女のもとに馳せ参じますなんて言っておいて。結局コレか。間接的ではあれど女の子に不快な思いをさせるのは男としてどーなんだ。まあこれは完全なる八つ当たりだけれど。


 いい加減に耐え兼ねて歩き出してみるが、やはり状況変わらず。ドコのナニを触ってきたかも知れない手がとうとう髪に触れたところで何かが切れ、反射的に袖から武器を取り出そうとしたその瞬間、散々聞かされてきたふざけた話し方に少し似た調子でようやく助けが入った。

 溜め息混じりに振り返って、おもわず目を疑う。


「すみません、その子オレの連れなんで」


 手、離してもらえませんか。いつになく強気な発言をした古市には、普段とは掛け離れた迫力があって。

 前髪を上げただけでこうも変わるものなんだなあとボンヤリ見ていた先で、古市がこちらを向いた。おいこらイイ顔すんな古市むかつくな。さっきちょっとだけカッコイイとか思った私くたばれ。古市とナンパ野郎の次にくたばれ。


 しかしまあ、オールバックにしようが目つきや言葉を鋭くしようがそこはやはり古市。ちゃらちゃらした不良連中を怯ませることなどできるはずもなく、気付いたときにはスミマセンでしたー!と情けない叫びを響かせた古市に手を掴まれて走っていた。


 残念ながらビシッと決まったところを見たことがないけれど、逃げ足だけは確かに早い古市が私を気遣いながら走る。不良やら一般人やら子供やらごはん君やらのあいだをすり抜けて、見えた角はすべて曲がって、前へ前へ。

 人にぶつかりそうになるたびスミマセン!と叫ぶのがなんだかやけに楽しくて、肌を掠め髪を揺らす風が気持ちよくて。不機嫌を極めていたはずの口から、思わず笑いがこぼれた。そのままで、名前を呼ぶ。


「ふーるいち〜」

「ん、どしたー?」

「あとで土下座ネ」

「なんで!?」

「なんでも♪」


 こっちが振り払おうと思えば簡単に振り払える強さで、遠慮がちに。繋がれた手は先ほど触れたものとは違い、ちっとも不快ではない。その理由なんてとっくに認めているし、今更それに抵抗するのも億劫なのだけれど。

 だからといって敢えて口にするのも何なのでとりあえず、うしろのお兄さんたちがもうとっくの昔に鬼ごっこに飽きていることを教えるのは、もうすこしこのまま走り続けてからにしようか。









120214

(え、うそ何で!?助けに来たよねオレ!)
(アレで本当に助けに来たと言えるのか古市よ)
(う。…でもマジな話、ちょっとカッコイイとか思わなかった?)
(……残念)
(残念って!ひでえ!)
(はいはい、いーから行くよ〜)


なんだかんだ言って。

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